東京メトロ東西線、なぜ混むのか? 混雑率199%で1位 改善への「あの手この手」とは
いまでは混雑率ワーストランキングの「常連」になってしまった、東京メトロ東西線。「ある制約」から混雑の大幅な緩和は難しい状況ですが、東京メトロはさまざまな策を打ち出して、混雑の緩和を目指しています。
混雑緩和を目的に建設された地下鉄
国土交通省は2018年7月、全国のおもな鉄道路線の混雑率について、2017年度のデータを公表しました。
東京メトロ東西線の混雑率は199%。全国の主要路線のなかで最も混雑が激しい路線の「常連」になっている(2017年9月、草町義和撮影)。
これは最も混雑する時間帯(1時間)と区間の、平均混雑率をまとめたものです。主要区間のなかで最も混雑が激しかったのは、東京メトロ東西線の木場→門前仲町間でした。朝ラッシュ1時間(7時50分〜8時50分)の混雑率は199%で、定員のほぼ倍になります。
この混雑率は、あくまでピーク1時間内に運行されている列車の平均値ですから、列車や車両によっては199%を超えることもあります。利用者が多いと乗り降りに時間がかかるため、ピーク時には数分程度の遅れが日常的に発生。列車が遅れれば時間内に運行できる本数も減りますから、さらに混雑するという悪循環を引き起こしています。
ラッシュ時の混雑は、昔に比べるとかなり改善されました。国交省の公表資料によると、主要区間全体の混雑率は1975(昭和50)年度が221%だったのに対し、2017年度は163%まで下がっています。しかし、東西線は200%前後のままずっと推移していて、いまでは混雑率ランキングでワースト1位の「常連」になってしまいました。
東西線はなぜ、こんなに混雑するのでしょうか。その理由はいくつか考えられます。
東西線は、中央緩行線の中野駅(東京都中野区)と総武緩行線の西船橋駅(千葉県船橋市)を結ぶ、全長30.8kmの地下鉄。その名の通り東京都心の東西を結び、少し距離を置いて並行する中央・総武緩行線の混雑を緩和するために建設されました。
中央・総武緩行線の運行区間のうち、総武緩行線の混雑率は国鉄時代の1968(昭和43)年度時点で307%でした。翌1969(昭和44)年度は東西線の全通で西船橋駅から東京都心に向かうルートがふたつになり、利用者が分散。混雑率も一気に50%下がって256%になったのです。
混雑緩和が難しい地下鉄の「構造的」事情
逆に東西線は、総武緩行線の利用者を受け入れる格好に。しかも、東京でも有数のビジネス街である大手町を通ることから通勤には便利な路線で、全通時から激しい混雑に見舞われました。
東西線は総武緩行線の混雑緩和を目的に千葉県内の西船橋駅まで建設された(2018年5月、草町義和撮影)。
ふたつ目は沿線人口の増加です。東西線が全通する前、千葉寄りの浦安市から市川市行徳にかけてのエリアは田んぼや塩田が広がっていました。しかし、東西線が全通したことで東京都心にアクセスしやすい土地に変貌。住宅開発が急速に進行し、ここから東西線を使って東京都心に通勤する人が増えました。
全通から5年後の1974(昭和49)年度には、最混雑区間の混雑率がピーク1時間で200%を突破。1978(昭和53)年度には236%を記録しました。
3点目は施設の大規模な改良が難しいことです。混雑を緩和するための抜本的な対策としては、車両の増結や線路の増設(複々線化)などが挙げられます。しかし、これらの対策は膨大な費用がかかり、工事のための長い時間も必要です。
とくに地下鉄の場合、あとからトンネルを造り直して線路を増やしたり、車両を増やすためにホームを長くするといったことが困難。利用者が増えても簡単には列車や車両を増やしたりすることができず、たとえ利用者の増加が止まったとしても混雑を改善することが難しいのです。
東西線の場合、あらかじめホームを長めに建設したり、車両基地を広めに建設するなど、あとから列車や車両を増やせる「余裕のある構造」で建設されました。実際、列車の増発や車両の増結を行って混雑を緩和しています。しかし、1980年代末期には「余裕」を使い切ってしまい、これ以上の増発や増結が困難になりました。
1990(平成2)年前後には、都営新宿線やJR京葉線が全通して利用者の分散が図られました。しかし、それでも混雑率は200%程度までしか下がらず、いまに至っているのです。
改善のカギは「増設」「ワイド」「時差」
東京メトロも東西線の現状について、無策というわけではありません。少しでも混雑を緩和しようと、あの手この手でさまざまな対策を打ち出しています。
東西線の駅で設置工事が進むホームドア。ワイドドア車に対応している(2017年9月、草町義和撮影)。
たとえば、門前仲町駅では朝ラッシュ時の混雑が激しい中野方面ホームの幅を拡大。これによりホームの混雑を緩和し、乗り降りの時間の短縮を図っています。
南砂町駅では、ホームと線路を増設する工事が進行中。2022年度には完成の予定で、同じ方向の列車がホーム両側で交互に発着することが可能になります。たとえば、先に走っている列車が南砂町駅に遅れて到着したとしても、後続列車は線路の途中で停車することなく同駅の増設されたホームに入ることができ、遅れの拡大防止になるのです。
列車については、ドアの幅を広げた車両(ワイドドア車)の導入が進みました。ドアが広いと大勢の人が一度に乗り降りでき、遅れの拡大を防ぐことができます。現在設置が進むホームドアも、ワイドドア車に対応したタイプが採用されました。列車の遅れが減れば、運転できる列車の本数も増えますし、結果的には混雑の緩和になるといえるでしょう。
ソフト面では、10年ほど前から時差通勤の促進キャンペーンが行われています。これは事前に参加登録を行ったICカード定期券やICカード乗車券を使用。ラッシュが始まる前の早朝に東西線の指定された区間に乗ると、商品券などに交換できるポイント(メダル)がもらえます。
ちなみに、国交省が今回発表した混雑率データはピーク1時間だけでなく。ピーク前後(ピークサイド)の混雑率も含まれています。それによると、東西線のピークサイド混雑率は、ピーク前の6時50分〜7時50分が157%。ピーク後の8時50分〜9時50分は130%で、ピーク時より40〜60%も低くなっています。ピーク時に乗車している人は、できるだけピークサイドに通勤するようにすれば、ある程度は通勤が楽になるでしょう。
東京メトロが打ち出しているさまざまな対策によって、激しい混雑がどこまで緩和されるのか、今後の推移が注目されます。
【写真】最大470両! 東西線を支える車両基地
最大470両の車両を留置できる東京メトロの深川車両基地。東西線のラッシュ輸送を支えている(2018年2月、草町義和撮影)。