無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で政治に詳しい国際関係研究者の北野幸伯さんのもとに、読者の方から「日本が日米同盟をやめて日中同盟を結べば、尖閣諸島や沖縄の問題も解決するのでは?」との質問が寄せられました。確かに一理あるようにも思えますが…北野さんの出した回答は?

日米同盟をやめて、日中同盟にしたらどうなる?

読者のMさまから、こんなご質問をいただきました。

北野様

 

メールマガジンRPEを毎回興味深く読ませていただいております。RPEで、これまでは理解できなかった、安倍首相の外交面での言動の意図がよく分かるようになりました。そうした中、疑問に思ったことがあります。

 

安倍首相が進めている日米同盟の強化ではなく、日中関係の強化を図ったとすると日本の国際社会での立場はどのようになっていくと思われますか。もしかしたら、すでにそうした解説はしておられるのかもしれませんが、ぜひご教示いただければと思います。

 

すぐにではないにしろ、日中同盟のようなことになると、尖閣諸島や沖縄は中国のものだとの主張もしなくなるなど、東アジアの地政学的なリスクは今より低くなることは考えられないのでしょうか。経済的にも一帯一路の利益を得られやすくなるのではないか。

 

アメリカと中国を両天秤にかけるわけではないですが、トランプ大統領と比べると習主席はどうなの? もよくわかりません。よろしくお願いいたします。

お答えします。

日本は、中国に接近して、ひどい目にあった

08年9月のリーマン・ショックからはじまった「100年に1度の大不況」。これで、「一つの時代が終わった」と言われています。「終わった時代」とは、「アメリカ一極時代」。

1945年の終戦から1991年末まで、世界は冷戦時代、別の言葉で「アメリカ、ソ連二極時代」だった。しかし、1991年12月にソ連が崩壊。二極のうち一極がなくなったので、「アメリカ一極時代」が始まったのです。しかし、この時代は、08年に終わった。

そして、やってきたのが現在も続く「米中二極時代」です。しかもその関係は、「沈むアメリカ、昇る中国」。それで、「アメリカを裏切って中国に走ろう!」という世界的流れが出てきた。ですから、M様のように考える人がいるのは、あたり前のことです。

そして、日本も実際、「アメリカを捨てて中国に走ろう!」としたのです。そう、09年の鳩山、小沢・民主党内閣の時代です。この政権は、はっきりと「反アメリカ、親中国政権」でした。まず、お二人は、「日米中正三角形主義者」。

現状から見ると、「アメリカと離れ、中国に接近する」となる。「最低でも県外!」と宣言した鳩山さんは、米軍を沖縄から追放しようとし、日米関係をボロボロにしました。一方、小沢さんは、大視察団を率いて訪中。「私は、人民解放軍の野戦軍司令官である!」と高らかに宣言しました(これ、冗談みたいな話ですが、ホントです)。小鳩時代、日本は、はっきりと「アメリカを捨てて中国に走る」姿勢を世界に示したのです。

しかし、私たちは、子供ではなく大人です。こういうことをしたら、アメリカサイドから「何らかのリアクションがあるよね」と考える必要がある。

日本人の多くは、「日本はか弱い小国だ」と思っているでしょう? か弱いかもしれませんが、なんやかんやいっても、日本は「世界第3位の経済大国」です。日本は、中国と、米国債保有高1、2位を争っているような国なのです。

はっきりいえば、「日本がアメリカ側にいれば覇権は維持できるが、日本が中国に行けば、中国が覇権国家になれる」ぐらいのインパクトはある。そんな国を、アメリカが黙って手放すハズがない。

何はともあれ、反米親中鳩山内閣は、短期で終わりました。次の菅さんは、反省して、少し親米になった。「TPPで第3の開国をする」などといって、オバマさんを喜ばせました。

