「もう一度音楽シーンのど真ん中に」Mr.Children・桜井和寿が語った決意

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デビューから23年目を迎えるMr.Children。2015年はどんな活動をするのだろうか、プロデューサーの小林氏との不仲の噂は本当かなど、ファンの悩みは尽きない。

こうした疑問の解決に手助けとなるのが、ボーカルの桜井さんが昨年末に受けた「MUSICA2015年1月号」でのインタビューだ。ここでは、昨今の噂の真相や最近のアイドルについて、さらには、桜井さん自身の強い決意などが語られ、ファンにとっては垂涎の内容となっていた。これらについて紹介していこう。

【小林氏との不仲説、その真相は】


昨年末、Mr.Childrenと長年プロデュースを行なってきた小林氏との不仲説が複数メディアで報じられた。事務所の分社化で小林氏と違う事務所になったことや、シングル曲「足音〜Be Strong」で小林氏の関与が一切なかった(これはミスチル史上初)ことが理由に挙げられている。

桜井さんはこれらの「独立」について、小林氏とは喧嘩別れでなく、Mr.Children自身でセルフプロデュースしていくという意志のもと、ポジティブな理由で決めたと説明。これからは、これまで他人まかせにしてきたツアー演出やレコーディングでの細かい部分をMr.Childrenのメンバーたちだけで行なうというのだ。
この判断の背景には、ウカスカジー(桜井和寿とラッパーのGAKU-MCによるユニット)で得た経験が大きく活きるだろうという判断と、「これまでの安定した状態を続けたらどんどん足腰が弱っていく」という不安も理由であったと語っている。

この時の心境は、Mr.Childrenの“再出発”後に出した初めてのシングル曲「足音〜Be Strong」で歌われている、

―“舗装された道を選んで歩いていくだけそんな日々だけど もうやめたいんだ”―

という歌詞そのものではないだろうか。

一方、小林氏もこの判断をポジティブに捉えていた。「Mr.Childrenを活性化させるためにも自分が関与せず、ミスチルのメンバーだけでやってみてもいいのではないか」と語るなど、親心にも似た思いを持っているようだ。

【Mr.Children 過去作への言及】


また、インタビュー内では、今まで語られていなかったアルバムについても言及している部分があった。2010年、2012年にそれぞれMr.Childrenは、「SENSE」と「[(an imitation) blood orange]」というアルバムをリリースした。これらについては今まで桜井さんの口から語られることはなく、どのような心境や意図で作られたのか、明らかにはされていなかった。だが今回、これら2つのアルバムについて詳しく知ることができた。

まず、2010年発売の「SENSE」は、Mr.Childrenとしての演奏をいかにできるかという自分たちに向けられたものであったことが明かされた。つまりは、大衆向け・売れ線を目指したようなアルバムではなかった。これは過去作でいうと「DISCOVERY」や「Q」に近い感覚だろう。
ちなみにこのアルバムは、発売前後に一切のプロモーションも行なわなかった。このノンプロモーションの意図に関しては、「敢えて隠されたものを開いてみたくなる心理を作りたかった」と桜井さんは表現している。

そしてそれから2年後に発売された「[(an imitation) blood orange]」は、東日本大震災が起きて抱いた桜井さん自身の心境が大きく影響しているらしい。そもそも、彼が作詞する歌の多くは、ネガティブからポジティブに変わる心の動きを表現している。たとえば、“いいことばかりでは無いさ でも次の扉をノックしよう”と歌った「終わりなき旅」のように。
だが、震災のような“大きなネガティブ”を目の当たりにして、「果たして歌うことに何の意味があるのだろう、どんな音楽を世に出していいかまったく分からない」という心境を抱いてしまったそうだ。

だが桜井さんは、そんなネガティブがあったからこそ、あえて、悲しみや苦しみが入っていないものを作りたい、とにかくポジティブに振り切れたアルバムを作ろう、と考えて制作に取り掛かった。そうして出来たのが、震災後初めてのアルバムとなる「[(an imitation) blood orange]」だ。確かに言われてみると、「Marshmallow day」や「Happy Song」のように突き抜けた明るさがある歌が多いように感じる。
また、インタビューでは、震災での心情をもっとも音楽として表現できた曲として、「過去と未来を交信する男」(アルバム「[(an imitation) blood orange]」内に収録)を挙げている。

【最近の音楽シーンについて】


ところで桜井さんは、今の音楽についてどんな印象を抱いているだろうか。
まず、VOCALOIDについて。桜井さんの子どもが「カゲロウプロジェクト」が好きなため、自身もPVを見る機会があるらしい。「それらは情報量や刺激が多くて違うプロレス団体を見ている感じがするが、自分の中で取り込めない分野ではない」と話している。

