アニメに特化した「声優アーティスト」を募集するホリプロタレントスカウトキャラバン、その真意を徹底インタビュー
芸能事務所のホリプロが主催する「ホリプロタレントスカウトキャラバン」は、深田恭子や石原さとみといった人材を発掘してきた、アイドル・女優の登竜門的オーディション。ところが今年の募集テーマは、これまでと180度異なる「声優アーティスト」というもので、アニメ業界に打って出ようとするかのような、その方向転換ぶりが話題を呼んでいます。そこで、なぜ今アニメに特化したテーマを設定したのか、ホリプロ本社に行ってその真意を直接聞いてきました。
今あえてアニメ業界に挑む理由について、とことん聞いてきたインタビューの全容については以下から。第36回 ホリプロタレントスカウトキャラバン
ホリプロ本社に到着。
ホリプロとその関連企業の名前がずらりと書かれたガラスの看板。
隣接した2つのビルがホリプロの社屋なのですが、受付があるのはこちらの棟。
受付は白が基調でスッキリした印象。
今回インタビューしたのは、「第36回 ホリプロタレントスカウトキャラバン」実行委員長の金成雄文さん。普段は山瀬まみさんとAKB48(板野友美、河西智美、宮崎美穂、佐藤すみれ、仁藤萌乃、石田晴香)のマネージャーを担当しています。
金成さんと「第36回 ホリプロタレントスカウトキャラバン」の公式Twitterアカウントの更新を行っている金井塚元さんにも同席してもらい、話を聞いていきます。
GIGAZINE(以下、G):
女性声優アーティストの募集を掲げた「第36回 ホリプロタレントスカウトキャラバン」は4月1日から応募受付が始まっていて、2ヶ月以上経過していますが、およそ何通ぐらいの応募がありましたか?
金成雄文さん(以下、金成):
細かい途中経過を正確に測ってはいないのですが、例年よりもちょっと少なめかもしれません。まず例年とはがらりと募集テーマを変えてアニメに特化していることも関係しているかもしれませんが、震災の影響があって東北地方からの応募がほとんど集まっていないという状況もあります。
また、「声優アーティスト」募集ということで、応募要項に声素材を必須条件として記載したこともあるかもしれません。例年はそういった条件を課していないので、自分の声を録音するという部分でちょっと応募のハードルが高くなっている部分もあるのかなとは思います。
G:
オーディションの応募は郵送、PCサイト、携帯サイト、JOYSOUNDの「うたスキ動画」と4種類の応募方法を用意されていますが、どの形態での応募が多いですか?
金成:
今のところ「うたスキ動画」を使った応募が多いですね。
オーディションの対象年齢が12才から22才ということもあるのかもしれません。12才とか13才の時って、僕の感覚から言っても自分の声をパソコンで録音する方法を知っている人って少ないと思うんです。でも、カラオケに行ってJOYSOUNDさんのサービスを使うとすごく簡単に録音できるんですよ。加えて音質も非常にいいので、どの応募方法がいいかと言われたら、「うたスキ動画」をオススメさせてもらっています。
そんなこともあって利用してくださる応募者も多く、ご要望も多かったので、先日「うたスキ動画」を使った応募期間を6月19日まで延長しました。
「うたスキ動画」を使った応募はこんな感じで行います。
YouTube - 宮崎美穂がレクチャー!「うたスキ動画」応募方法!!
G:
「うたスキ動画」での応募のみ履歴書の提出は不要で、通過した人のみ書類送付依頼の連絡が行くという仕組みになっていて、応募者の手間は簡便化されていますが、その一方で選考サイドの手間は増えているということはないのでしょうか。
金成:
それがむしろすごく楽しくてですね、カラオケで同じ部屋にいるような感覚で映像を見ることができるんです。みんな個性がすごく出てるので、選考の方も楽しくやっています。
選考中の様子。こうして複数人で動画を見ています。
G:
例年のオーディション通り年齢制限を設けた募集となっていますが、何歳くらいの方の応募が多いのでしょうか?
金成:
17才から上の年代の人からの応募が現段階では多いです。
もちろん13歳〜15歳の人たちも応募してきてくれているのですが、先ほども言ったように音素材の用意が年齢が低めの人たちにとってネックとなっているように思いますので、応募してもらいやすい方法を模索しながらやっていく中で、「うたスキ動画」を推進しているという面もあります。
G:
ところで、金成さんは以前から「ホリプロタレントスカウトキャラバン」の審査に関わってこられたのでしょうか??
金成:
「ホリプロタレントスカウトキャラバン」は毎年開催していまして、その審査委員は社内のさまざまな部署から20人ぐらい集まって結成しているのですが、それに自分も選ばれた時がありました。
ただ、今回僕が務めることになった委員長というのは、ホリプロに在籍している中で一生に一度しかできなかったりする重要なポジションなので、力を入れてやっていきたいと思っています。
G:
「声優アーティスト」という応募テーマは、これまでの「ホリプロタレントスカウトキャラバン」にはなかった分野ですが、応募者の傾向はこれまでのオーディションと異なりますか?
金成:
例年通りのような形で応募してきている方もいらっしゃいますが、やはりこれだけテーマを特化しているので、「本当にアニメが大好き、声優が大好き」という気持ちの強い人が多いです。それは声素材の入れ方もそうですし、履歴書などの応募書類の作りこみ方みたいなところを含めて、ジャンルに特化した気持ちを持った人たちが来ているのはよく分かりますね。
G:
これからロサンゼルスでもオーディションの説明会が行われますが、現状で外国籍の方や日本在住の外国の方からの応募はありますか?
金成:
まだロサンゼルスでの動きが始まったばっかりで、説明会もこれから開催する段階なので、実質的な応募は来てない状況です。
とはいえ、ホリプロのロス支社には結構問い合わせが来ていたと聞いています。そんな状態なので、説明会などを通じて応募が集まるかもしれないと思っています。アメリカには日系人の方とかも多くいらっしゃるので、そういったところに向けての発信も必要だろうな、と。
弊社所属の歌手にMay'nがいますけれども、彼女もよくアメリカでのライブに参加したりするので、親和性もあるのではないかと思っています。
これが今回のチラシとポスター。May'nさんの写真が使われています。
G:
「ホリプロタレントスカウトキャラバン」はその歴史からアイドルの登竜門というイメージが強いですが、今回は容姿は審査の上で第一条件ではなく、例年は必ずあった水着審査もなくなり、ホリプロのこれまでのオーディションとは多く内容とは異なるという話もありますが、審査内容について、現段階で決まっている範囲でお教えいただけますでしょうか。
金成:
正直なところ、まだ細部まで決まってはいないんです。審査する上での基準や優先順位というところが例年と異なるといいますか。
最近の声優さんの活動範囲が非常に多岐にわたって広がっているという現状もありますので、ビジュアルを審査の上で全く無視するということではないんですけれども、一番重要なポイントはやはり「声」ですね。
例年ですと地方予選の会場で自己紹介プラス自己PRをするという流れになったりするんですが、今回の募集テーマで、その場で急にブリッジをされても、多分審査ができないと言いますか。その子のキャラクターはわかるんですけれども。
G:
まず、今までは一発芸でブリッジをするということもあったんですね。
金成:
歌う子も入れば、一発芸やる子もいるし、モノマネやる人もいれば……という中で、ブリッジをする人もいたということですね。
キャラクターも重要ですが、今回は声を重視したいので、書類審査の段階でも声を送ってもらっていますが、実際に会って声を聞いてみるとまた違ってくると思うので、生での声を聞きたいです。
G:
では、例えばその場でセリフを読んだりする形になるのでしょうか?
金成:
そうですね。ナレーションなのか朗読なのか歌なのかセリフなのかは分かりませんが、その人が一番自信あるものをやっていただく可能性が高いです。
G:
過去のオーディションの結果を見ると、基本的にグランプリの人が大々的にデビューしている中で、特別賞などに残った方もいらっしゃいますが、今回はグランプリの方をソロアーティストとしてデビューさせることのみを前提しているのでしょうか。それとも、上位入賞者の方にも今までのように「特別賞」などの形でチャンスがあるのでしょうか?
金成:
もちろんチャンスはあるんですが、まずはグランプリの1人。何とかして1番の人を探したいです。グランプリの方はランティスさんからデビューしていただくところまでは決まっています。
ただ、今回のTSCだけでなく、今後ホリプロとして長期的にアニメ業界に携わっていきたいと思っておりますので、やっぱりそこは(アニメ関連の人材の層を)厚くしていきたいっていう気持ちはあります。グランプリ以外の方についても弊社に所属してもらう可能性はありますが、どういう形で取るかというのは、オーディションに勝ち残った人たち次第です。
G:
先日、二次予選となる地方予選の下見として仙台を訪れたそうですが、東北地方の地方予選の舞台を震災の被害が大きかった仙台を選んだということで、復興支援のようなことを絡めて行う予定などはあるのでしょうか?
