君が代が終わると地鳴りのような拍手が鳴り響いた。
岡田監督解任派も続投派も、その思いはひとつ。日本サッカーの発展だ。
57,873人が入った最高の舞台で負けを願う日本人はいない。感動すら覚える美しい光景が埼玉スタジアムにあった。
にもかかわらず、試合後の埼玉スタジアムは韓国サポーターのものになった。
そんな光景に責任を感じた岡田監督は、会見場に現われると、「試合後すぐに犬飼会長に『続けていいんですか?』と進退伺いをした」と明かした。
もちろん、「自信をなくしたから進退伺いをしたわけではない」と辞任は否定したが、自信を失っているのは明白だった。

GK楢崎、DFが左から今野、阿部、中澤、長友、ダブルボランチに遠藤と長谷部。その前に左から大久保、本田、中村俊。ワントップが岡崎。
デイフェンス以外はベストといえる布陣を組んだ日本だが、開始5分。こぼれ球に反応したパク・チソンの鬼気迫るドリブルを止められず、ミドルシュートを打たれ、先制点を奪われてしまう。
日本も直後に岡崎、20分にも今野のインターセプトから大久保がシュートをはなつが、わずかに枠をそれる。

得点が生まれない以上に深刻なのは中村俊。というより、中盤自体がぽっかりと消えていることだ。
記者席から見ると一目瞭然で、パスコースがないわけではないのだが、互いのイメージがかみ合っていないのだろう。ロングパス以外で攻撃ができない。
まったく攻撃の形を作れない日本は63分、大ブレーキとなっていた中村俊に代わり森本を投入。
それでも効果が表れないと見るや72分、本田に代わり中村憲と次々と選手交代を行う。
「コンディションの問題が一番」(岡田監督)らしい選手交代は、まったく効果が表れず、逆に91分にはPKでトドメをさされてしまう。

中村俊がスケープゴートにされるのは目に見えている。ただ、中村俊がピッチから去った後もなんらピッチに変わりはなかった。
問題なのは攻撃の形がまったく見えないこと。これに岡田監督も頭を抱え、自信を失ってしまったのだろう。
W杯での戦い方を、「今日のように前半得点を奪われると厳しいので、前半は守備的な選手で戦って、後半ボールを回せる選手でいく」と明かした岡田監督だが、もはや攻撃のコンセプトなどどこにもない。こんなざっくりとした戦略しか持ち合わせていないのだ。

「サイドバックから中盤にどうやってボールを入れていくか」(岡田監督)
いまさら、こんな基本的な問題が出てきてしまった。
オシム前日本代表監督時の「1/3(アタッキングサード)をどう崩すか」(中村俊)という課題が懐かしい。
前進どころか後退してしまっているのが日本代表の現状だ。

ミックスゾーンに現れた選手たちは岡田監督とは対照的に自信を失っているわけではないようだった。それはそうだろう。個でボロボロにやられたわけではない。
岡田監督に進退伺いをされた犬飼会長は「やれ(続けろ)」と答えたという。

2010年南アフリカW杯での日本代表の命運は岡田監督でも選手でもない。犬飼会長の決断にかかっている。(了)