「子どもの頃は、ファストフードやカップラーメンの類って一切、食べさせてもらえなかったんですよ」

 深夜のファミリーレストランで、河野やよいさん(仮名、30歳)が自らの食遍歴を語る。もものあたりがすり切れたジーンズの短パンにTシャツを重ね着し、ドクロの指輪をはめている。高校生の頃はパンクファッションにあこがれ、ブレザーの制服にモヒカン頭で学校に通ったこともあるそうだ。

「反動からか、東京に出て一人暮らしを始めてからジャンクフードばかりを食べるようになりまして。それもある時から、食生活の8割はコンビニのおにぎりに」

「それはまた、どうして?」

「アニメ業界に入ったからなんです」

 アニメ―ションの制作会社は企画から制作までを手がける「元請け」と、そこから仕事を請け負う「下請け」に分かれている。河野さんが最初に入ったのは「下請け」の会社だった。

「そこはどうやって見つけたんですか?」

「アルバイト情報誌を見て」

 業界では、「絵を画く人(原画マン・動画マン)」「色を塗る人(色指定・色つけ)」「撮影をする人」など様々なクリエーターたちが働いている。こうしたクリエーターを管理し、期日通りに作品を仕上げられるよう、スケジュールを調整するのがおもな仕事だった。

 勤務時間は午前11時から午後5時まで、と書いてあった。ミュージシャンになることを夢見て上京し、深夜から早朝までベースとヴォーカルの練習を続けていた河野さんには、ちょうどいいアルバイトに思えた。

「けど、えらいだまされましたね」

「だまされた?」

「勤務初日からいきなり3日間、まったく家に帰れなかったんです」

 出社すると、みな心なしか青ざめた表情で右へ左へと忙しそうに駆け回っている。仕事の説明は一切なく、最初はわけもわからず電話番をするしかなかった。

「それが、請求の電話ばっかりかかってくるんですよ。しかも、相手はえらい剣幕だし」

 よくよく観察していると、社員は毎日せっせと社内のホワイトボードに名前を書いているようでもあった。事情は、こういうことだった。

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