3種類のブラッドソーセージ(『スナップ写真』より)

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今年のはじめ、デンマーク・コペンハーゲンにある世界一のレストラン「NOMA(ノーマ)」が来日した際、マンダリン オリエンタル 東京での期間限定レストランは、キャンセル待ちが数万人とも言われるほど話題になった。

ノーマとは、イギリス『レストラン』誌の「世界のベスト・レストラン50」の第1位を4度も獲得した世界で最もイノベーティブなレストランだ。

そんなノーマの料理や創造プロセスを垣間見ることができる貴重な本、『進化するレストランNOMA』が発売された。

本書は1977年生まれの若き天才シェフ、レネ・レゼピ氏と、彼のもとに集結した才能あふれるチームの創造と思考のプロセスの克明な記録である。核となるのはレネ・レゼピ氏が2011年の一年間、日々の気持ちや行動を赤裸々に綴った『レネ・レゼピの日記』。それに連動した全100種の最新レシピを紹介したレシピブック『レシピ』、ノーマのスタッフや食材などを集めた『スナップ写真』の3冊セットになっている。

「日記、レシピブック、スナップ写真集の3冊から構成され、日記の余白には[レ―32]や[ス―8]などの記号が記載されています。日記を読み進めながら、[レ]が出てきたらレシピ、[ス]ならスナップ写真の該当ページを参照することで、そこで語られている料理の完成形や、スタッフや食材の写真を見ることができます。世界一のレストラン、ノーマの創造の過程をつぶさに目撃する楽しさを味わっていただけます」(ファイドン担当者)

実際に読んでみたのだが、この日記、相当おもしろい。もともとはシェフが創造性のプロセスを見直す目的でつけはじめたそうだが、あとから書籍化されることを知ってか知らずか、日々の感情やふるまいがこれ以上ないほど率直に綴られている。思うような料理ができないときの焦りやいらつき、憧れのシェフが店にくるときの緊張感、資金繰りの悩み……。世界一のシェフがこんなに素顔を公開しちゃっていいの? と思うくらい赤裸々なのだが、その人間臭さに親近感もわく。もちろん、悩んだ後にやってくる達成感や喜びの瞬間の記録は爽快だ。

ノーマの料理は独創的で理解しづらいものも少なくない。だが、本を読んでメニュー考案のプロセスを知ると、単に奇をてらっているわけではないことがわかる。季節ごとの旬の食材や地元の食材に徹底的にこだわり、自然の恵みを最大限に生かしたうえで創りあげているのだ。

日本の期間限定の店舗では、長野県の“アリ(蟻)”を使った料理が出たことが話題になったが、アリはデンマークの本店でも提供している。日記の中には、アリを使うインスピレーションをいつ得たのか、アリを使う料理をどうやって完成させたかのプロセスもあって興味深い。ちなみにアリはレモングラスの風味がしておいしいのだとか。

個人的には、赤字に苦しんでいた記述が意外だった。この日記は2011年のものだから、すでに世界一に選ばれたあと。昼夜ともに満席であったにも関わらず、である。最悪の月などは一人当たり、約1800円の赤字だったこともあるという。いかに妥協なくメニューを追求しているかがわかるだろう。

気になる料理の写真は『レシピ』でじっくり堪能できる。作り方も記されているが、地元の食材を重視しているため、日本では手に入らないものも多く、また調理法も素人向きではない。試しに作ってみるのは難しそうだが、多彩なアイデアとアートのように美しい写真が詰まったブックは見ているだけで楽しい。

もう一冊の『スナップ写真』には世界各国から集まった個性的なスタッフ、食材提供者、季節の食材など、ノーマをめぐるさまざまな瞬間をとらえた200の写真がおさめられている。

この本を読んで一番驚いたのが、シェフをはじめ、スタッフ一同、休みなく働いていること。日記の後半には「創造性へとつながるあらゆる営みの基盤となるのが、日々の重労働なのは明らか」という記述もあった。

「本書の目玉となるのが、世界一のシェフが率直な心情を綴った日記です。料理関係者はもちろんですが、表現者、そしてすべての働く人に読んでいただければと思っています。日記には、世界一のシェフであるだけでなく、50人以上の国際色豊かなスタッフを抱える37歳の若き経営者としての苦悩や葛藤、またそこからたどり着いた答えなどが赤裸々に綴られ、一種の仕事論としても読んでいただけます」(ファイドン担当者)

料理関係者はもちろん、働く人にとって大いに刺激になる一冊。ノーマファンもそうでない人にも、大いにオススメできる一冊だ。
(古屋江美子)
・問い合わせ:ファイドン株式会社(03-6868-4339)