金成:
仙台は例年地方予選の舞台の1つに入っている土地で、今回も東北地方は仙台で予選を行うことにしました。ただ、地震の被害が起きてしまったこともあって一度現地に赴いて状況を見ておかないといけないと思っていたんです。この辺りはちょっと繊細な問題になると思うのですが、仙台市内では非常に復興に向けて頑張っていて、駅にも大きく「頑張ろう」というメッセージが掲示されていました。
改装中、改築中のビルもたくさんあったんですけれども、仙台の街自体は確実に復興に向かっている状況です。ただ東北のほかの地域に住むみなさんや、それ以外の都道府県のみなさんもそういった状況はあまり知らないとおもうんです。テレビなどでは特に被害がおおきかった状況をよく目にするもので、「仙台で予選を開催するのは怖い」というような印象もあるかもしれません。
もちろん、市内からちょっと足を伸ばしただけですごく被害の大きい地域もあって、そこも見てきました。でも、復興に向けて頑張っている現状を見て、オーディションを開催することで人を集めたり、そういう現状を世の中にお伝えするお手伝いに少しでもなるのであれば、会場も使用できる状態でしたので、そこに人を集めていきたいと思います。
G:
突然軽い質問になってしまうのですが、公式Twitterアカウントで銀魂の中でも長谷川が好きだとツイートされていましたね。
金成:
あ、知り合いで好きな人がなかなかいなくてですね。アニメイトさんにもグッズがなくて、それが悲しくて、ちょっと呟いてみたんですけども(笑)
G:
今後声優アーティストをプロモーションするにあたって注目している作品などあれば教えていただけますか?
金成:
個別の作品というよりも、アニメ業界の現状として、TVアニメの本数って年々減ってきているんです。ただ、ビジネスモデルが変わってきていて、年々劇場版のアニメが増えてきているんですよ。例えばスタジオジブリやディズニーは依然ありますが、それ以外のもの、例えば今公開されている新海誠さんの「星を追う子供」などの長編アニメがどんどん出てきていて、盛り上がってきているっていう状況には、期待できる要素もまだまだ絶対あるなと思っています。そういった意味で、劇場版アニメにもすごく注目しています。
G:
なるほど。特定の作品ではなく、劇場版アニメ全般ということですね。
金成:
はい。劇場まで足を運んで、大きなスクリーンで見たいって思わせるアニメってすごいなって。そしてそこにおける声優さんの役割って特に大きいなって思っていまして。
G:
劇場版のアニメと言いますと、「星を追う子供」のような劇場単発系の物と、TVアニメで人気があったものを劇場化するという物がありますが、今後、ホリプロで「声優アーティスト」をプロモーションするにあたり、どちらの方向性で攻めていこうかという戦略はりますか?
金成:
特にそういった区別は考えていなくて、全包囲網的にやっていきたいです。声の仕事に関しては前向きに取り組んでいきたいといいますか、そこで制限はあんまりしたくないな、と。
G:
ところで金成さん自身が最近、個人的に面白かったと感じたアニメは何かありますか?
金成:
今テレビでやっている「デッドマン・ワンダーランド」は大好きですね。ほかには……何だろう、「NARUTO-ナルト-」、「ONE PIECE」、「BLEACH」なんかも見ますね。あ、もちろん銀魂も。
G:
週刊少年ジャンプ原作のアニメが中心ですね。
金成:
それ以外だと「まりあ†ほりっく あらいぶ」や「青の祓魔師」だとか、「緋弾のアリア」も見ています。「緋弾のアリア」はMay'nが主題歌を歌わせていただいていることもあって、注目していますね。
あとこれは番組を見ている中で、ヒャダインさんが歌っている日常のオープニングがずっと頭の中に残っているような状態です。なかなかタイトルがちゃんと言えないんですけど。カカカ……カタタオモイ?
G:
声に出して言うのが難しいタイトルですよね。
金成:
そうなんですよ、でも今回のオーディションには、ヒャダインさんの曲の発売元でもあるランティスさんが関わってくださっているので、斎藤さんに「(声に出してうまく)言えないですよ」、と直接伝えてみたりしてます(笑)
ヒャダインさんにはこれまでにAKB48や大島麻衣などにも楽曲提供をして頂いたりしているので、実はゆかりがありますね。
G:
もし縁があればヒャダインさんに楽曲制作を依頼することもあり得ますか?
金成:
もちろん、あると思います!
G:
お話を伺っているとかなりアニメを見ておられるようなのですが、今回のオーディションとは関係なく、アニメを見るのが趣味ということなのでしょうか。
金成:
もともと子どもの頃からアニメは好きでしたが、これまでは仕事目線で見たことがあまりなくて。本当に趣味の一環として見ていただけだったので、仕事の視点からも見ると、改めてそのすごさを実感しています。
G:
例えば、どんなところからアニメのすごさを感じられたのでしょうか?
