フランス代表のドメネク監督がW杯の代表候補30人のリストを発表してから一夜明けた12日、フランスの各メディアは選考の“サプライズ”に焦点を当てている。

 とくにヴィエラ、ベンゼマ、ナスリの3人が、最終の23人ならまだしも、補欠を含めた30人にすら入らなかったのは、驚きの反応を招いた。

 TF1局の20時のニュースに生出演したドメネク監督が30人のリストを読み上げた瞬間、ヴィエラはカナル・プリュス局の裏番組「スペシャリスト」に出演していた。

 落選を知ったヴィエラは、「(W杯出場は)僕にとってチャレンジだった。(ケガによる)大きな遅れをここまで取り戻してきたつもりだが、彼(監督)は彼なりの選択をした。戦ううえでの選択だ。落胆はしているが、僕は彼の決定を受け入れる」と静かに語った。

 しかし番組が終わった後にスタジオ裏で報道陣から“囲み取材”を受けた際には、「もう少し率直さを期待していた」と本音をのぞかせた。ユーロ2008をケガで棒に振り、その後も2年間で代表戦に出たのはわずか2試合。それでもドメネク監督は、ことあるごとに「パット(ヴィエラ)は調子を上げて戻ってくると信じている」と語って来た。

 ヴィエラは「今回の選択に異論をはさむつもりはない。彼を尊敬しているし、これまで健全な関係を保ってきた。ただ自分の代表歴を考えると、“きみはもうレベルに達していない。きみより若くていい選手がいる”と言ってもらったほうがよかった。インテルでは、モウリーニョからそう言われて、僕も受け入れた。個人的に電話してほしかった。こうしてテレビの前で最後の最後に落選を知らされるとなると、よけいに悲しい。やり方としては不満がある」と直前まで期待を抱かせる曖昧な態度を通したドメネク監督に納得のいかないところはあるようだ。

 ヴィエラの落選により、これまでもつねに指摘されてきたフランス代表のリーダー不在が決定的になった。ドメネク監督の伝記「欺瞞の秘話」の著者ブルーノ・ゴダール氏は、ニュース局「iテレ」に出演し、「ティエリ・アンリはほんとうのリーダーじゃない。前回のW杯では、ジダン、テュラム、マケレレがいた。監督は何もする必要がなく、フランスはそのおかげで決勝まで行けた。彼らがいなかったら予選すら通過できなかったろう。今回はドメネクひとりがリーダー。その結果は、2年前と似たものになるだろう」とグループリーグで敗退したユーロ2008の二の舞になりうることを予測した。

 選手内にリーダーが不在のままチームをまとめるにはどうしたらいいか。ドメネク監督の解決策は、緊張を生みそうな選手を外すことだった。レキップ紙の解説員を務めるエマニュエル・プティ氏ら多くの専門家が、ベンゼマとナスリを招集しなかったポイントがそこにあると見ている。ふたりはユーロ2008でチームの和を乱し、“ジェネレーション・ギャップ”をもたらしたというのが“定説”だ。

 ドメネク監督が予選からベンゼマ、ナスリをほとんど起用してこなかったのはたしかだ。ヴィエラに至っては出場はまったくなし。しかし予選での戦いぶりが低調で、何かを変える必要があったのもまた誰もが認めるところ。ヴィエラやナスリの復帰はその選択肢のひとつだったが、あえて新顔の登用を選んだ。ただしそれも「先発で起用されないとやる気を維持するのがむずかしい。新しく来た選手はそこを埋めることになる」という監督の言葉は、“ベンチに置いても文句のない選手”を招集したという消極策にも聞こえる。つまりは、予選からの路線維持、というのが今回の顔触れのいちばんの特徴だろう。