「子どもたちと一緒に宇宙を旅している気分で見て欲しい」、映画「宇宙ショーへようこそ」の監督&プロデューサーが徳島で語る
©A-1 Pictures/「宇宙ショーへようこそ」製作委員会
1月22日から2月6日の2週間強にわたって繰り広げた「マチ★アソビ vol.5」。その中で、目玉の一つとして行われたのが「アニメプレミアム上映」です。
テレビアニメ、OVA、劇場アニメなど全9作品を入場無料の大型スクリーンで上映するというもので、しかも作品によっては制作スタッフによる生オーディオコメンタリーが聞けたり、さらに上映中にTwitterでつぶやくことがOKだったりと、普通のイベント上映とは違う面白い試み。
詳細は以下から。
宇宙ショーへようこそ
http://www.uchushow.net/
まずは映画上映前の挨拶から。
舛成孝二監督(以下、舛成):
徳島は初めてですが、ホールを使って上映できるのはうれしいなと思っています。ゆっくり楽しんで下さい。この映画は肩の力を抜いてから見ていただくのが一番いいのかなと。子どもたちによる夏の冒険もので、ちょっと今の季節とは合いませんが(笑)、映画を見てホットな気持ちになっていただければいいなと思っています。
A-1 Pictures 落越友則プロデューサー(以下、落越):
去年の6月に公開した作品ですが、徳島の方にこういう形で呼んでいただきありがとうございます。一人でも多くの方に見ていただきたいと思っていますので、2時間16分ありますけれどじっくりと見ていただければなと思います。お楽しみ下さい。
アニプレックス 野村信介さん(以下、野村):
宣伝をさせていただきますと、2月9日にブルーレイとDVDが発売になりますので、上映後にはお二人にその辺りの話を突っ込んで聞いて見ようと思います。それではお楽しみ下さいませ。
ということで、2時間16分の上映が行われた後、3名によるトークショーが行われました。
舛成:
2時間16分という長い映画をよく我慢して見てくれたなぁということで、本当にありがとうございます。この映画は子どもたちといっしょに旅をするという体で作っている映画なので、見ている時には自分が旅をしているという感じを味わってもらえるとすごくいいなあと思います。見終わった後の感想はそれぞれ違うと思うんですよ。旅先で何に心が動いたのかが違うように、この映画は見た人によって全然違う感想を持ちます。それを友達と話してもらえればうれしいです。自分と違う価値観を共有していくということをやってもらえれば、この映画でやりたかった事が完成するのかなと。それがうまく伝わればいいなと思います。
落越:
A-1 Picturesというこの映画を作ったスタジオを2006年の2月に立ち上げることになりまして、「まずは作品がないと話にならない」と思っていたら3月くらいに舛成監督に「いっしょにやりましょうよ」と声をかけたのが話の発端でした。おととしの秋に映画は完成しましたが、2011年になっても皆さんに見ていただいて拍手ももらえていることが非常にうれしいなと思っています。作品を見ていただいた方には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
野村:
舛成さんに聞きたいのですが、一番作画枚数が多かったシーンはどこでしょう?
舛成:
いきなり枚数の話ですか(笑) シーンだと枚数をはじき出せないのですが、1カット単位で一番枚数が多いのは超新星爆発のカットですね。宇宙祭りの光のエフェクトがたしか1200枚くらいです。昔の30分アニメだったら三分の一くらいの枚数です。カット数は本編で1664あって、モニターカットとかを入れると1850とか。普通の劇場アニメだと90分でだいたい1200カットくらいですかね。
舛成さんの話に出てきた「宇宙祭り」のあたり。ここではサイト上で表示するためにサイズを落としているので、Blu-rayであればフルHDでエフェクトのすごさを実感できるはず。
野村:
もう一回作りたいと思いますか?
舛成:
嫌です、つらい(笑)
落越:
僕も監督も映画を作るのは初めてで、大変だとは知っていましたが、こんなことになるとはという。途中では引き下がれないので、もうやるしかないとなって出来上がりました。大体想像の二倍ぐらいの量になりましたね。当初は動画枚数を7万枚くらいの規模で行こうと話していましたが、結局14万枚まで行きました。宇宙人のモブはほとんどCGで作られてますが。同じ事はもうできないですね。次はもっとうまく作りますけれど。
舛成:
落越くんはブレーキをかけません。アクセルしか無いですから。
野村:
この作品は約4年ぐらいの制作期間がかかっている、本当に超大作です。2月9日にブルーレイとDVDが発売になりますが(注:イベントが行われたのは1月30日)、簡単にその見どころを伺いたいです。ブルーレイの本編ディスクはどうですか?
舛成:
オーディオコメンタリーが入っています。たくさん録った記憶がありますが、全部で3種類かな。僕と落越くんと脚本の倉田(英之)の3人でやった居酒屋話みたいなコメンタリーが一つと、キャストとやってるコメンタリーもあって、もう一つはスタッフの石浜(真史、キャラクターデザイン担当)や竹内志保とかも入れて。
野村:
監督と倉田さんは2時間16分を3回やったんですか?
舛成:
3回全部を録ったのはおれだけです。あと、音楽の池(頼広)さんのたっての希望で、BGM集が5.1chバージョンで入っています。
野村:
発売しているサントラには入っていない5.1chバージョンが。
落越:
CDの音質では我慢できない!と(笑)
舛成:
ステレオは許さん(笑) ただ、5.1chを持っていないと聞けないのですがね。あとね、冒頭のシーンがほとんど音楽と効果音だけになっていますが、実はそこで逃げる宇宙人がすごく濃い芝居をしてくれていまして音声も録ってあったんですけど、ダビングで全部カットしちゃったんで役者さんに申し訳ないなと。だからそこに声を乗っけたバージョンをオマケでつけました。
野村:
本日ご覧いただいた冒頭のシーンが違うバージョンで入ってるということですね。
舛成:
とは言っても男の声ですけどね(笑)
野村:
特典についてもお願いします。
落越:
コンテムービーが入っていますね。監督が二年もかけた大作のコンテが。本編の音声と共に完成画面と見比べながら楽しめることになっているはずなので、見ていただければなと思います。
舛成:
内容のト書きが付いていますよね。
落越:
コンテムービーというと絵だけを追っかけていくものもたくさんありますが、今回のやつは「こういう芝居ですよ」という作画上の指示などが絵コンテの横に書いてあります。
舛成:
5秒のカットなら5秒しかト書きが映らないわけですが、5秒じゃ読み切れない内容があったりもしますから。一度、停止をしないと読めないという感じです。
落越:
それなら紙にしろと(笑) あとインタビュー集みたいなもので氷川竜介さんにナビゲートしていただいた特典映像があって、監督の話とかスタッフの苦労話などがあります。ほかにもアニマックスで劇場公開前に放送されたバラエティ番組「創ったヒト」の再編集版が入っていて、ケンコバさんと喜屋武ちあきさんが見られますよ。
舛成:
そうだ、主役が二人。喜屋武ちあきちゃんかわいかったですよ。ケンコバもかわいかったです(笑)
落越:
okamaさんのコーナーは非常に見どころですね。空気が止まるってこういう事なんだって言う(笑)
舛成:
ケンコバがすごい切ない目でおれに助けを求めるんだよね(笑)
落越:
クリエイターが絵を書く瞬間はこういう形で空気が止まるんだと体感できます。
野村:
特に絵コンテムービーは舛成監督の指示が本当におもしろくて見どころがありますよ。監督がどうやってキャラクターに演技をさせるのかという指示がたくさんありますので、その辺りは是非特典ムービーで見ていただければなと思います。
お客様の方から質問があれば受け付けますが、いかがでしょうか。
Q:
月の裏側に都市があったり、UFOとか宇宙人のデザインのセンスは、今の人にはあまり受けないちょっと古いセンスではないかと思います……僕には結構グッときましたが、何を意図したものなのでしょうか。
舛成:
