写真提供:マイナビニュース

写真拡大

1982年10月から32年間生放送を続け、「単独司会者による最多生放送」のギネス登録同時間帯の年間視聴率が25年連続首位(計測開始から無敗)などの大記録を打ち立ててきたフジテレビ系のバラエティ番組『森田一義アワー 笑っていいとも!』。いよいよフィナーレが来月に迫り、後番組への注目度が増している。

しかし、いまだ番組の実態は見えてこない。内外関係者の発言をもとに新番組『ゴールデンタイム』(仮)を予想していく。

○松本人志も教えてもらえない

現在ハッキリしているのは、放送のスタイル。フジテレビの亀山千広社長は、「月〜金曜の各曜日を日替わり5組の司会者が担当し、伊藤利尋アナで統一感を持たせる」と断言。日替わり司会者は、自ら暴露してしまった坂上忍が月曜を担当するほか、バナナマン、雨上がり決死隊、フットボールアワー、おぎやはぎが有力視されているが、正式発表はなし。あの松本人志ですら、「誰に聞いても教えてくれない」と話すほどのトップシークレットらしい。逆読みすると、「タモリほどの大物ではなく、ギャラを抑えられる中堅芸人の起用だから、早めの発表は逆効果」ということか。

さらに亀山社長は、お台場のスタジオを中心に、中継もふんだんに盛り込む"情報バラエティ番組"にすることを明言。「『めざましテレビ』のような情報エンタテインメントが必要。"半径500メートルの生活に密着"した情報とバラエティの融合した新しいジャンルを生み出せれば」と語った。

つまり、「『めざまし』と『いいとも!』のいいとこ取りしよう」ということか。ただ、それって、ほぼ『ヒルナンデス!』なのだが……。

○無難なレギュラー陣は危険

次に気になるレギュラー出演者だが、実は生放送番組をこなせるタレントは、思いのほか少ない。収録番組と比べて情報量で劣る生放送は、瞬発力と端的なコメント力が求められるが、日替わりMCと同等以下のタレントでは、力量に疑問符がつく。しかし、だからと言って『いいとも!』でこなれた劇団ひとり、武井壮、ベッキー、渡辺直美、指原莉乃らを起用するだけでは何の上積みもない。「失言、即休業」のリスクがあるからこそ、生放送は危なっかしいタレントが輝く場でもあるのだ。

そもそもタモリも、深夜の"密室芸人"と呼ばれていたころに、昼の生放送に抜擢されたのだから、今回も地下芸人、マイナーアイドル、ぶっ飛びオネエあたりを選んでもいい気がする。ギャラ的にもオイシイのだから、無難なタレントではなく、新たなスター候補を発掘して欲しい。

○『徹子の部屋』と真っ向勝負か

番組の各コーナーもまた難しい。制作側にとってお手軽なトークコーナーは、『いいとも!』の名残もあり、継続すると思われたが、ここにきてテレビ朝日が『徹子の部屋』の12時移動を発表。新番組が長寿番組とガチンコのトーク勝負を挑んで勝てるのか……。

また、生活情報のコーナーで、日本テレビの『ヒルナンデス!』を上回るのも至難の業。グルメ、旅、家事、ファッション、生活の知恵など、全てに渡ってスキがないだけに、ここを中心に据えると、超低視聴率で『ミヤネ屋』に惨敗した『知りたがり!』『アゲるテレビ』の悪夢が蘇る。

では、新番組『ゴールデンタイム』(仮)は、どう差別化していけばいいのか。全盛期の『いいとも!』をハッキリ覚えている視聴者が多いだけに、いいところは引き継いで欲しい。

たとえば、かつての『テレフォンショッキング』が持っていたハプニング性。名前の通り突然の指名だから、「翌日のゲストが決まらない」「間違い電話であわや放送事故」「素人が出演してしまう」などツッコミどころの宝庫だった。 また、視聴者参加のコーナーも捨てがたい。そっくりさんから、素人専門家、ギャップ、美男子や美少女、一発芸まで、「当日オーディション」というライブ感は、まだまだ魅力たっぷりだ。 さらに、日替わり司会者であれば、なおさら「いいともCUP」のような曜日対抗、またはリレー企画での相乗効果が欲しい。何なら視聴率を毎日発表して、対抗心むき出しでやってくれた方が盛り上がるくらいだ。

○芸人のゲーム企画は危険度MAX

逆に、引き継いでもらいたくないのが、もはや賞味期限切れのゲーム・クイズ企画。タレントの生々しい力量差や、芸人の上下関係が見えるだけで、視聴者が得るものは少なく、すでに飽きられている。 特に芸人たちが見せる、"お約束"という予定調和のやり取りに視聴者は厳しい。SNSが発達し、話題を探している人が多い昨今は、"予定外""想定外"のものが求めている。

その意味で、月曜司会の坂上忍にかかる期待は大きい。マツコ・デラックス、有吉弘行に続く、「第3の毒舌」として今が旬。すでに『ノンストップ!』では、朝の生放送で毒舌を吐きまくっているし、「今年早々にボートレースでフェラーリ1台分負けた」という破天荒ぶりも本物だ。たとえば、「坂上が大嫌いなブスをそろえてしまう」「空気の読めない素人を泣かせる」など、何かが生まれそうなムードがプンプンだ。

○「地獄を見た」タレントの起用を

最後に。「タモリの後を任せられる人がいない」「予算がなくて大物は呼べない」のであれば、割り切って中堅や若手が伸び伸びチャレンジできる演出を期待したい。また、坂上や有吉のような一度地獄を見たタレントのリメイクも、低予算でやれるはずだ。視聴者は苦労したタレントに甘いだけに、思い切ったことをやらせやすいのではないか。

もちろん、"『いいとも!』の呪縛"から解き放たれた68歳のタモリのゲスト出演も見たい。"密室芸人"時代のテンションで大暴れしてもらえたら最高なのだが……。

裏番組は、コンセプトがしっかりしていて、どれも手ごわい。その中でいまだ視聴率トップだった『いいとも!』を終わらせたことが、どう出るのか。制作スタッフは、コンセプトを固める今がまさに頑張りどころだ。

木村隆志コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。

(木村隆志)