相手はFIFAランク6位の強豪国。実力どおりの完敗だった。

 ハビエル・アギーレ監督が日本代表の指揮官に就任して初めての試合となったウルグアイ戦で、新生・日本代表は0−2で敗れた。攻守両面において狙いがはっきりせず、内容的に見ても妥当なスコアである。

 アギーレ監督が就任会見で"予告"していた通り、4−3−3の新布陣で臨んだ日本だったが、単発なプレスを繰り返してウルグアイにパスをつながれてしまうばかり。ボールを奪うことができたとしても、そこから効果的な攻撃につなげることはできなかった。

 例えるなら、日本はまだ左ジャブしか教わっていない初心者ボクサー。相手に大きなダメージを与えられない軽いパンチを繰り出すだけ。これに対して老獪なウルグアイは一発で倒せるパンチはなくとも、左右のコンビネーションで確実にダメージを与えていった。

 アギーレ監督が「向こうの経験とこちらのふたつのミスが結果を分けた」と語っていたように、両者の間に経験の差は明らかだった。

 とはいえ、まだ1試合目。しかも、わずかな準備期間で臨んだことを考えれば、あまり悲観的になる必要はないだろう。

 アギーレ監督は昨年8月の同じウルグアイ戦を引き合いに出し、「ウルグアイが4−2で勝利したが、それは3年間戦った日本代表チームが対戦した結果であり、今日の試合(の日本)は3回のトレーニングを積んだだけだ」と話していたが、その通り。これは単なる強がりや負け惜しみではない。

 何より4年後を見据えて「将来性のある選手」を積極的に発掘しようとしている点には好感が持てる。

 4年前、アルベルト・ザッケローニ監督が就任した当時と比較すると分かりやすい。

 前監督の初陣は、アルゼンチンを相手に1−0で勝利した。内容的にも今後に期待を持たせる試合だった。

 だが、ピッチに立った顔ぶれはというと、南アフリカ・ワールドカップのメンバーをベースにし、新たに経験のある選手を何人か招集メンバーに加えていた程度。いくらか"ザック色"に染められてはいたが、基本的には過去の遺産を引き継ぐ形で初めての試合に臨んでいた。

 それに比べて、今回の"アギーレ色"は鮮明だった。

 スタメン11人のなかに初選出の選手がふたり(DF坂井達弥、FW皆川佑介)含まれていたのをはじめ、途中出場のFW武藤嘉紀、MF森岡亮太を含めれば、4選手がこの試合で代表デビューを果たしたことになる。

 しかも、新戦力は総じて自分の特徴を発揮できていた。アギーレ監督は言う。

「今日はチーム全体に目を向けるより、選手個人を見るほうがより満足を得られた」

 まさにこれこそが収穫だろう。果敢なプレイで初ゴールまであとわずかに迫ったFW武藤はもちろん、FW皆川はDFを背負える強さと高さを見せた。DF坂井は失点につながるミスはあったが、落ち着いてボールを扱い、ヘディングの競り合いではほとんど勝っていた。また、MF森岡にしても出場時間はわずか数分ながら、得意のスルーパスを通すなど才能の一端を披露した。

 重要だったのは新たな選手がただ呼ばれて練習に参加しただけでなく、出場機会を与えられたことだ。デビュー戦でフル出場した坂井は言う。

「高いレベルで試合をやるなかで、やれることとやれないことは自分のなかではハッキリした。そこを練習して、こういうところ(日本代表)で長くプレイできるようにしたい」

 また、同じく代表デビューを果たした皆川は「ファーストチャンスで決められなかったのは反省しているし、責任を感じている。あれを決めていれば試合展開は楽になっていたはず」と悔しがったが、それも実戦を経験したからこそ味わえたものである。この試合は今後の彼らの成長を促す、大きなモチベーションとなったはずだ。

 それは今回選外となった他の選手、とりわけJリーグでプレイする選手にも言えることだ。

 これまでの日本代表監督は、「誰にでも門戸は開かれている」と口では言いながら、結局招集メンバーにさしたる変化はなく、たまに新戦力が選ばれても試合では起用しないケースがほとんどだった。だが、今は違う。誰にもチャンスはある。アギーレ監督はそのことを実戦で証明したわけである。

 率直に言って、試合内容には不満が残る。遅々としてボールが前に進まぬ状況に苛立ちも覚えた。

 しかし、今からチームを固め、いい試合内容で勝利したとして、それが4年後のロシアに直結するわけではない。

 多くの選手を試合で試して見極めていくことは、長期的視野に立つ重要な作業であり、ひいてはJリーグのレベルアップにもつながるものである。

「できれば2試合で23人全員を使いたい」

 そう語ったアギーレ監督の言葉はどうやら掛け声だけではなさそうだ。

 当然、次のベネズエラ戦(9月9日、横浜)では、今回出場機会のなかった選手にチャンスが巡ってくるだろう。初選出5人のなかでは唯一ウルグアイ戦で出場機会のなかったDF松原健や、まだ国際Aマッチに出場したことのない柴崎岳などは当然、「次はオレの番」と気持ちの準備を整えているはずである。

 日本の代表として戦う以上、負けていい試合はない。それはある意味で正しいが、そのために自分たちの最大目標が何であるかを見失ってはいけない。

 アギーレ監督は、これまでの日本代表監督があまり持ち合わせていなかった感覚を持っている。そのことがはっきりと伝わってくる初陣だった。

 今後への期待を高めるものは、何も試合内容ばかりとは限らない。

浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki