(右)プラス株式会社ジョインテックスカンパニー執行役員 伊藤羊一氏「プレゼンはライブ。トークはボーカル、資料は楽器」(左)POOL inc.代表/コピーライター 小西利行氏「みんな頑張って“伝えよう”として失敗する」

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かたや売れっ子コピーライター、こなた孫正義が唸ったプレゼンマスターが、人を動かす「魔法の言葉」の見つけ方について語り合った。

【伊藤羊一(プラス株式会社ジョインテックスカンパニー執行役員)】最近はパワーポイントの弊害というか、パワポで資料を作ると、なんとなくそれっぽく見えるので、ロジックが繋がっているようで繋がっていない資料をよく見かけます。

【小西利行(POOL inc.代表/コピーライター)】パワポを攻撃するわけではないのですけれど、アマゾンのジェフ・ベゾスもパワポ禁止したって言いますよね。資料がもろに資料で終わっているのが多い。読んでいて、「うわぁ、薄っぺらいな」と思うようなものは、つらいですね。

【伊藤】プレゼンの目的は相手を動かすことで、そのために話術も使うし、資料も使う。プレゼンはエンターテインメント。いわばライブみたいなものだから、トークはボーカル、資料は楽器、1つのパートみたいなものですよ。

【小西】資料作りが目的になっている人は、凄まじく多いですよ。楽器だといわれれば、なるほどですね。

【伊藤】楽器だとすると、当然、テクニックも必要です。音程が正確でリズムも狂わないみたいなこともいいけれど、大事なのは、演奏が聴衆の心を捉えるかどうかでしょう。

【小西】今の日本のプレゼンの資料って、緻密だけれど、それだけ。それよりも、その人の意思やアイデアを聞きたいのに。

【伊藤】僕は、オフィス用品流通事業で企業に商品・サービスを提供するほか、新規事業の開発をしており、そこは完全なBtoBの世界です。広告のように広く一般のお客様に対して、訴えかけていくということはほとんどありません。

僕自身が作る資料は、今こうだけれど、こうしたいよねと。商品、サービス単体でどう、というより、みんなでこうしようぜ、僕らが思うこんな未来に行こうぜと、まだ見ぬ世界に連れていく提案です。

僕が資料作りで気をつけているのは、修飾語は極力排除して、簡単スッキリ、中学生でもわかるような言葉にする。これがまず1点目。

2点目は、相手を話に引き込まなければいけない。それにはストーリーが重要ということです。「〜から〜ある」と繋いでみて、話に説得力があるかどうか。わかりやすく言うと、「食べなければ痩せる」というのは、繋がっているわけです。でも、「食べても痩せる」は繋がっていないから、そこになにか付け加えないといけない。例えば「食べても炭水化物を摂らなきゃ痩せる」とか。やはりロジックは大事ですね。

3点目は情熱的にいくこと。情熱っていったいなんやねんという話になるわけですが、例えば小西さんが「伊右衛門」のクリエーティブをやられるときは、たぶん、世界で一番「伊右衛門」を好きになっているということじゃないかと思うのです。僕も自分が話をするコンテンツは、世界で一番好きです。少なくとも俺以上に詳しい奴はいない。これが情熱なのかなと。

だから3つ。1番目はスッキリ簡単にすること。2番目はストーリーにすること。3番目は情熱的にいくこと。これが言葉を考えるときの、ほぼすべてですね。

【小西】それはむしろBtoC的な考え方ですよね、僕が言うべきことだとイメージしていたので、とても驚きました。

【伊藤】BtoBの場合は、もともと同じようなレイヤーで仕事をしている人が多いので、グダグダ言っていても最終的には伝わる。そのなかで、より強烈に伝わるには? を考えればいいので、ある意味BtoCより楽だと思っているんです。

BtoCの場合は、一発勝負、1つの言葉で勝負をしなければいけないことってあるんじゃないですか。

【小西】それは多いですね。聞いていて思ったのは、実は共通点が多いんだなと。広告というと、BtoCと思われるのですけれど、BtoCの前に、BtoBがあるんです。まずクライアントを説得しなければいけない。ですから、今、伊藤さんがおっしゃったように、一緒にこの物語を描いたほうが楽しそうじゃないですか? と提示するんです。

資料作りの言葉でいうと、いつも2つのことを考えてます。1つはまったく同じなのですけれど、難しいことをやさしくすること。いつもクライアントには、製品にまつわる一番難しいこと、どうやって表現すればいいかわからないことを列挙してくださいと聞くんです。それを簡単にできたらその商品は売れます。簡単にならなかったら、それは商品の問題ですと(笑)。例えば、商品をどう伝えればよいかわからないときなんかは、ネーミング化するといきなり伝わったりするんです。

