かつて兼任監督として日本代表を率いたトルシエ氏。“森保ジャパン”をどう見ているのか。(C)Getty Images

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 2000年のシドニー五輪と02年の日韓ワールドカップを指揮するなど、かつて“兼任監督”を任されたフィリップ・トルシエ氏は、同様の大役を担った森保一監督の現状をどう見ているのか。今年8月からベトナムのテクニカルディレクターに就任したトルシエ氏にその印象や自身の経験談を語ってもらった。

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 監督としてチームを作り、成果をあげるためには、選手から信頼を掴む必要がある。森保(一)さんはサンフレッチェ広島をJリーグで3度、優勝に導いた実績があり、先日のワールドカップには西野(朗)監督のアシスタントコーチとして帯同していた。
 
 日本人の中でも優れた指導者として一目置かれ、海外でプレーする選手たちからも尊敬を得るには十分なキャリアを歩んできた。懸念があるとすれば、海外での指導経験がなく、日本従来の課題と戦うことができるかという点だ。
 
 相手を尊重する精神に長けた日本人は組織力が高く、それが大きな利点になっている。ただサッカーには組織力と個の力が必要で、その比率は6対4が望ましい。だが日本の場合は8対2で組織力に偏っている。「個」の比率を2から4に引き上げることがチームのレベルアップにつながるが、それには相当な努力が必要で、従来の価値観や手法を崩す必要がある。というのも、日本の文化風習的な背景が、選手の成長を妨げる一因になっているからだ。
 
 一般に日本人選手はリスクを負わないプレーをしがちだが、サッカーでは危険を冒すことも不可欠だ。選手を伸ばすためには、そこを指摘して改善しなければならないが、日本育ちで海外経験のない者がその点に気付くのはなかなか難しい。
 
 しかも、今回のチームは日本人である森保代表監督の下、コーチングスタッフも日本人の編成だろう。問題点を指摘し、組織重視の概念を変えるために、森保さんが勇気を持って対峙できるか、だ。
 
 例えば、日本とフランスの子どもやユース年代を比較すると、日本人はボールを持つとすぐにパスを出す傾向にあるが、フランスではパスを出せと言っても、ボールを手放さない子どもの方が多い。組織を尊重する日本の風習が自然とプレーにも表われているからだ。

 さらにこれはシュート場面にも影響し、日本人はスキルもメンタルも身に付けているのに、ボールを持ちすぎて「今」というタイミングを見失ってしまう。それが決定力不足につながっている。

 異なる文化的背景を持つ外国人指導者ならこのような点を見つけ、指摘できるが、日本育ちの指導者にはなかなか難しい。だから、そこに目を配って欠点を補うには、外国人指導者をアドバイザーやテクニカルディレクターとして付ける。それもA代表だけでなくアンダーカテゴリーの代表にも付けて、日本人選手に染みついている悪癖や細かい要素の修正に取り組むのが効果的だろう。
 
 個人的には、ワールドカップでの日本の戦いを見て、ロシア大会後も西野さんが引き続き代表監督を務めれば良いと思っていた。ワールドカップで掴んだ流れを継続し、やり残したことを次のチャレンジで完遂するべきだと感じたからだ。

 ロシアでは日本はコロンビア戦、セネガル戦、ポーランド戦で素晴らしい戦いを見せた。ベルギー戦も85分までは良かった。だが最後の5分で幼さ、未熟さを露呈してしまった。私は大会において日本は素晴らしいパフォーマンスを見せたベストチームのひとつと捉えているが、一般にはベルギー戦の最後の部分の印象で厳しい評価をする人も少なくない。

 西野さんは準備時間が限られていたなかで、選手とコミュニケーションを図ることでチームに一体感を持たせた。良いやり方だったと思う。ただ、試合では選手のやりたいプレーに対して、チームとして求めるべきプレーがある。選手を尊重した影響は、ベルギー戦の残り5分の場面でマイナスに働いてしまったと感じる。