金成:
やっぱり、「マクロスF」という作品の存在が一番大きいですね。普通に見ても「ああ、いいな」って思える作品ですけど、仕事の観点から見たときに、音楽とアニメの融合が素晴らしかったり、エンディングや挿入歌がシーンや回によって違ったりとか、そういう効果的な演出など含めて最高峰のレベルだと思うんです。
それを感じ取った上でライブに行くと、お客さんの一体感やパワーには尋常じゃないものがあって、こういったものを発信できる側になれないか、と思ったのが、今回のオーディションを開催するにあたって、「声優アーティスト」を募集するに至った入り口とも言えます。
G:
「ホリプロタレントスカウトキャラバン」は募集テーマを変えつつも一貫して「アイドル」を産み出してきたオーディションですが、今回、過去の歴史と比べてかなり路線が異なる「声優アーティスト」というカテゴリの人材を募集するに至ったきっかけをお聞かせ下さい。
芸能事務所としては老舗で多くの所属タレントを抱えるホリプロですが、純粋にアニメのシーンで活躍している所属タレントはMay'nさんと、うる星やつらのラムちゃん役などで知られる声優の平野文さんの2名のみで、あまり強いとは言えない分野にあえて今打って出る理由は何なのでしょうか。
金成:
昨年、ホリプロが50周年を迎えたということが、もしかしたらすごく大きく関係しているかなと思っています。これまでの50年は、今までの王道アイドルや女優をマネジメントすることで、業界で生き延びてきたというか、会社として成立していたところがありました。
しかし今後も会社を存続させていくにあたって、新たな業界に挑戦していくという姿勢がないと、多分この先もう50年生き残っていくのはとても厳しいだろうなと。そういう時期にちょうど「マクロスF」に出会ったんですね。
それから、社内で弱いところは何か 、少しかじっただけですべてを知ったような空気になってる部分はないかと、そういうことを考えた時、まず「アニメ」が真っ先に浮かんだんです。
例えば、タレントや俳優、女優が劇場版アニメの役をやらせていただくことについては、お声がけしていただくことはあるんです。けれども、僕がAKB48のタレントをマネジメントする中で、テレビアニメのオーディションを受けに行ってもまったく受からないんですよ。レベルが違うといいますか、オーディション現場に行くと「ああ、こんなに違ってしまうのか」という現実を目の当たりにしますし、しかも受けられるオーディションの数も少なくて。そもそもお声がかからないですし、オーディション自体を探してくるのも大変です。
G:
「タレントの方がアニメのアフレコに参加する」というプロモーションはよく見かけるので、少し意外ですね。
金成:
そういう配役は劇場版アニメによく見られる施策で、テレビで活躍しているようなタレントさん、俳優さんを声のキャストに入れる場合が多くあります。それはそれでいいと思いますが、この手法がテレビアニメで使われる事例はほとんどないんですね。というのも、テレビアニメは毎週オンエアされるもので、そこで本職の声優さんとの絡みを長期的に見ていくと、どうしても声の質や演技の違いで浮いてしまうんです。
2008年に放映されたノイタミナ枠の「西洋骨董洋菓子店〜アンティーク〜」では、弊社所属のAKB48メンバー・河西智美をゲスト出演させていただいたことがあるんですが、その時は本当に苦労しました。それでも苦戦の末、結構いいところまで頑張れたかなと思っていたんですが、オンエアを見てみると、それでもやっぱり演技に違いが見えてしまって。それで河西と二人で声優の奥深さや難しさを改めて痛感したのをよく覚えています。
演技の根本が何かしら違うんじゃないかと思うんです。もちろんアフレコが上手な俳優さんもたくさんいらっしゃいますが、一概に「俳優さんイコール声優ができる」ってことではないと思いますし。特にアイドルやタレントが挑戦するとなると、またハードルが高くなってしまうといいますか。演技の勉強にプラスして、違う声の演技の技術が必要になってしまうので、決して片手間でやっていけるものではないですね。
そんな状況もあって、アニメに対して正式にうちの会社として向きあうためには、どういった発信の仕方が最も伝わるかなと思った時に、基幹事業であるスカウトキャラバンのテーマをアニメに特化するというのが、一番潔いのではないかと考えたんです。
社内で小さくプロジェクトを立ち上げて、ある程度の目利きとかスタッフの人脈ができたら大々的に打ち出すという考え方ももちろんあると思うんですけど、僕はそういったやり方では中途半端になってしまう、上手くいかなかったらやめるってこともできるんじゃないかなみたいに思って。
そういう形ではなくて、「正式に(アニメ業界に)お邪魔したいんです」というスタンスを世の中に見てもらいたいんです。そしてスカウトキャラバンをきっかけに、アニメを扱うことのできる人脈だとか目利きできるスタッフっていうのを増やしていって、ゆくゆくはアニメの部署を作りたいとも思っていますし、業界を少しでも盛り上げていければいいとも思っています。
G:
なるほど。そんな中で、「声優」でも「アニメ歌手」でもなく、「声優アーティスト」という選考テーマに決定した決め手などはあるのでしょうか?