昨日、お酒を飲んでいて、とんでもなくでかいレモンサワーが出てきたのですが、メニュー名が「男前サワー」でした。単にレモンサワー大だったら興味はないけど、「男前サワー」と書いてあったら、なんだろう? と思って注文してしまう。すごく単純だけれど、相手の興味の一番先端には、何か簡単に伝わるものがあるはず。そこをつかまえにいきますね。

もう1つは相手の立場に立つこと。今、僕が話している「あなた」に、どう伝わっているのかを想像する。相手が課長さんだったら、彼は間違いなく部長に今日のプレゼンを上げなきゃいけない。だったら部長に上げやすいように、こう伝えてみてくださいと渡すと、「上げやすくなりました、ありがとうございます」となる。

【伊藤】僕はよく「幽体離脱」という言葉を使うのですが、幽体離脱して上空から第3者的に見て、どういうふうに聞き手が感じているかを意識しています。聞いている人が上司に上げる情景もイメージします。

恐らく簡単スッキリとか、ストーリーとか情熱というのは、必要条件。十分条件は、話をするときに聞き手をイメージするということ。そこで圧倒的に、伝わる、伝わらないの差が生まれると思うんです。

【小西】代理店の人って、しゃれた外来語をよく使うんですよ。普通に「KPI」とか「グロース」って得意先に言う。相手もうなずいているんだけど、実はわかっていないことも多い(笑)。

【伊藤】当たり前に言われると、知らないとは言えないですよね。

【小西】同じ話を女子高生にしろと言われたら、KPIなんて使わないじゃないですか。ちゃんとわかる言葉を選んで喋るはずなんです。

【伊藤】そもそも話してなにをするのという話ですよね。商品のコピーでいえば、お客様に商品を欲しいと思わせて買ってもらうとか、会社の方針を変えてもらうとか。結局、聞き手に動いてもらうためにやっている。ならば聞く側が内容を明確にイメージできないと、動くわけがない。

【小西】「伝える」のと「伝わる」の違いって、よく言うのですけれど、例えば新人だと、コピーを書けとなった瞬間に、自分が思っていることはこうだって、まとめようとする。そして一生懸命に伝えようとする。でも、相手を意識していないから、エゴな文章になって伝わらない。

【伊藤】聞き手の立場に立って考えましょう、相手を思い浮かべながら、その人が動きたくなるようにアプローチしましょうと、言うのは簡単じゃないですか。ただ、実行するのはすごく難しいのかな。

【小西】その意識があるかないかで決定的に変わると思いますよ。100回に何十回でもいいから、相手のために書こうと思うようにすれば、少しずつ変わって、ある程度までいけるんじゃないでしょうか。

【伊藤】先ほど、小西さんがおっしゃっていたネーミング化も、それだけ見るとテクニックみたいだけれど。相手のことを考えた場合、10分のプレゼンが終わったときに、キーワードがひとつ残っていればいいわけです。拡散した話をギュッと絞ったらこのキーワードになる。相手はこういう思考回路を経て、ここに至るとイメージしながら語れるかどうかというのは重要ですね。

【小西】上層部にいくほど、忙しくて1件にかけられる時間がないじゃないですか。担当者が1年間頑張った結果を社長の前で10分プレゼンするのでも、1年間の頑張りをこの10分に集約しようとすると間違っちゃうんですよね。10分で100喋ろうとしちゃう。でも、1しか喋っちゃダメなんです。ザーッとそぎ落として、この状況でこうでしたというのだけを示して、「ああ、まあ、いいんじゃないか」と社長に言わせれば勝ち。

【伊藤】相手を迷子にさせないというか、きちんとガイドするというのは重要ですね。セミナーで話すときに、だらだら喋りだすか、大事なのが3点ありましてと始めるかで、聴衆の反応は全然違う。大事なことが3点ありますって言うと、みんなペンをとって1って書くんですよ(笑)。

【小西】僕が講演でやるのは「今から言うことは大切ですので、メモの用意をしてください」と言って、スライドを投影する。そこにはものすごく細かい文字が何百字も書いてあって読めないので「バカな……」と笑いが出る。でも「これが皆さんのいつもの企画書です」って言うんです。で、「これが正しい企画書の書き方です」と言って文章の一部だけ赤くして見せる。そこだけは読めるようになるでしょ。必要なのは残すこと。

