別にTV版と違うキャスティングが不満なのではありません。ケンシロウが神谷明じゃなくて阿部寛でも、サウザーが銀河万丈じゃなくて大塚明夫でも、しっかり演じてもらえれば問題ないのです。ですが、TV版の声優・内海賢二と比較されることを考えても、ラオウ声優には相当の演技力が必要だったはずです。実際、映画を観た人の感想をいろいろ調べてみても、ラオウの声に関して好意的な意見はほとんど見られません。

個人的に俳優・宇梶剛士は嫌いではないですし、独特の雰囲気があって、体当たり的な演技も味わいがあると思います。とはいえ、いきなりラオウの声をアテるというのは、声優経験の乏しい宇梶剛士には荷が重すぎたとしか思えません。

声優の仕事は喜怒哀楽はもちろん、様々なキャラクターの状況を的確に捉えられなければなりません。話しかける相手が近いのか遠いのか、座っているのか走っているのか、暑いのか寒いのか、空腹なのか満腹なのか、全てを声だけで表現できなければならないのです。感性や勢いだけでどうにかなるものではありません。

この際、キャスティングを思い切って考え直すことも必要ではないのでしょうか（わりと本気です）。寺院での葬儀を行う予算があるなら、それを映画のクオリティアップに向けた方が良かったような気がするのです。映画をヒットさせたいと願うなら、本編の内容を最優先に考えるべきだと思うのですが……。

ちなみに今回久しぶりにTVアニメ版を観てみたのですが、20年前の作品にもかかわらず面白さは今でも健在でした。そして『北斗の拳』は、様々なエピソードを積み上げていく"大河ドラマ"的な作品だということを実感しました。原作の良さを引き出すためには、登場人物の内面を丁寧に掘り下げる内容であるべきなのです。ですが、私が観た『ラオウ伝　殉愛の章』もOVAの『ユリア伝』も、脚本が大味でストーリーに"深み"が足りないんですよね……。『北斗の拳』を愛する一人としても、今後もろもろが改善されることを願ってやみません（切実）。


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レッド中尉（れっど・ちゅうい）
プロフィール：東京都在住。アニメ・漫画・アイドル等のアキバ系ネタが大好物な特殊ライター。企画編集の仕事もしている。秋葉原・神保町・新宿・池袋あたりに出没してグッズを買い漁るのが趣味。

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