大堀相馬焼×雄勝硯シリーズ。商品特徴は、雄勝石を砕き釉薬にしたものを大堀相馬焼に土にかけて焼き上げた素材を生かしている

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3・11の震災により避難を余儀なくされた福島県の大堀相馬(おおぼりそうま)焼と存在の危機に立たされている宮城県の雄勝硯(おがつすずり)。今回はこの2カ所の焼き物制作者が、互いに助け合うシンボルとして創り上げた作品に注目したい。

その作品とは「皿」だ。

「宮城県の雄勝(おがつ)には有数の漁港があります。そこでとれたカキ、ホタテ、銀鮭、ホヤなどが料理されて、おいしくいただいていました。そんななかで、雄勝の素材を使ったお皿を使えば、雄勝の海の幸がより良く見えるはずと感じたのです」と大堀相馬焼・松永窯の松永さん。大堀相馬焼と雄勝硯のコラボレーション立案者である。

「雄勝硯(おがつすずり)を使ったプレートは、どうしても石を平にしたものなので、お皿にはできないし、用途は限られていました。そこで雄勝硯の粉末を用いて、既存の焼き物をかけることで、お皿にしようと考えました」(同)

松永さんのお父様は、震災前から定期的に雄勝に赴いて雄勝石を砕いた粉をもらい、釉薬(ゆうやく=うわぐすり)にされていたという。釉薬とは、焼き物の表面にかかっているガラスのようなもの。

コラボレーションが実現するには課題があった。大堀相馬焼には欠かせない3つの要素があるのだ。

1.「青ひび」=貫入音と共にひび割れが、器全体に広がって地模様なる
2.「走り駒」=狩野派の筆法といわれる絵で、相馬藩の御神馬を熟練された筆使いで手描きされる
3.「二重焼」=焼き物の構造のこと。入れたお湯が冷めにくく、また、熱い湯を入れても持つことができる。大堀相馬焼でしか見られない特徴。

これら大堀相馬焼3つの特徴をどうするか。
「これらの特徴に縛られすぎて、普段使いにくいという欠点もありました。今回は、大堀相馬焼の3つ要素をあえて全て廃して、『モノ』としての良さを伝え、あくまで使い手を考えつつ、きちんと料理に合うような商品を作りたいと思いました」(同)

大堀相馬焼の3つの特徴にこだわらないが、その良さを残す。そして雄勝硯に使われる雄勝石を砕いて釉薬にし、たっぷりと大堀相馬焼の土にかける。これをじっくり焼き上げることで、光沢のある焼き物、「皿」が仕上がった。

仕上がった「皿」は、雄勝硯特有の、美しい黒色の光沢がそのまま生きている。自然光が黒い鏡のような皿の表面を反射して、深みのある光沢を放つ。陶器なのに、磁器のような繊細さすら感じる。硯をすったときの墨は、溶けた鏡のような黒い液となる。「皿」の中でも「四角の大皿」は、心を込めて習字で硯をすったときにできる墨を、器の表面にサーっと広げたような清らかさがあり、観ていて心が洗われる。

避難を余儀なくされ、新天地で窯を稼働させることになっても伝統を守り続ける使命感と必死さ、そしてコラボレーションに至った柔軟さと不安、そして出来上がった「皿」の美しさ、再起を願い、前を向いて行く……。

器に詳しくない方でも、その美しさ、奥深い輝きの源に、人々の復興への願いが込められていることがわかるだろう。
(W.Season)

・大堀相馬焼×雄勝硯シリーズは、「縁器屋」で販売中。