スーパーなどではよく「もやし」が目玉商品として激安価格で売られているのを見かけます。消費者としては嬉しいことですが、生産者にとっては死活問題。先日ついに「もやし生産者協会」が窮状を訴え、大きな話題となりました。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者・佐藤昌司さんは、生産者が減少し続けている「もやし」の現状を伝えつつ、今後の価格が変わるのか否かについてもプロの目で分析しています。

もやし「1円」販売などで生産者が窮状。いくらが適正価格?

「もやし」はいくらが適正価格なのでしょうか?

もやしがあまりにも安いということでちょっとした騒動が起こりました。もやし生産者の団体・工業組合もやし生産者協会(東京・足立)が3月に「もやし生産者の窮状について」と題した文書を発出し、スーパーなどに適正価格でもやしを販売してほしいと訴えたことが騒動の一つのきっかけとなりました。

もやしはスーパーなどで通常1袋(200グラム)30円程度で売られていますが、安い時は10円台で、場合によっては1桁の価格で売られることもあります。もやしの近年の卸売価格は現在1袋20円強とみられますが、それを下回る価格で販売されることがある状況です。それでは生産者が健全な経営ができないと協会はいいます。

協会によると、16年のもやしの小売平均価格は05年と比べ約10%下落した一方、全国の最低賃金は約20%上昇し、原料となる中国産緑豆の17年1月の価格は05年比で約3倍にもなったといいます。また、現在のもやしの販売価格は約40年前の77年よりも安いといいます。そして生産者の数は減少の一途をたどり、09年には230社以上あった生産者は100社以上が廃業したといいます。

出典:もやし生産者協会

スーパーなどにとってもやしは集客の目玉となり、店全体の値ごろ感を示すこともできるため、利益度外視で安売りすることがあります。一方、その裏ではスーパーなどが仕入れ価格を抑えようと圧力を強めるため、立場が弱い生産者は十分な卸売価格で販売できないといいます。また、価格が安いことでもやしの価値は低いと消費者に思われることも、卸売価格の低下につながるとしています。

こういった経緯があり、協会がもやし生産者の窮状を訴えたわけですが、ネットを中心に様々な意見が飛び交いました。「50〜60円ぐらいでもいい」「多少の値上げは仕方がない」といった値上げを容認する意見が多く見られました。こうした声を受けて、もやしを適正価格で販売するように改めたスーパーもあったようです。

ただそれでも、もやしの安売りが完全になくなったわけではありません。例えば、愛知県内のスーパー2社が5月にもやしなどの野菜数品目をいずれも1円で販売し、独占禁止法に定める不当廉売に該当する恐れがあるとして公正取引委員会から警告を受けています。2社は価格の安さを競う形でもやしなどの価格を下げ、最終的に1円で販売するようになったのです。独禁法はこういった過度な安売り行為を禁じています。

こういった例もあり、もやしが適正価格で販売され続けていくかは予断を許さない状況です。

総務省の家計調査によると、協会が窮状を訴えた3月のもやしの価格は100グラム15円70銭で9月は15円65銭でしたが、その間は特筆できるような数値の推移が確認できないため、窮状の訴えが店頭価格にどの程度影響を与えたかはなんとも言えない状況です。

また、主要市場である東京都中央卸売市場の同期間の平均価格は100グラムあたり11円50銭〜60銭で推移しほとんど変わりがありません。窮状の訴えが卸売価格に影響を与えていないと考えることもできそうです。

窮状を訴えることで消費者や小売業者に現状を理解してもらおうとした例は他にもあります。鶏卵生産者の団体が13年に「卵の未来を、助けてください」という見出しの意見広告を新聞に掲載し、生産者の厳しい実情を訴えています。卵の卸売価格は昭和20年代よりも安く、採算割れで廃業に追い込まれている生産者が少なくないといいます。新聞に意見広告を出して理解を求めた形です。

最近では豆腐製造業者が卸売価格の低下で苦境に立たされています。豆腐製造業者の要望により農林水産省が適正取引を推進する指針を3月に策定し、小売業者に是正を求めています。小売業者が不当に安い仕入れ価格を要求するような悪習が一部で残っているためです。豆腐も卵やもやしのように特売の対象になりやすく、卸売価格を高く設定できないといいます。豆腐製造業者もまた、廃業に追い込まれるケースが少なくありません。

もやし生産者などが卸売価格を思うように値上げできない一方、食品や日用品を扱う大手メーカーが4〜10月に相次いで値上げを実施しています。主なもので、かつお節、ノリ、ツナ缶、チーズ、バター、小麦粉、食用油、ティッシュ、トイレ紙、キッチンペーパーなどがあります。

大手メーカーによる値上げなので、小売業者は受け入れざるを得ません。ただ、転嫁する形での店頭価格の値上げは慎重姿勢を崩さず、値上げしたものもあれば値下げしたものもあり、全面的な値上げにはなっていません。

11月29日付日本経済新聞によると、「メーカー各社が4〜10月に値上げを実施すると公表した主要10品目のうち、スーパーなどの店頭で実際に値上がりした商品は5品目だった。かつお節やノリなどは上がったが、油やティッシュなどは集客の目玉として店頭価格は下落している」といいます。

消費者の節約志向が弱まる気配を見せないため、大手メーカーの値上げ分を小売業者は店頭価格に転嫁できない現状があります。そのため、もやし生産者など零細生産者などにそのしわ寄せがいくと考えることもできます。窮状を訴えるだけではどうにもならない力学が働いているといえるでしょう。

もちろん、もやしの付加価値を高めるなどもやし生産者が努力しなければならない余地は十分あります。例えば、一般的な緑豆もやしに加え、大豆を発芽させた大豆もやしを製造するといった工夫や努力が求められます。販路を拡大するといったことも必要でしょう。

ただ、資金力に限界がある零細生産者が簡単にできることではありません。そうなるとやはり、窮状を訴えて消費者を味方に引き入れることが一番効果的なことなのかもしれません。豆腐製造業者のように行政を動かすにしても、世論が重要な役割を果たします。地道に窮状を訴えたり是正を求めるしか方法がないのかもしれません。

いずれにしても、今後のもやしの価格の動向に注目が集まります。

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