金成:
極端な話をすると、弊社には平野文という「声優」がいて、(アニメシーンでも活躍する)「アーティスト」としてはMay'nがいます。もちろん、平野文も歌っていた時期もありますので、正確にいうと「声優アーティスト」が不在というわけではないのですが、次世代を担う人の中で「声優」「アーティスト」両方の資質を兼ね備えた人は今のホリプロに存在しないと強く感じまして、まずはそこから勉強したいなと思ったのがきっかけかもしれません。
もちろん選考テーマを「声優」のみとすることもできたと思うのですが、キャラクターソングや歌だからこそ広がるパワーというのもあるだろうし、あまり選考段階で絞ってしまうのももったいないかなと。
舞台やミュージカル、ライブなど、デビュー後にどういう展開があるのかもまだ分からない状態ですから。それに、先ほどお話しした「マクロスF」のライブで感動した経験も大きいと思います。
G:
声優としてだけでなく、歌という領域についてもカバーできる方を求めているということですか?
金成:
そうですね。
ただ、「声優アーティスト」を第一に探したいと思いますが、声優に特化した人だとか、歌の部分を見て合格するという事は全然あり得ます
そういった部分に関してTwitter経由などで質問がちょこちょこ来ていて、「声は自信があるんですが、歌はちょっと……」とか、またその逆のパターンの子もいます。こちらとしては「心配しなくて大丈夫です。ぜひ送ってきてください!」っていうことを特に強く伝えたいですね。
G:
公式サイトの声明文にはアニメ分野では初心者だというスタンスで臨んでいるとありましたが、芸能事務所としては51年の歴史があって、たくさんのタレントさんを取得しているホリプロだからこそ、今回デビューするアーティストに与えることができると思う強みなどありますか?
金成:
うーん、なんですかね。これは多分、難しい部分なので言葉をかなり選ばないといけないと思うんですけれども、声優さんや今回募集する「声優アーティスト」という分野と、ホリプロが50年やってきた業界とは、全く違う業界だと言っても過言ではないと思うんです。
(ホリプロがアニメ業界に関わり始めることで)声優さんのポジションといいますか、そういった部分を少しでも向上できたらやっぱり嬉しいですし、アニメ業界という新たな業界を社内にしっかりと認識させることが大切だと思っています。認識違いがあると、間違った目線で取り組んでしまうこともあると思いますので。
やはり違う業界に入ったら「郷に入っては郷に従え」じゃないですけれども、ゼロから入りこんでいって、そして一番深いところに行きたいなって思っています。そしてホリプロがアニメ業界の深い部分に到達することによって、アニメ業界が少しでも上に、というと語弊があるかもしれませんが、よい方向に向かっていってほしい。
先ほど話したみたいに劇場版のアニメが増えてはいますが、一方でテレビアニメの本数は少なくなっていて、アニメ業界も必ずしも右肩上がりではないと思います。ただ、何か良い変化を起こすきっかけになればいいな、と。もっと声優さんの素晴らしさとか、声優アーティストの良さを、ホリプロという会社を通してもっと多くの人に知ってもらえたら、それはそれで意味のあることではないかと思いまして。
G:
確か声優業はかなりブレイクしないとそれ一本では食べていくことが難しい現状があるようですし、ホリプロとしては芸能事務所として給与をきちんとした形で払っているというお話もあって、やはり雇用の面は今後所属するであろう「声優アーティスト」やアニメ関係のタレントさんについても同様に保障されるということでしょうか。
金成:
はい、そうですね。ただ、テレビや映画といった分野も、制作費はどんどん下がっているんですよ。業界自体が黒字ではなくなってきているので。
G:
芸能界全体として(収益が)下がってきていると?
