楽天の幹部はなぜ「死の山」に挑むのか? 120人登山に密着

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9月19日昼ごろ、私にあるミッションが与えられた。

「これから楽天の幹部たちが集まる登山の取材に行ってほしい」

登山経験はゼロ。一抹の不安を抱えながら、すぐさま準備をして向かった先は、新潟県境にある群馬県の谷川岳近く。三木谷浩史社長の別荘がある場所だ。楽天は年に1回、国内外のCEOなど執行役員らが集う3日間の「リーダーシップサミット」を開く。

今回はアメリカやイギリス、ドイツ、インドなど各国の楽天グループ企業から執行役員ら約150人が集まった。1日目は東京・二子玉川の楽天本社で、経営戦略やビジョン共有のためのディスカッションを行い、2、3日目は群馬県で合宿をした。10年続く恒例の目玉イベントは3日目の「登山」という。参加者の8割に当たる約120人が登山に挑んだ。

本誌記者は1時間でリタイア

日本海と太平洋の気候の影響を受け、厳しい環境にある谷川岳(標高1977メートル)。危険箇所の多さから遭難者もあり、「死の山(death mountain)」とも呼ばれる。

朝5時半に起床し、7時過ぎに谷川岳の西黒尾根登山口から三木谷社長一行とともに登り始めた。人ひとりが通れる山道は、思った以上に坂が急で足場が悪かった。

前日に降った雨で滑らないように両手に持ったステッキ2本を頼りに一歩ずつ足を上げ、着いて行くのがやっと。先頭の三木谷社長は、ぐんぐんと進んで行く。体力、持久力ともに全く自信がない私は、登り始めてすぐに息切れ状態になり、取材どころではない。

滑らないように足元ばかりを見ていたら、もはや三木谷社長の姿は見えなくなっていた。30分ほどすると、視界が開けた休憩場所で私は荒ぶる息を整えようとしたが、一行はすぐに出発。楽天メンバーが「アスリート集団」のように思えた。



次第に足取りは重く、「ヒーヒー」と声が出てしまうほど息が荒くなり、三木谷社長の専属トレーナーの女性にこう告げられた。「体力の消耗が激しいので、無理しないでここで下りてください」。無念にも、わずか1時間でリタイアしてしまった。

その後も三木谷社長らは、急斜面の岩場で鎖や縄を掴んで登ったりしながら、5時間以上かけて登頂した。一歩足を踏み外したら死もありうる。昨年は雨が降っても登山を決行し、「川を登っているようだった」と証言する役員もいた。なぜ彼らは過酷な挑戦をするのか。

「あえて大変な山に登る」
 


「面白いでしょ」。登山を終え、足を氷で冷やしながら三木谷社長は飄々と笑っていた。昨年4月に左足のアキレス腱をテニスで負傷して走れないというが、毎日ストレッチや腹筋100回、週3回は1キロの水泳を欠かさない。登山で酷使した足は真っ赤に腫れ、引きずっているように見えたが、「根性ですよ」と決して弱音は吐かない。「みんなで一つの目標に向かって登り切ることが大事。一体感が出て思い出になるから」



戦後から高度経済成長期にかけて日本企業で行われてきた「社内運動会」や「社員旅行」は減少したものの、組織力を強化するために再び脚光を浴びている。運動会は米国シリコンバレーでも導入されている。登山も一見このような動向と重なるが、「ラフティングやゴルフなど、ただ楽しむだけではダメ。あえて大変な山に臨む。大変なことを全員でやりきるのはビジネスにも通じる」と三木谷社長。これが楽天流の「チームビルディング」という。

共同創業者で常務執行役員CPOの小林正忠さんは、楽天をこう表した。「うちは、Global Japanese Companyですね。どうやったらOne Teamになれるのかを考えて始めたのが登山。個ではなくチーム重視です」

このような考え方は、外国人社員の意識にも浸透しているようだ。楽天グローバルマーケティング統括部ディレクターのラフール・カダバコルさんは、谷川岳登山を「Very cool」と評価し、「仕事で会うのとは違い、世界のCEOらとも個人的に出会えてコミュニケーションが取りやすくなる。最初は無理かもしれないと思ったけれど、楽天的にできた」と話した。

ドイツから参加した楽天ヨーロッパのプレジデント、アリエン・ヴァン・デ・ヴァルさんは、「以前はアマゾンに在籍しており、賢くて素晴らしい集団だったが、個人の力が重要視されていた。一方で楽天は連携が取りやすく、人間味ある会社」と明かした。「ヨーロッパではアマゾンの知名度が高いので、楽天を大きくするのがチャレンジだ」

「ワークハード、ライフハード」。三木谷はワークライフバランスが重要視される潮流にも異論を唱える。「一生懸命働き、楽しむ。バランスなんて取れませんよ。生活の中にもビジネスのインスピレーションはある」と説く。仕事も私生活も全力投球。「会社も一つのコミュニティだ」と。厳しい登山を終えた各国のリーダーはともに温泉に入り、酒を酌み交わして親交を深めた。



巨額のスポーツ投資を先行し、話題となっている楽天。2017年からスペインの名門サッカーチームFCバルセロナとメインパートナーとなる契約を年間5500万ユーロで4年間結び、今年は経営権を持つサッカーJ1のヴィッセル神戸にアンドレス・イニエスタ選手を獲得したニュースで驚かせた。

急速に拡大する「コミュニティ」を駆使して「Rakuten」ブランドをどう世界に浸透させるか。三木谷社長のグローバル展開の青写真に注目が集まる。