単なる思いつきなんですよ(笑) センスとしては、SFとかでやり尽くされているものだと思います。SFの中で新しいものをわざわざ作ってやるということを、もっと本気でやっている人はたくさんいるんじゃないでしょうか。だから新しいSFを作リ出すことはそういう人にやってもらえればいいのかなと。実は僕と倉田英之はSFがあまり得意じゃないんですよ。SFはほぼ知らないと言ってもいいぐらいなんですよね。その中でどうやったらSFチックなものを作れるのかと考えてやりました。どこに主軸を置くのかという問題なんですよ。SFというものに主軸を置いたときには今回やっている月の裏の都市とかは発想として古いものなのかもしれないけれど、そこに主軸を置かないで、みんなが漠然と持っている「宇宙ってどんなものなのかな」という疑問を子どもが口にした時にどういうドラマが作れるのだろうという部分を主軸に置いたときにはこのぐらいのSF感で十分楽しめるという考え方です。
野村:
光速を越える乗り物とかは全部生物ですよね。あれは新鮮でした。
舛成:
その辺のことは考えましたよ。
Q:
山を歩いているシーンでは棒でクモの巣を払うような描写があって、実際に山を歩いている人間が見ても納得するものでした。そこはどういう風にして取材をされたのかなというのが一点。あと細かいところですが、月の裏側にある託児所で某番組の宇宙人にそっくりな方が出てきましたが、あれは親族か何かなのでしょうか。
落越:
後者の質問について、あれはまったく違います。あれはまったく違うんです!(笑)
舛成:
(笑) じゃあ、前者の質問について。基本的に演出というものは「共感」で作っていくんですね。人が見たときに「ああ、これこれ!」というものをいくつ思い出させるかというのが映像の演出の基本なので。それをきっちりとやっているんです。あのシーンは自分が子どものころに山を歩いていて体験した記憶をそのまま置いているだけなので、それを見て共感するのは、みんな子どものころに同じような経験をしているよねということなんです。だからわざわざ取材はしていないですね。ちなみに、後者は色のせいで「ぽい」かもしれませんが、あれには「ヤブー」という名前があります。ヤブーにはお父さんがいて、ギャンブルをやっているのがヤブーパパ。お父さんがギャンブルをやっている間に託児所に預けているという、日本でよく見られる光景ですね。
野村:
あのときギャンブルで当てたお金で後の宇宙祭りに来ているんですよね。最後、見送る時に実はいるんです。そういう細かい部分があるので是非ブルーレイを買って見返して下さい。
Q:
主人公たちのグループに限らず、個人的に思い入れのあるキャラクターがあれば聞かせていただきたいです。
舛成:
この手の質問にはいつも困ってるんですよ。
野村:
ちなみに、僕はインクです。
野村さんお気に入りのインク。
舛成:
僕はものを作るときにはキャラクターを好きにならないとダメなタイプなので、全員が好きというのが正しい答えなんですよ。ただ、それだとつまらないんですよね。前に取材を受けた時は「違う聞き方をされたら選べるよ」ということで「初恋の子に近いのは誰?」と質問されました。その時に選んだのは西村倫子ですね。なので好きなのは倫子ってことになる……いやいや、全員が好きです(笑)
落越:
僕は裏の主人公の原田康二がいいですね。恋愛とかして、一人だけ出会いと別れを繰り返していて。
Q:
この作品で一番好きなものが奇想天外なデザインの宇宙人なんですが、映画を作るにあたってボツも含めてどれくらいの量の宇宙人をデザインされたのでしょうか。
舛成:
大本になる宇宙人のデザインは120体ぐらいokamaさんが描いています。それを元にしてデザインの森崎さんが服を着せたり、okamaさんから免許皆伝をもらって新しいデザインを発掘したりしてトータルでは200何十体を作っています。一説では400体あるという話もあって、自分も把握していないものもあるんです。
落越:
okamaさんがババッと勝手に描くんでね。二時間ぐらいで何十体と描いてくるので、これはいただくしかないという感じです。
舛成:
ネッポとかトニーとかのデザインは、実は最初から「ネッポをお願いします」といって作られたものではなく、okamaさんが打ち合わせ中に描いたやつを見て「これはネッポにしよう、これはトニーだな」と決めました。