金成:
はい、広告の出稿量などはどんどん減ってますし、収益のタイプが変わってきていると思いますが、収益が上がり続けていることはないです。ただ、会社として僕らは所属タレントの人生を背負っているつもりでやっているので、声優アーティストが所属したら、他のタレント同様にきちんと二人三脚で頑張っていきたいと思っています。
G:
アニメ業界が抱えている「資金」という大きな問題に変化を与えられるかもしれないということでしょうか。
金成:
まだ先のことは分かりませんが、ホリプロが参入することによって、新たに(アニメ)に興味を持ってくれる会社や投資してくれる会社が増えたら嬉しいですし、それによってクオリティーの高いアニメが1つでも多く製作できたらそれは(業界にとって)プラスのことなのかなと。
ただ、目利きができる人がそれをやらないと、間違ったところにお金をつぎ込んじゃって、視聴者の求めるところではない作品になってしまうのが一番怖いです。
今のホリプロの状況で動き出すと、多分そういう結果になってしまうと思うんですよね。だからそういった人材についても、今回スカウトキャラバン選考委員会を構成している17人のメンバーが勉強することによって、先々アニメの部署だとかプロジェクトチームっていうのができて、目利きができる人がどんどん増えていくのではないかと考えています。
G:
「ホリプロタレントスカウトキャラバン」で声優アーティストが募集されるという発表が行われた当初、いわゆる「芸能界のやり方」でタレントを売り出して、望まれないキャスティングや過剰な露出が行われるのではないかと不安視する声もあったのですが、そういったことは避けていく方向性なのでしょうか?
金成:
はい。従来のホリプロのやり方だと、今回のグランプリに大きな「特典」をつけちゃうと思うんですよね。
G:
特典というと?
金成:
例えば「アニメの主役」だとか「アニメの主題歌」など、そういう部分ありきで募集してしまうと思うんです。それ自体は非常に良いことだと思いますが、今回初心者であるホリプロがオーディションするにあたり、ゴールを先に作ってしまうことによって、そこに審査の基準を合わせてしまうこともよくないのではないかと思っています。
グランプリが決まった時点で、その子の力量はともかくとして、経験としてはゼロからのスタートで、そこからきちんと育成していくつもりなので、スタート地点ですでに役があるのはちょっと違うのではないかと思うんです。
グランプリになった後から学校に通ってきっちりレッスンを受けながら、スキルを上げていき、経験を積みながらいずれ目立つところにキャスティングしてもらえるように励んでいきたい……というスタンスを理解してほしいんです。
G:
なるほど。そういった姿勢の一部ではあると思うのですが、通常の業務をこなしながらTwitter経由で多くの応募希望者の質問に答えていらっしゃって、直接やり取りしていますよね。
金成:
Twitterは僕も書いてますし、もちろん全部見てますが、担当の金井塚が主に質問には答えてくれていますね。細かい部分について詳しく質問される方が多くて、それだけに真剣さが伝わってきます。
金井塚:
ナイーブになっているというのは言い過ぎかもしれませんが、いざ応募するとなると気が弱くなる部分があると思いますので、そういう子たちの背中をどう押していくか考えながら答えています。
金成:
多分、アニメが好きな子たちが、アニメのイメージがないホリプロのオーディションに応募してくるっていうのはなかなか心理的なハードルが高いことだと思うんですよ。それを少しでも和らげられたらいいなと。
G:
確かに、こういった募集の理由を知らなければ、今までのような水着審査があるのかもしれないと考えてしまうかもしれませんね。
金成:
そうですね。「水着審査あるのかな」「何か大喜利とかやるのかな」みたいに、不安になる部分はあるようです。
その子の人間性やキャラクターはもちろん重要ですし、何をやるのかはまだ分かりませんが、終始変わらず優先するのは声です。そこは趣旨がぶれないようにしていきたいなとは思ってます。
G:
なるほど。少し話がそれますが、「ホリプロタレントスカウトキャラバン」の選考過程は実際どのような流れになるのでしょうか。
金成:
基本的なスカウトキャラバンの流れですが、まず書類を募集して、地方予選を開いて、そこから選んだ子たちに合宿をしてもらって、その中から10人前後を選んで決勝を開催します。この流れは昔も今も変わっていません。今回は途中経過を伝えるために、ニコニコ動画を運営しているドワンゴさんやラジオの文化放送さんなどと組んで伝えていくといった試みも考えています。
昔はテレビのゴールデンタイムに全国ネットの2時間特番を組んで、オーケストラを呼んで、その前で候補者に歌ってもらって、グランプリが決まった瞬間にその子はすでに有名なスターになっている……という時もありました。しかしこのご時世ではなかなか難しく、スカウトキャラバンがテレビで放映される機会が減るに応じて世間からその様子が見えなくなってきてもいるんだとは思います。グランプリの発表について、情報番組やワイドショーとかで少しだけ見るみたいな感じになっていますから。
こうしてスカウトキャラバンがテレビで放映される機会が減ったことで、世間からその様子が見えなくなっているんだと思います。グランプリの発表について、情報番組やワイドショーとかで少し見るだけみたいな感じになっていますから。
G:
ちなみに、審査の流れの中にあった「合宿」というのは具体的にどういう審査を行うものなのでしょうか?