そしたらどうです? 中国が、攻撃的になってきた。それで2010年に起こったのが、「尖閣中国漁船衝突事件」です。この後、中国は、「尖閣はわが国固有の領土であり、核心的利益である!!!」と全世界に宣言しました。そして、さまざまな制裁を課してきた。「レアアース禁輸」には、ホント驚きました。次の野田さんは、2012年9月、尖閣を国有化し、日中関係を戦後最悪にしました。私は、国有化に賛成ですが、「事実として」日中関係は最悪になった。

こうやって振り返ってみると、日本がアメリカを捨てて中国に走ろうとした後、ロクなことがなかった。なぜ? 大国とか自立国家は、いろいろな国と仲良くできます。しかし、日本のような依存国家が「二股外交」をするといいことないのです。

いい例が韓国です。韓国も、李さんと朴さんの時代、アメリカを捨て中国に走った。朴さんは、米中の板挟みになって動けなくなった。それでボロボロになりました。ウクライナも、親ロシアのヤヌコビッチさんが、「浮気心」をだし、欧米に接近した。そしたら、ロシアから圧力がかかり、欧米接近を考え直した。すると、革命が起こり、ロシアに亡命するハメになった。次に起こったのは、ウクライナ内戦です。

ここまでで何が言いたいのか? 「アメリカを捨てて中国につく」というのは、「もう試したことあるよね」「酷い目にあったよね」ということなのです。

日中同盟でも、尖閣、沖縄は、中国領になる

日中同盟のようなことになると、尖閣諸島や沖縄は中国のものだとの主張もしなくなる

(Mさまのメールから)

これは、少しナイーブ過ぎるでしょう。私は、「日中同盟成立でも、尖閣、沖縄は中国領になる」と思います。何といっても、中国は「尖閣は、固有の領土である!」「日本に沖縄の領有権はない!」と宣言している。

フィリピンの例を見てみましょう。フィリピンと中国の間にも、「領土問題」があります。フィリピンは、力では勝てないので、仲裁裁判所に訴えを起こした。で、去年の7月に判決が出た。結果は、フィリピン大勝利、中国大敗北でした。

仲裁判断、中国外交に大打撃 習主席「一切受け入れない」

AFP=時事 7月13日(水)10時7分配信

 

【AFP=時事】オランダ・ハーグ(Hague)にある常設仲裁裁判所(PCA)が南シナ海(South China Sea)をめぐる中国の主張には法的根拠がないとの判断を示したことについて、中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は、一帯の島々は古来より中国の領土だとして、政府は今回の判断に基づくいかなる行動も受け入れないと述べた。国営の新華社(Xinhua)通信が伝えた。

フィリピンの訴えを受けた裁判で仲裁裁が12日に下した判断は、天然資源も豊富な南シナ海の支配に野心を燃やす中国にとって外交的な大打撃となった。中国政府は真っ向から拒絶しており、中国外務省は同日のうちに「判断は無効で何の拘束力もない」との声明を出した。新華社によると、中国の在オランダ大使は「きょうはハーグにとって『ブラックチューズデー(黒い火曜日)』になった」と批判。判断は「国際法を辱めた」とこき下ろした。

おかしいのは中国ではなく、仲裁裁判所だそうです。そして、中国は、この判決を「完無視」することにした。で、フィリピン、中国のケンカはどうなったの????? こちらです。

南シナ海問題、「中国を止められない」ドゥテルテ比大統領

AFP=時事 2017年3/19(日)21:43配信

 

【AFP=時事】フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ(Rodrigo Duterte)大統領は19日、中国はあまりに強大であり、フィリピンや中国が領有権を争う南シナ海(South China Sea)のスカボロー礁(Scarborough Shoal)で中国が進めている構造物建設を止めることはできないと述べた。

どうしてこういう発言になったのでしょうか?

