牛乳なら1日コップ3杯程度

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骨がスカスカになり、もろくなる骨粗しょう症。罹ると骨折しやすくなるだけでなく、一見関係がなさそうな、恐ろしい病気を引き起こす可能性もある。

予防のためには普段から、カルシウムを多く含む乳製品や大豆製品、野菜、海藻類を食べる心掛けが大切だ。

骨粗しょう症は女性ホルモンの減少が主な原因

骨粗しょう症は、加齢による骨密度の低下や、骨代謝に関わる女性ホルモン(エストロゲン)の減少が主な原因だ。このほか偏った食事や運動不足、喫煙などの生活習慣も影響を及ぼすと考えられている。男性にも見られるが、閉経後はエストロゲンが急激に減るため、女性の患者が多いのが特徴だ。日本人女性は平均して50歳前後に閉経を迎える。その後、急速に骨粗しょう症が進行するケースが多い。一方、無理なダイエットから栄養不足になり、骨粗しょう症になってしまう若い女性も増えている。自覚症状がないため気づかぬうちに進行し、背骨を圧迫骨折し、ちょっとしたことで骨折しやすくなる。

骨だけではない。最近、骨粗しょう症が突発性感音難聴のリスクを高める可能性があるという興味深い研究結果が報告された。突発性難聴は難病に指定されており、厚生労働省が管轄する難病情報センターのウェブサイトによれば、「生来健康で耳の病気を経験したことのない人が、明らかな原因もなく、あるとき突然に通常一側の耳が聞こえなくなる病気」と定義されている。

今回、米国内分泌学会が行った研究では、1999~2008年に骨粗しょう症と診断された台湾在住の1万660人と、骨粗しょう症ではなかった3万1980人の医療記録から、2011年末までに突発性感音難聴と診断された人数を比較分析した。その結果、骨粗しょう症患者の突発性感音難聴のリスクは、そうでない人に比べ1.76倍も高いことがわかった。メカニズムは明らかになっていないが、研究者は「心血管リスク因子や骨脱灰(骨からミネラルが溶け出すこと)、炎症などが関与しているのではないか」と考察している。突発性難聴は早期の治療で85%は回復が見込めるため、異変を感じたらすぐに医療機関を受診することが望ましい。骨粗しょう症の人は、「突然聞こえなくなる」リスクが高い可能性を頭の隅においておけば、もし発症した場合も迅速に対処でき、早期治療につながるのではないか。

心筋梗塞や脳梗塞のリスクも増える

骨粗しょう症が心血管や脳血管に影響を及ぼすという報告もある。骨がもろくなることと血管の病気に何の関係があるのかと疑問だが、メカニズムはこうだ。

体内のカルシウムが不足すると、骨からカルシウムが血液中に溶け出す。しかし血液中のカルシウム量が増えすぎると、余剰分が血管壁に付着する。これが石灰化して血管を硬くし、動脈硬化を招く。進行すれば、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる重大な病気を引き起こす。骨粗しょう症の真の恐ろしさは、これらの合併症にあるのだ。

骨粗しょう症を予防するには、偏食や過度なダイエットは避け、カルシウムやビタミンDなど骨をつくる栄養を十分にとる、骨に負荷をかけ、丈夫な骨にするための適度な運動を心がける、カルシウムの吸収を妨げるタバコは控える、利尿作用の強いアルコールは飲み過ぎに気をつけるなど、日々の心がけが大切だ。とくに日本人はカルシウム摂取量が少ない傾向にあるので、意識的にとる必要がある。

「日本人の食事摂取基準2015」(厚生労働省)によれば、30代以上の人のカルシウム摂取推奨量は650〜700ミリグラム。牛乳やチーズなどの乳製品のほか、豆腐や厚揚げなどの大豆製品、小松菜やひじきなどの野菜や海藻類、いわしや桜えびなど骨や殻ごと食べられる魚介類に多く含まれている。牛乳なら1日コップ3杯程度で推奨量を満たすが、カロリーが気になる人や乳製品が苦手な人は、豆腐とわかめの味噌汁や、桜えびと小松菜入りチャーハンなど、手軽に作れるものを毎日の献立に取り入れることから始めよう。骨密度は専用の検査機器のある医療機関で測定できるほか、40歳以上の女性を対象に定期検診を行っている自治体も多い。気になる人は一度検診を受けてみてはいかがだろうか。[Aging Style取材TEAM/監修:山田秀和 近畿大学医学部 奈良病院皮膚科教授、近畿大学アンチエイジングセンター 副センター長]

参考論文

Increased Risk of Sudden Sensorineural Hearing Loss in Patients With Osteoporosis: A Population-based, Propensity Score-matched, Longitudinal Follow-Up Study

DOI: http://dx.doi.org/10.1210/jc.2014-4316

PMID:25879512

アンチエイジング医師団

「アンチエイジングに関する正確で、最新かつ有効な情報」を紹介・発信するためにアンチエイジング医学/医療の第一線に携わるドクターたちが結成。 放送・出版などの媒体や講演会・イベント等を通じて、世の中に安全で正しいアンチエイジング情報を伝え、真の健康長寿に向き合っていく。HPはhttp://www.doctors-anti-ageing.com 2015年4月1日から医療・健康・美容に関する情報サイト「エイジングスタイル(http://www.agingstyle.com/)」の運営も開始。