金成:
これまでは例えば、二泊三日とかで熱海の研修所に行って、発声練習や演技のレッスン、ウォーキングの練習などを集団で行います。
アクションをテーマにした募集テーマの時は、ワイヤーアクションの練習なんかもありました。それこそバラエティがテーマであれば、大喜利とかをみんなでやってみたりとか。
でも、そういった練習以外の部分も実は見ていて、バーベキューをやっている時やご飯を食べている時とか何気ない部分に人柄が見え隠れしたりするので、意外とそういう部分を見ている委員たちは多いと思います、って言っちゃったらダメですかね(笑)
G:
これまでのオーディション同様、グランプリは1名と設定されていますが、今人気の声優ユニットスフィアのように、グランプリや決勝進出者などからグループを結成してデビューさせる予定というのは現状あるのでしょうか?
金成:
まずは応募してきてくれた子たちを見てからじゃないと分からないですよね、正直。
2人組にしたらすごく面白いんじゃないかって思ったら組ませてやっていく方法もあるかもしれないし、まずメンバー1人を選んで、その相方のオーディションを来年にやってみようかだとか、そういうやり方もあるかもしれない。でも、まずはグランプリの1人を選びたいんです。
G:
なるほど。話は変わりますが、これまでもホリプロは数こそ少ないものの「カレイドスター」などのアニメ製作に関わっていますが、今後この声優アーティストの募集をきっかけに、アニメ製作への関わりも深めていく予定などはありますか?
金成:
先々にはそういうこともやっていけたらいいなとは思っているんですけれども、今の段階でそれをやってしまうと、やはり間違ってしまうだろうなって思うんですよね。
「カレイドスター」も、その当時僕は関わっていなかったので実情は分からないのですが、大森玲子(現在は相原玲という名前で活動)だとかあびる優といったタレントを声優として参加させてもらっていました。しかし、やはり、その仕事を本業にしてる人がいてこそだと思いますので、まずは声優、声優アーティスト、そして目利きのできるスタッフを増やしていきたいなと思っています。
G:
今回協力企業として複数の企業が挙がっていますが、これまでも協力関係にあったのでしょうか。
金成:
もちろんテレビ朝日さんや文化放送さんとはこれまでも番組を一緒に作らせていただいたりしていますけれども、ランティスさんについては今回がほとんど初めてですね。JOYSOUNDさんとも違った切り口の仕事では関わっていましたけれど、ここまでがっつりアニメに特化してということはなかったです。アニメイトさんやゲーマーズさんといったショップの方々とご一緒することもありませんでした。
G:
今回の選考テーマ「声優アーティスト」と呼んでもいいような声優というと、水樹奈々さんや坂本真綾さん、平野綾さんなどがすでにいて、金成さん自身も先日茅原実里さんのライブに行かれたということですが、そういった他事務所の声優アーティストについて、ライブに行ったりして調査しているのでしょうか?
金成:
いろいろな方のライブには行かせていただいています。特に今回のスカウトキャラバンの企画について始めからご相談させていただいているランティスさんのアーティストのライブに行くことが多いですね。アーティストによって全然ライブの色が違うといいますか、May'nとは盛り上がり方も盛り上げ方も違ったりするので、すごく参考になります。
G:
特に印象に残ったアーティストのライブは?
金成:
茅原実里さんでしょうか。去年は武道館ライブ、今年はZepp系のライブハウスでのツアー「Minori Chihara Live Tour 2011 〜Key for Defection〜」を見させていただきました。
ファン同士が非常に仲がいい感じが印象的でした。一階席と二階席のファンが終演後に労り合ったりする姿を見て、「いいな」と思っていました。
仕事柄、アイドルの現場に行くことも多いのですが、茅原さんのライブではサイリウムの色が曲によって瞬時に会場中変わったりだとか、振付やコールの息がぴったりで感動しました。そういうところはアイドルのライブも似ているんですが、何かその一体感というのがずっと冷めやらないと言いますか、やっぱりパワーがありました。
G:
今回のスカウトキャラバンの審査委員会は、全員社内の方で構成されているのでしょうか。
金成:
基本の構成員は社内の人間で、人数は17人ですか。それにプラスして、今回はランティスさんから、斉藤さんを始めとして何人かの方に定例会議や選考会議にも参加していただいています。あと、モディファイさんやグランドデザイン&カンパニーさんなどの企業の方に、会議に参加してもらっています。
G:
やはりアニメ関係に強いランティスさんの意見などを聞きながらという形ですか?
