大詰めを迎えたW杯アジア最終予選。日本代表は8月31日、ホームの埼玉スタジアムにオーストラリアを迎える。この一戦に勝てば6大会連続での本大会出場が決まる一方、引き分け以下に終われば、出場権の行方は9月5日、アウェーでのサウジアラビアとの最終戦まで持ち越される。

 もちろん日本としては、最終戦を待たずにオーストラリア戦で決めたいところだが、逆にオーストラリアは日本戦をどう見ているのか。アデレード在住で、オーストラリアを中心にアジアのサッカーを幅広く取材、サッカーサイト『SBS the World Game』や『Four Four Two シンガポール』に寄稿するほか、『アルジャジーラ』のリポーターも務めるポール・ウィリアム氏に、日本戦について聞いた。

 ウィリアム氏はまず、現在の日本代表についてこう語る。


オーストラリア代表の中盤のカギを握るひとり、アーロン・ムーイ

「いまの日本はこれまでオーストラリアが対戦してきた日本とは違う。2014年のブラジルW杯以降はどこかうまくいっていないように感じるし、オーストラリアはかつての日本に感じていたような恐怖心を持っていない。もちろん、アジアの強豪としてリスペクトはしている。でも、本当の意味での恐れはなくなっている。だからオーストラリアの多くの人々は、埼玉スタジアムでも勝利できると自信を持っている。4年前の予選のときとは、明らかに雰囲気は変わりつつある」

 そして日本で警戒する選手について、こう続けた。

「このところ台頭してきた新世代のタレントは観ていてワクワクするし、久保裕也、大迫勇也、原口元気の新しい3トップはすごくいい。日本の前線はしばらく香川真司、本田圭佑、岡崎慎司と決まっていたから、ある意味、想定内だった。それが新しいメンバーが入ってチームに活気が生まれたし、オーストラリアとしても彼らの動きには警戒が必要だろう」

 では、自国オーストラリアの状態についてはどう見ているのか。オーストラリアはここまで予選8試合を戦い、4勝4分けと負けがない。

「目を見張るような出来ではないけど、手堅い戦いはしていると思う。ここまで無敗のオーストラリアだが、アウェーのタイ戦(2-2)やイラク戦(1-1)は、勝利を期待されていたのに勝ち切れなかった。結局、それがオーストラリアのダメージになっていて、もしそこでポイントを落としていなければ、今頃すでに予選突破を決めていたはずだ。

 そうは言っても予選全体としては悪くないとも思う。アンジェ・ポステコグルー監督は積極的に新しい選手を起用して、中盤にはトム・ロギッチやアーロン・ムーイら新戦力が台頭してきた。ただ、最終的な評価は予選を突破できるか否かで決まる」

 ウィリアム氏がキープレーヤーに挙げているムーイは、今季プレミアリーグに初昇格したハダースフィールドで背番号10を背負い、クリスタルパレスとの開幕戦では、左右の正確なキックで2得点を演出して勝利に貢献。第2節のニューカッスル戦でも、左サイドからのカットインから決勝ゴールを挙げるなど好調だ。

 中盤にタレントが多いことで、オーストラリアは今年の3月以降、3-4-3とも3-6-1(3-4-2-1)とも取れる3バックを試している。

「強みは明らかに中盤にあり、最近はシステムも中盤に重点を置く形に変えている。特にこの1年から1年半の間に台頭してきたのがムーイと、セルティックで中心選手となったロギッチの2人だ。

 逆に弱点があるとすれば守備になる。コンフェデレーションズ杯は3バックで戦ったが、このシステム変更により、サイドにサイドバックではなくウィングバックを配したこともあり、相手にその裏を突かれることも少なくなかった。選手はまだそれに慣れている段階で、日本にそこを付け込まれるようだと苦しくなるかもしれない」

 たとえば右ウィングバックのマシュー・レッキーはドイツのヘルタ・ベルリンに所属し、ブンデスリーガのシュツットガルトとの開幕戦では2ゴールの活躍を見せたが、本来はFWの選手。攻撃力がある一方で、守備に慣れた選手ではない。

 また、オーストラリア代表は30人の予備登録メンバーをベンチ入り可能な23人に絞る過程で、これまで主将を務め中心的な役割を果たしてきたMFミル・ジェディナクが故障を理由に外れた。チームへの影響はどうか。

「中盤での存在感を失うという見方もできるが、彼はボールを失う回数も多かった。今回はかつてJリーグのジェフ千葉でプレーしたこともあるマーク・ミリガンが代わりを務めると思うが、私の意見では、彼の方がジェディナクよりいい選手。もちろん、キャプテンが不在というのは大きな損失ではあるが、プレーそのものに関してはそれほど影響はないと思う」

 日本は過去のW杯予選で5分け2敗とオーストラリアに勝ちがない。直近では昨年10月に敵地メルボルンで1-1と引き分けている。

「調子に関係なく、オーストラリアと日本の対戦はいつも接戦になる。だから、今回も同じような展開になると思う。日本は勝てば本大会出場が決まるが、オーストラリアだって勝てばほぼ確実にできる。だから両チームとも勝利を追求して戦うはずだ。どちらが勝つか予想するのは本当に難しいし、両チームの力はそれくらい拮抗している。あえて予想するならスコアは2-2というところだ」

 オーストラリアが勝利するには、どんな展開が理想だろうか。

「単純だが、失点しないこと。オーストラリアが失点しないまま時間が経過すればするほど、ホームの日本にはどんどんプレッシャーがかかると思う。日本はこれまでもプレッシャーにうまく対処できないところを垣間見せているしね。だからこそ、オーストラリアはアグレッシブに戦う必要があるし、日本にリズムをつくらせないようにして、早い時間帯で先制点がほしい。日本に焦りを生み、オーストラリアを追いかける展開に持ち込めれば勝利するチャンスは膨らむと思う」

 逆に日本としては、相手ウィングバックの裏を狙いつつも、どれだけ守備陣が耐えられるかが試合を分けるポイントになりそうだ。オーストラリアの守備陣はフィジカル的な強さがある一方で、足元の技術には長けているわけではない。より長く相手DFにボールを持たせる展開にできれば、流れを掴めるかもしれない。

 オーストラリア戦のあと、日本は中4日で時差と長距離移動を伴うサウジアラビアとのアウェー戦を迎える。対してオーストラリアは日本戦のあとは日本と同じく中4日で最下位のタイとホームで対戦。サウジアラビアは29日にアウェーでUAE戦を行ない、その後は中6日で日本戦を迎える。ウィリアム氏は最終的にW杯出場を決めるのはどこになると思うか。

「現時点ではコイントスみたいなものだ。日本についていえば、私はサウジアラビアとの最終戦までもつれると思う。そしてアウェーのサウジアラビア戦はいつだって難しいし、特に今回はサウジアラビア自身もW杯出場を争っているから大変だ。もちろん、日本は高い確率で突破できるとは思うが、ほかの試合の結果にも左右される。残り2試合の結果を予想するのは簡単じゃないが、私はオーストラリアが1位、日本が2位で突破すると見ている。ただ、直接対決だけでは決まらないから、簡単に状況がひっくり返る可能性もあり、最後まで目が離せないだろう」

 オーストラリアは最悪、日本に敗れても、ホームのタイ戦で勝利すれば出場権を手にできると踏んでいるフシもある。その精神的な余裕がいい方向でチームに働いているとすれば、日本にとってはこれまで以上に厄介な相手となりそうだ。

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