落越:
マヨネーズ星人とか意味わかんないですからね。
舛成:
金魚がうんこを垂れ流している星人がいるんですよ。そういうバカみたいな宇宙人の設定とかムチャクチャなネーミングセンスは、「宇宙ショーへようこそ」の辞典みたいな本を売っているらしいです。設定資料集ですか(→「宇宙ショーへようこそ設定資料集」)、それに載っているそうなので興味があればそれを見ていただければと。頭がヘンになりそうなデザインの塊なので。
野村:
ポチのデザインは石浜さんですよね。
魅力的なキャラクターたち。中央左より、犬っぽい外見なのがポチ。この姿で声が藤原啓治さん(「クレヨンしんちゃん」野原ひろし、「機動戦士ガンダム00」アリー・アル・サーシェスなど)というギャップは子どもたちではなくても驚きます。
Q:
劇中で周たちが食べているわさびふりかけを食べたくてネットで取り寄せたら、正月にメーカーから年賀状が届きました。あまり宇宙ショーには関係がない質問なのですが、脚本家の倉田さんはオーディオコメンタリーを聞いていると歌手の山下達郎さんに声とかしゃべり方が似ているなといつも思うんです。だけど、これを誰も理解してくれないので監督とかプロデューサーはこの意見、どうでしょうか。
舛成:
まるで思ったことありませんが、決定的に違うのは歌唱力ですね(笑)見た目も違います。
落越:
こもった感じが確かに似ているかもしれません。
舛成:
英之くんが歌っているところは聞いたことがないです。
落越:
何かでアニソンを絶叫していたところを一回ぐらい見たことがありますよ。
Q:
ポチの人間での年齢はどう設定しているのかを教えてください。
舛成:
人間としては一応35歳という風にしています。役作りの時にすりあわせないといけないんですね。それで35くらいなんだけど若く見えますよとしています。
落越:
35にして周に行くっていう(笑)
舛成:
王道ですね。なぜ周に恋愛感情を抱けるのかということも設定として作ってあるんです。宇宙は、子どもだからこうしちゃいけないああしちゃいけないという概念を取っ払った世界にしてあります。だから月で子どもたちがバイトをするときに誰も止めない。町の中でも子どもが働きにきたらバイトをさせています。それは子どもというものが守られるだけの存在ではなくて、子どもがやりたいことはやらせてあげるということです。もしも「辞めたい」というならば「別に辞めてもいいよ」と言えます。でも困っていたら助けてあげると。子どもだけじゃなくて、困っている人は助けようという感覚で宇宙の道徳が成り立っているというのが今回の設定です。
落越:
ポチはその辺りを拡大解釈していますね。
舛成:
そういったモラル的なものは、子どもも人として扱うとどうなるかってことをやったわけです。
ということでトークショーは多くの質疑応答などもあって終了。最後にじゃんけんを行い、勝者に上映前にプレス向けに作られたプレスキットに舛成さんと落越さんのサインが入ったものが手渡しされました。
ちなみに、さりげなくこの手渡しの際にも監督にいくつか質問が投げかけられていました。
Q:
「かみちゅ!」の続編が見たいです
舛成:
みなさんの想像でお願いします(笑)
Q:
「R.O.D」(の続編)はどうですか?
舛成:
あれは御大次第ですねぇ…
とのことです。
「宇宙ショーへようこそ」BD&DVDは現在好評発売中。Blu-ray完全生産限定版は1万290円(税込)、Blu-ray通常版は6090円(税込)、DVD通常版は5040円(税込)。
さらに2011年春には監督自ら描き上げた絵コンテを完全収録した「宇宙ショーへようこそ」絵コンテ集が発売予定です。予価3500円(税込)で、本編の絵コンテ完全版に加え、舛成孝二監督インタビューなど約700ページに渡る、ファン垂涎の永久保存版となっているそうです。販売はSony Music Shop限定販売となっており、現在予約を受付中なので、BDやDVDとともに購入してみてください。
© A-1 Pictures/「宇宙ショーへようこそ」製作委員会
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