金成:
はい、もうたくさん意見を聞かせていただいてます。「師匠ー!」って呼びたい感じですね(笑)あと何よりも弊社にMay'nがいてくれた事がやはり何よりも大きいです。募集する時の説得力も、やっぱりいるといないのでは大違いだと思います。
G:
ということは、May'nさんの活躍によって、今回の声優アーティストのオーディションに繋がった部分はかなり大きいと言えそうですね。
金成:
「ホリプロってアニメのイメージはないかもしれない。だけどMay'nが所属している」ということをファンの皆さんは知っていたりするので。やっぱり「May'nに続こう!」という意気込みの応募者はたくさんいらっしゃいます。
G:
ただ、先ほどからのお話を踏まえると、だからといって応募する人がMay'nさんのような歌い方を意識する必要はないですよね。
金成:
それはまったくなく、人それぞれの個性が大事だと思っております。逆に僕が一番怖いのは、ホリプロという会社全体が、「マクロスF」におけるMay'nのブレイク、「オリコンのランキング」だとか「武道館のライブチケットが即完売」といった現象だけを見て、May'nやそのマネージャーがいかに努力し、社内で孤軍奮闘しながら頑張ってきたかを見ずに「アニメに力を入れていったらいい」と思っている人が少なからずいるかもしれない、というところですね。
これは数少ない成功例といいますか、こんな売り方をみんながみんなできるわけが絶対にないですし、こういった波に乗れない人たちもたくさんいるという事実を知らなくてはいけない。なのに、そういった背景を知らない状態でどこかアニメ関連企業に投資したりだとか、アニメの製作委員会に入るとか、そういうことに手を出してしまうときっと大間違いを犯してしまうと思ったんです。
G:
確かに、安易に「第2のMay'nさん」「第3のMay'nさん」という風に狙っていくのは難しそうですね。
金成:
ええ。「マクロス」というのがものすごいキラーコンテンツで、そういったチャンスをつかみ取れる人って本当に数少ないと思います。
G:
「当てにいく」というよりは、「一から作り上げていく」という形ですか?
金成:
そうですね。ホリプロも今でこそお笑いや多くの舞台の製作に関わっていますが、昔はまったく着手していなくて、参入する時にはやはりすごく叩かれたりしたみたいなんですね。そういう感覚と、今回のスカウトキャラバンはもしかしたら似ているのかも知れません。「新しいジャンルに対して勉強していきます」というスタンスは、多分ホリプロとしては今後も変わらないと思うんですよ。
G:
応募要項に「好きな声優」を問う項目がありましたが、どのような声優さんの名前が多く挙がっていますか?
金成:
実は、書いてきてくれる人は1人ではなく、たくさん書いてきてくれるんですよ(笑)その気持ちは十分わかりますが、「結局誰が一番好きなのかな」って思ったりする事もあります。もちろん1人に絞る必要なんて全くないんですが(笑)
ただ、多く挙がるのは水樹奈々さんや茅原実里さん、釘宮理恵さん、平野綾さん、豊崎愛生さんでしょうか。あと男性の声優さんを挙げる人もすごく多いです。
G:
例えば?
金成:
小野大輔さんとか、神谷浩史さん、あと岡本信彦さん。岡本さんは僕がファンなのもあります(笑)それから杉田智和さんや福山潤さん、三木眞一郎さん、下野紘さんの名前が頻繁に挙がっています。
G:
男性声優さんの名前も書いてくるのですね。
金成:
実際、男性からの応募もあったりはします。(今回の審査対象は女性だという応募要項を)読んだ上で送ってきてくれていますね(笑)
G:
男性からの応募は結構な数なのでしょうか。
金成:
はい、僕らも楽しいのでつい全部見ちゃっていますが、結構たくさん来ていますね(笑)
G:
もしあまりにも面白かったら審査に残ったりすることは……?
金成:
いえ、今回に関してはテーマが女性の声優アーティストですので残念ながらないですね(笑)。ただ来年以降はもしかしたら男性のオーディションっていうのも可能性としては全然あり得ると思います。
G:
最後に、GIGAZINEの読者に向けて一言お願いします。
金成:
スカウトキャラバン自体は35年の歴史がありますが、今回の「声優アーティスト」というのは本当に初めての試みで、応募者からしてみればホリプロはアニメのイメージっていうのがないし、声優アーティストをほんとに作り上げられるのかっていう不安もあって、応募しづらい環境があると思います。
しかし、僕らは誠実に真摯にアニメと向き合って取り組んでいきたいと思っていて、長期的な視点で考えていますので、この気持ちに賛同してくれて、アニメが大好きで、声優になりたくて、それを僕らと一緒に生業にしたいって思っているみなさま、迷わず是非送ってきてください!待ってます!
G:
ありがとうございました。
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