アイドルについても語った。昨今のランキング上位をアイドルが占める現状をどう感じているのだろうか。桜井さんは、「それまでブロマイドを売っていた職種の人たちがCDを売ったというだけの話であり、音楽界の話ではない。」と話し、これらについて、どう捉えていいのかよく分からないらしい。そう語る桜井さんだが、昨年行なわれたTRICERATOPSのライブにサプライズ登場し、そこでAKB48の「ヘビーローテーション」を披露して話題になった。「カバー曲を披露するならみんなが知っている曲じゃないとダメ。今みんなが知ってる曲はAKBしかないなら、本気で歌いたい」との提案を桜井さんから受けたと、「WHAT's IN? WEB」でのインタビューでTRICERATOPSの和田氏は語る。

とはいえ、桜井さんはVOCALOIDやアイドルに対して、やはり「自分たちとは違った世界」と少しシニカルな感情を持っている。それでは、最近の音楽界で好きな歌手はいるのだろうか。昨年出演したMステでは、気になっている若手アーティストに「ゲスの極み乙女。」を挙げた。さらに、「LuckyRaccon 41」でのインタビューで、西野カナに対しては、好きを通り越して尊敬の念を抱いていると告白する。桜井さんは「本番でつい余計な力が入り、不安定になることが多い自分と比べ、彼女はCDクオリティでライブやテレビで歌えるという凄さを持っている」と西野カナを尊敬する理由を語った。

【2015年のMr.Childrenは…】



今年、デビュー23年目を迎えるMr.Childrenは3月からアリーナツアーを行なうことが決定している。では、このツアーも含め、どのような活動を2015年はしていくのだろうか。桜井さん自身は、「新アルバムを制作中だが、それまでの“アルバム発売後にツアー”というルーティンが嫌になった」と今後の活動について匂わす発言をしている。

今までのMr.Childreでは、新たなアルバムがリリースされると、そのアルバムタイトルの名がついたライブツアーが行なわれるのが定番であった。たとえば、アルバム「SENSE」がリリースされた後「SENSE Tour」が行なわれるといった具合に。
しかし、桜井さんの発言を踏まえると、3月からのアリーナツアーは現在レコーディング中の未発表曲が中心になることが予想される。事実、昨年の末にはファンクラブ限定でレコーディング中の未発表曲中心のライブを行なったし、今年の2月には、そのファンクラブ限定ライブを収めた映画の公開を控える。

では、それら新曲が入る次のアルバムはどのようなものになるのだろう。今回のアルバム収録候補の曲では、桜井さんいわく、“実験的”なことを多くしている(「LuckyRaccon 41」より)そうだ。実際に、昨年の「FNS歌謡祭」で演奏された未発表曲「斜陽」は、今までのMr.Childrenでは聞いたことがないような、ロシア民謡を思わせる曲調であったし、「足音〜Be Strong」についても当初は別の曲を桜井さんは制作していたが、“今までのミスチル的な曲”だったためにボツになったというエピソードが残っている。

これらのことから踏まえても、2015年はMr.Childrenとして今まで以上に新たな試みを多くしていく年になるのではないか。これもひとえに“いつまでも未完成”と考え、現状に満足しない彼らの飽くなき向上心の表れだ。

【桜井和寿の苦悩と決意】


また、インタビューを読んでいて強く感じたのは、桜井さん自身がMr.Childrenとしての音楽も含め、現在の音楽界に危機感を抱いているという点だ。というのも、最近の音楽には皆がサビを歌えるような曲が少ない。それこそ昨年でいうと「アナ雪」と「妖怪ウォッチ」くらいしかないだろう。

時代が変わった、というべきか。10年ほど前、Mr.Childrenは「名もなき詩」や「シーソーゲーム〜勇敢な恋の歌〜」のように今でも多くの人がサビを歌える曲を量産していた。しかし、今ではそのような曲を生み出すことは難しくなっている。桜井さん自身も「曲を当てにはいっているが難しい」とその困難さを認めている。

そんな時代であっても、桜井さんは諦めていない。かつてないほどの決意が滲み出ていた。
「Mr.Childrenが上手くやればもう一回、音楽シーンを変えることが出来る。皆がサビを歌えるような曲を響かせることが出来る」と。かつて“ミスチル現象”を巻き起こしたあの頃のように。そのためには、再び音楽シーンのど真ん中に立つ必要があるが、桜井さんはこう自信を覗かせる。

「ど真ん中という感覚はわかるし、きっとできている」

たしかに難しい時代であるが、彼らならきっと再び“退屈なヒットチャートにドロップキック”してくれるだろう。なぜなら“今という時代は言うほど悪くない”のだから。
(さのゆう)