2012年から中国が実効支配するスカボロー礁に関しては、西沙諸島(英語名:パラセル諸島、Paracel Islands)の永興(Yongxing)島(英語名:ウッディー島、Woody Island)に中国が設立した三沙(Sansha)市の市長が、環境モニタリング基地を建設すると語ったと伝えられている。

(同上)

三沙市というのは、2012年にできた新しい「市」です。その市長が、「環境モニタリング基地を建設する」と語った。記者会見でこの発言について質問されたドゥテルテさんは、こう言いました。

「われわれは中国を止めることはできない」

「私にどうしろというのか。中国に宣戦布告をしろとでも。それはできない。(中国と交戦すれば)わが国は明日にも全ての軍隊と警察を失い、破壊された国となるだろう」

事実上の「敗北宣言」です。どうですか、これ? フィリピンは、仲裁裁判所で勝ったにも関わらず、領土を奪われた。しかも、ドゥテルテさんは、Mさんが主張するように、「アメリカを捨てて中国に走った」のです。それでも、結局領土は失いました。

こういう例もあるので、「日中同盟なら尖閣、沖縄は安泰」とはならないでしょう。むしろ、「日中同盟の話は、尖閣、沖縄をわが国(中国)に返してからだ!」などと無茶な要求をされる可能性が高いと思います。

日中同盟で、日本は一党独裁の人権侵害国家に

冷戦時代、アメリカの同盟国は、ほとんど資本主義、民主主義の国でした。一方、ソ連の同盟国は、みんな共産党の一党独裁国家でした。なぜ?「支配される国は、支配する国の影響を強く受けるから」です。

日中同盟が成立したとしても、その関係は、対等ではありえないでしょう。中国が「主」、日本が「従」になることは、間違いありません。そして、日本は、中国の影響を受け、徐々に変質していくことでしょう。中国型の社会に変わっていく。日本も、「一党独裁」の「人権侵害国家」になっていくということです。

皆さん、マスコミは毎日毎日安倍さんの悪口を言っていますね。それを見て、私は「なんと健全な国だろう!」と思うのです(日本にいる皆さんは、「マスゴミ!」と批判しますが)。同じことを中国でやってみてください。あなたは、必ず捕まります。ノーベル平和賞を受賞した劉暁波さん。彼は、ただ「中国も民主主義にしましょうよ!」と提案しただけです。それで、投獄されて、最近亡くなりました。

皆さん、どうです? ブログで安倍さんの悪口を書いたら、捕まるような国にしたいですか? 私は、一党独裁国家のソ連をみたことがあるので、自信をもっていいます。「やめた方がいいですよ」と。

日中同盟で、日本は中国に吸収される

日本とアメリカは同盟国です。だからといって、アメリカ人が日本に大量移住してくることはありません。

しかし、日本と中国が同盟国になれば、別の動きになるでしょう。ビザはなくなり、中国政府は「日本への移住」を国策とするはずです。実際、中国は、チベットにも新疆ウイグルにも漢民族を大量移住させ、「中国化」を進めている。この国には13億人もいるので、1億人日本に移住させたとしても、屁とも思わないでしょう。結果、いずれ日本は中国が実効支配する国になるでしょう。

というわけで、私は「共産党の一党独裁国家」との同盟には反対です。

大切なのは関係の秩序

しかし、私は、「中国とはいい関係を築いた方がいい」と思います。大切なのは秩序です。日本とアメリカは、「同盟関係」にある。だから、日米関係を第1に考えるのが当然なのです。日米関係を第1にしたうえで、中国と仲良くするのは、一向にかまいませんし、むしろそうすべきです。

安倍総理は、そうされていますね。総理は、オバマさんともトランプさんとも仲がいい。しかも、ロシアのプーチンとも仲がいい。米ロ関係が最悪であるにもかかわらず、日米関係、日ロ関係は、とても良好なのです。

これは、「二股外交」ではありません。総理は「アメリカを軸にして、ロシアとも仲良くしている」。だから、ロシアと仲良くしてもアメリカとの関係は揺るぎません。同じように、「アメリカを軸にして、中国と仲良くする」のは、OKですね。そして、総理は、そのようにされています。

皆さん思い出していただきたいのですが、日中関係を最悪にしたのは、民主党の野田さんです。安倍さんになってから、徐々に改善している。これは、誰がどう考えても否定できない事実です。

image by: 首相官邸

出典元:まぐまぐニュース!