なんで売れてるのか、よくわからないというゴキブリデザイン

写真拡大 (全4枚)

「これはどんな時に使うのだろうか……?」
今回紹介する商品に限っては、そんな心の声にしばし耳をふさいでいただきたい。

目からビームを放つ大仏、かわいいのにキレているペンギンのひな。そんなシュールなデザインのハンコが、巷で結構ウケている。いつ使うのかはぶっちゃけよくわからないが、変なデザインのものほど結構売れているのだそうだ。その数、ざっと500種類ほど。

このハンコを作っているのは「邪悪なハンコ屋 しにものぐるい」というお店。その母体となっているのは、“ゆるTシャツ”が話題の「伊藤製作所」だったりする。

デザインへのこだわりを聞き出すべく社長の伊藤康一さんに話をうかがったのだが、妙にフワっとした内容になってしまった。しかし、このゆるい会話に意外な人生やビジネスのヒントが隠されている……のかも?

――もともとはTシャツ屋さんをやられていて、次にハンコ屋さんをオープンされたんですよね? ハンコを作り始めたきっかけは?
「Tシャツ屋のスタッフと“ハンコ部”とか言って、消しゴムハンコを作ってたんですよ。最初はその消しゴムハンコを生かして商品を作りたいねって言ってたんですけど、消しゴムハンコは量産できないって話になって。それで本物のハンコにしてみたんです」

――計画性ゼロですね……ユニークなデザインが多いですけど、会社だとかでギリギリ使えるものを基準にされてるんでしょうか?
「いや、むしろ使えないものが多いですよね(キッパリ)。会社で失礼になるかならないかでいったら、基本、失礼でいいかなって思ってるんですよ。うちの商品はTシャツもですけど、コミュニケーションツールだと思ってるんです。書類に押せば『いやいやちょっと!』って必ずつっこまれてコミュニケーションが増えるじゃないですか」

――なるほど、ツッコミ待ちというか。
「そうそう、なんだかんだで会話が増えるからうちの商品を使ってくれてるんだと思います。種類も結構ありますから、例えば『大仏の目からビーム』を“うちのオフィスで使うのは飛ばしすぎかな?”って思うようなお客さんなら、かわいいデザインのものを選ぶでしょうし」

――売れ筋のデザインってあるんですか?
「店のある谷中が猫にゆかりのある街だからか、猫のデザインは人気がありますね。伊藤ねこっていう店のキャラクターのはんこもよく売れてます。スタッフが好きな生き物でどんどん作っていったら、いつの間にか増えちゃって。なので生き物の種類もすごく偏ってます。ミジンコなんかの菌類とかゴキブリも結構びっくりされるんですけど、ゴキブリ、売れてるんですよ。僕もなんで売れてるのか、よくわかんないですけど」

――デザインを採用する、しないっていう基準はなんですか?。
「『大仏の目からビーム』や『大仏ちら見』なんかは、かわいい系のものより数が出てるんですよ。どちらかというと、僕らが描きたいか否かで決めていて、売上はあんまり優先してないんですね。お客さんからデザインのリクエストがあっても、申し訳ないけど応えてないんですよ。そういう意味ではほんとにイヤ〜な感じのはんこ屋だと思うんですけど、僕らがやりたいことを面白い! と思ってくれる人は、逆にすごくハマってくれるみたいです。そもそも最初から、そんなに爆発的に売れなくてもいいかなって思って始めてるんで……」

――なるほど。話が戻りますけど、Tシャツ屋さんを立ち上げたときには先行きをどういう風に考えていたんですか?
「僕はフリーターを30歳までやってて、それからTシャツ屋を立ち上げたんですけど。どんな人間でも子供の頃に得意だったことを仕事にできれば“幸せ度”が上がるんじゃないかと思ってるんですよ。例えば僕なら小学校の卒業文集の表紙を描く程度に絵が得意で、クラスのおもしろいやつランキングでいつも1位になっていて。そんな人間が将来こういう仕事をすると、結果が出やすいだろうって思ったんです」

――確かにストレスも少ないし、実際に結果、出てますもんね。
「そんなにうちのTシャツやハンコを世に広めたいとかいう野望はないんです。あ、でも僕はつねづね、『こども写真館をやりたい!』と言ってまして。衣装や設定がおかしな写真館があったらいいなって思うんですね。例えば子供がカモの着ぐるみを着てネギをしょってて、セットが大きな鍋で。お父さんやお母さんは食べる準備してて、これもう完全に食われるよね……? みたいなセットを作りこんで、撮影できるようなスタジオを。今は子供向けの写真スタジオがいろいろありますけど、自分が思う様にセットや衣装をカスタマイズできたらもっと楽しいんじゃないかって思ったんで。いつかハンコ屋とTシャツ屋とそのこども写真館を1つのビルにまとめて、うちの商品が好きな人がそのビルを目指して来てもらえる形にできたらいいなと思ってます」

そんな、ゆるくてオモシロなビジネスプランの数々。一見使い道がよくわからない、でもなんだか気になるハンコには、“毎日をちょっとだけ楽しくしたい”という伊藤さんのこだわりが詰まっているのだと思う。
(古知屋ジュン)

■邪悪なハンコ屋 しにものぐるい 谷中銀座店
住所:東京都台東区谷中3-11-15
営業時間:11:00〜17:00ごろ
休日:不定(火曜休みの場合あり) 
※ウェブサイトでも注文可能