【戸塚啓コラム】川又堅碁に迫る、３度目の大きな決断
昨季のＪ１で大久保嘉人に次ぐ23ゴールを叩き出し、今年４月には国内組による日本代表候補合宿に招集された。左足から繰り出すパワフルな一撃と、身体ごとゴールへ飛び込む泥臭さは、柿谷とも大迫とも異なる個性だ。ザックからアギーレへ指揮官が変わっても、日本代表の攻撃にアクセントをもたらすことができるだろう。いまはまだ代表入りを期待されるひとりに過ぎないが、一度は国際舞台で試してみたい選手だ。
公式戦のピッチから遠ざかっている理由については、いくつかの情報が交錯している。契約延長のオファーを保留しているためとか、コンディションが整っていないとか。すでに戦力外扱いとの報道もある。
誰を使うのかは監督の専権事項だ。クラブ側からすれば、川又が出場しなくてもチームが勝てば問題はない。18節のＣ大阪戦では今季２番目の観客動員を記録したから、集客に著しく影響が出ているところもなさそうだ。
ただ、結果は出ていない。
再開後の４試合は１勝３敗で、得点もＣ大阪戦の1ゴールのみとなっている。リーグ再開を８位で迎えたが、現在は10位に後退している。川又を使っていたら結果は違っていたかもしれない、と考えるのは僕だけではないだろう。誰にとっても好ましい状況ではない。
このまま新潟でチャンスを与えられないなら、移籍するべきだと僕は思う。監督とエース格の選手が衝突するのは、ヨーロッパや南米では日常的である。ピッチに立つ準備が整っているのに出場機会を与えられず、自分を必要としてくれるクラブがあるならば、手元に届いているオファーを検討するべきだろう。プロとして当然の判断だ。
「過去にこれだけ点を取ったことがあるからすごい、とは言われたくない。ずっとゴールを取り続けていることがすごい、と言われたい」
得点ランキングの上位に躍進した昨シーズン、川又はこんな話をしている。自らが忌み嫌う状況を打破するには、環境を変えるのも有効な手立てだ。２０１２年のＪ２岡山への期限付き移籍や翌13年の新潟復帰をキャリアアップにつなげた足跡は、３度目の大きな決断を示唆していると思う。
川又はこうも話していたのだ。
「自分の場合、移籍は挑戦かつ捨て身。環境を変えるのは自分が変われるチャンス。それまで見えなかったものが見えてくる。慣れたところでやっていると、同じ風景しか見えんから」
1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを連続して取材している