ここだけ見ればいいですからって言ったら、そこだけは見てくれる。

【伊藤】広告のコピーって、そういうことなんですね。いろんなことをひと言にギュッと。

【小西】集約しているんですね。これだけを覚えてくださいと。

プレゼンでも肝心なのは、相手がなにを持って帰るか、どう考えやすくするかだから、写真でも、ネーミングでも、目標でもかまわないので、一番、相手に持って帰ってもらいたいものを明確化して示す。それでいけると思います。聞いている人を味方にするというか、巻き込む作業なのですね。巻き込めたら勝ちです。

【伊藤】先ほどのキーワード化ですけれど、それに気がついたのは3年半前にソフトバンクアカデミアという、孫正義さんの後継者を育成する虎の穴みたいなところにいたときのことです。新規事業プランのプレゼンで、これはグチャグチャ説明しても覚えてくれないだろうなあと。で、これはなにかと考えて、キッチリくるから「キチリクルン」としたんです。

で、実際に「キッチリくるからキチリクルン、キッチリくるからキチリクルンなんです」と言って、あとは5分間、いろんな話をした。僕のあと30人ぐらいプレゼンしたのですけれど、終わってから「なんだっけ、キチリクルン? キッチリくる」って孫さんが話しかけてきた。孫さんの頭に「キチリクルン」がインプットされていたんです。これって大事だなと、そのとき勉強しましたね。

拡散させていく部分はテクニック。見やすいグラフを作るとか、デザインはシンプルにとか、僕が最初に言った3原則のようなものは、ここでカバーされるわけです。

でも、それをギューッと絞り込んでいく作業を、たぶん多くの人がやっていない。一般のビジネスマンは、そこのプロセスを軽んじているのかもしれないですね。

【小西】今後、絶対必要になってくると思うんですよね、それをすれば、みんなが動きやすい。

【伊藤】資料を作るときって、最初はとにかく拡散させます。ものすごい分量になって、そこからポイントを絞り、言葉を削り、ストーリー化していく。それが収縮のプロセス。これは、ほぼ気合と根性の世界です。

【小西】僕の場合は、先にキーワードを作ることも多いです。キチリクルン(笑)を先に作るんです。なんとなく、短い言葉をぼんやりとひたすら書く。するとこれは面白そうだなと思うやつが出てくる。そこから逆算すると、ピタッと合うときがあるんですよ。

【伊藤】ただ、ロジカルだけでは鼻につくし、面白くもない。そこをどう表現するのかというのは、たぶんあって。鼻につかないようにするというのは大前提だし、そうは言っても、ロジックは、8割方繋がっていないと、なにを喋っているかわからないのですけれどね。

【小西】ロジックが繋がっているけれど、そこに「ヘェー」という驚きがあれば、そんなに嫌じゃない。そこだと思いますね。コンサルティングの人の話とかで、たまに困ったなと思うのは、ロジックは整然としているけれど、なんの発見もないっていうか、あなたの会社は、こうで、こうで、こうです。だからここの部分を強化したほうがいいですよ、みたいな。そんな正論を真顔で言われましてもね(笑)。だったら、どうやったら解決すると思うか、アイデアを提示してください、ですよ。

さっきの伊藤さんの話で言うと、収縮させるときに、たくさんのものを1つにするためには、そこにアイデアがないと無理なんです。そのアイデアをみんな聞きたがっているんですね。発想が飛んでいるというか、理屈じゃなくて、アイデア化。それが人を動かせるかどうかという。

【伊藤】そうか、飛んでいる部分があるから面白いのか。

【小西】そうですね、きっとそうだと思います。

▼伊藤さんの資料作り3原則
1. 簡単・スッキリ
2. ストーリー化
3. 情熱的に

▼小西さんの資料作り3原則
1. 相手の立場に立つ
2. やさしく
3. ネーミング化

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プラス株式会社ジョインテックスカンパニー執行役員 伊藤羊一
1967年生まれ。東京大学卒業後、日本興業銀行を経て、大手文具メーカーのプラスに転職。流通の変革に携わる。孫正義の後継者発掘・育成を目的としたソフトバンクアカデミア外部1期生。グロービス経営大学院で講師も務める。
 
POOL inc.代表/コピーライター 小西利行
1968年生まれ。大阪大学卒業後、博報堂を経て独立、2006年POOL inc. 設立。CM制作から商品開発、都市開発までを手がける。主な仕事に日産自動車「モノより思い出」、サントリー「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」ほか。

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(遠藤成=構成 奈良岡忠=撮影)