ハイパージャパンを主催するクロスメディア社の丸茂和博さん

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ロンドンで11月14日から16日の3日間、英国最大の日本イベント「ハイパージャパン」が行われた。今年からは夏と冬の年2回開催となり、クリスマス前の冬は、日本からのグッズを中心にショーケースとしての位置付けだ。実際、英国での日本に対する関心はどれほどなのか? ハイパージャパンを主催するクロスメディア社・丸茂和博さんに、現地における今の日本事情を聞いた。

――ハイパージャパンを始めたきっかけは?
私たちはもともと出版社として、英国や欧州のことを、日本に日本語で紹介する本を出していました。しかし、10年ほど前に、すしや酒など食を中心に、英国へ向けて英語で日本を紹介する方向に経営転換しました。そのようななか、5年前にパリのジャパンエキスポへ行く機会があったのですが、そのイベント規模に驚いてしまって……。しかも、日本イベントを日本人ではなく、フランス人がやっているということに、さらに衝撃を受けました。そこでロンドンでは日本人の手で日本イベントをやろうと、ハイパージャパンを立ち上げました。

――ジャパンエキスポとハイパージャパンの違いは?
ジャパンエキスポはアニメ・漫画、ゲームとそのキャラクターコスプレなどが主体です。来場者の年齢層も非常に若く、必ずしも日本文化全体を網羅しているわけではありません。ハイパージャパンでも、同じ分野は扱いますが、食についてのブースが多めです。英国はアニメ・漫画といったマーケットは未成熟で、フランスのようにテレビで日常的に放映されていません。そういう意味では、アニメや漫画については、英国はこれからの市場です。

――食は英国人にもっと好まれるジャンルですか?
食べ物は翻訳がいりませんから(笑)。ただし一方的に日本を押し付けても、うまくいきません。例えば、どら焼きは英国人にとても好まれますが、どら焼きはどら焼きでも、中身がカスタードなんです。大半の英国人にとって、あんこは未体験の食感で、甘く煮た小豆の味に慣れていません。そういう状況で、初めから「日本のどら焼きはおいしいだろ」と、慣れていないあんこを勧めるのではなく、それが本来の形でなくとも、カスタードという入口を通して、最終的にあんこのどら焼きを知ってもらうことが大切です。

――他にはどのようなことがうけますか?
今、日本の街中にあふれているカルチャーそのままが、一番面白いと思っています。日本では一般的に大きく人気があるとはいえないものを、「日本文化」だといって持ち込みたがりますが、そのようなものをわざわざ持ってこなくても、十分に面白いものができます。

――形ある商品よりもコンテンツを海外に輸出した方が良いでしょうか?
物を日本から英国に輸出すると、輸送費などで現地の売値が高くなってしまいますので、高額商品以外は難しいですね。その点、映画やアニメは形がない分、コストもかからず輸出できますし、より可能性はあります。ネックは、日本のコンテンツの海外展開の大部分が、米国を経由したものになっているということでしょうか。海外でのすべての権利を、米国の会社が持っていることは往々にあるので、英国で人気が出るだろうと思い交渉しようにも、日本の権利元と話せません。結局何も展開できず、腐らせてしまうことも多いです。

――日本人歌手やパフォーマーなど、日本での知名度は英国での活動に関係ありますか?
英国人の琴線に触れるものであれば、日本での知名度は関係ありません。以前ハイパージャパンで、ニンジャマン・ジャパンというロックバンドが公演し、英国人にとても人気でした。忍者という東洋の神秘性を感じさせる要素と、ロックという音楽的な親しみやすさが、英国人に受け入れられたのでしょう。一方、日本で有名なバンドや演奏家でも、英国では全然うけなかったということも多いです。ロックという、オリジンがこちらにあるものを、そのままやっても難しいですね。

――ロンドン市内でも日本食は人気ですか?
人気です。しかし、日本の大手外食産業はまったく進出してきていません。最近、ようやく一風堂という大手ラーメン屋が進出しましたが、全体では圧倒的に少ないです。欧州だから商売がやりにくいということもありませんし、間違いなくビジネスになる要素はあります。例えば英国には「Wasabi」という、すしを扱うチェーン店があり、英国人に大変人気です。これは韓国人がベンチャービジネスで始めた会社です。日本についての需要はあるのに、日本人は最初にやろうとしないのです。

――日本人は海外進出に消極的ですか?
海外は敷居が高いと感じるのか、誰か外国人が市場を作ってから初めて、そこに乗ってきます。
自分でリスクを背負おうとせず、他人が引いたレールに乗ろうという発想が強いです。パリのジャパンエキスポはまさにそうですが、それだと日本のものなのに、日本人は蚊帳の外に置かれてしまいます。日本はアイデアや商品の宝庫です。漫画しかりアニメしかり、日本の商品などで海外に広まったものは、大抵は外国人によって紹介されています。日本人であることに自信を持ち、自らの手でリスクを覚悟し売ることでしか、それは実っていきません。
(加藤亨延)