そして本田圭佑(ミラン)。開幕から7戦を終えたセリエAで2試合の途中出場、わずか19分間しかピッチに立っていない男は、驚くほどポジティブな思考回路を携えてハリルジャパンに合流している。

「自分の中では久しぶりに試合をすることが楽しみなので、ある意味でワクワクしていますね。試合勘がいろいろと言われているところは、当然ないわけがない。それをいかに結果へ結びつけるかが求められているので、心配する声を消せるくらいの結果を出したい」

 本田によれば、出場機会の激減は今シーズン限りで契約が満了することに伴い、チーム内の序列が低下していることが原因だという。加えて、本田をして「ミランに行ってからちょこちょこ出られない時期が、監督が代わるたびにあった」と言わしめる状況が、今夏に就任したヴィンチェンツォ・モンテッラ監督の下で再び生まれた。

 そのたびに日々の練習に対する真摯な姿勢を通じて評価を覆させ、招集された日本代表でも確固たる結果を残してきた自負がある。実際、UAE戦でも先制点を決めている。自分の中で不変の“方程式”が稼働しているからこそ、本田は不敵なオーラをチームの内外にまき散らす。

「大事なのは日々のトレーニング。それが絶対的な自信を与えてくれる。良くないことかもしれないけど、そういう(試合に出られない)課題を何度か経験したという点で、対応の仕方がうまくなっている、というのがある。それも全く不安になっていない要因の一つかなと。(イラク戦で求められるのは)受け身にならないことと、悪い意味でもプレッシャーを感じないこと。アジア最終予選は必然的にプレッシャーが掛かってくるし、ある意味でワールドカップ本大会の方がリラックスできる。ワールドカップに行かないといけない、という状況がそうさせている中で、大事なものは精神のあり方。プレッシャーを抱えられる選手はそうすればいいし、抱えられない選手も若手の中にはいると思うので、僕らを含めて(中堅やベテランが)そういうものを緩和させられればいい。僕から言わせてもらえれば、こんなのはプレッシャーでも何でもない」

 オーストラリアがアジアサッカー連盟に転籍してから、4度戦ったアジア最終予選は3分け1敗と一つも勝てていない。岡田ジャパン時代の2010年6月には、同じメルボルンで1−2と苦杯をなめさせられてもいる。今回も苦戦必至という状況なだけに、イラク戦は負けることはもちろんのこと、引き分けすらも許されない。

 来年9月まで続く最終予選の行方を左右しかねない文字どおりの大一番へ。ハリルジャパンを取り巻く状況は決して楽観できるものばかりではない。だが、吹きすさぶ逆風を真っ向から受け止めた上で、選手たちは勝利をもぎ取るために最も大切な“心のデュエル”をすでに繰り広げている。

文=藤江直人