映画のゲストキャラクター、妖精のエンエン(キャラクターデザイン・青山充)。プリキュアが大好きで「プリキュアの教科書」(別画像)も読み込んでるんだけど、恥ずかしくって、せっかく講演に来たタルトに声もかけられない。それが、キュアハッピーとの会話をきっかけに……。
「映画プリキュアオールスターズNewStage2こころのともだち」絶賛公開中
(c)ABC・東映アニメーション (c)2013 映画プリキュアオールスターズNS2製作委員会

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たとえプリキュアであっても32人がひとりをこてんぱんにやっつけてしまえば「いじめ」と同じ構図になってしまう、それだけはイヤだという梅澤淳稔プロデューサーの思いに多くの共感が寄せられた前編。後編は「ところで梅澤さんの好きなキャラは?」などかなりミーハーに斬り込んでみました。映画キャラのかわいい設定画像も必見。

実際に経験して立ち直ったキャラが二人も

───脚本の成田良美さんや小川孝治監督とはどのくらいデイスカッションしていくんですか?
梅澤  まず、いじめについてやりたいと私が投げかけた問題の答えとして成田さんのシナリオで上がってきて、そこから監督も含めて話し合っていきます。
───上がってきたシナリオから、どういうところが変わっていったんでしょうか。
梅澤  今回は、ストーリー的にはほとんどありませんでした。絵的にはこうしたほうが見せやすいとかはありましたけど。一読してすばらしかったんで、唸ったくらいですね。(質問リストを指して)特にここにもあるキュアパッションとキュアビートを巡っての……。
───はいはいはい! エンエンの「パッションもビートも、最初はプリキュアの敵だったんだよ」というセリフで、敵からプリキュアになったふたりがすうっと見事にクローズアップされて、グっときました。あれは梅澤さんのアイデアじゃなかったんですか?
梅澤  成田さんですね、自分の手柄にしちゃいたいなって感じですけど(笑)。われわれも全員感動しましたね。なるほど、いじめのことを真っ向から語れるプリキュアが二人いたんだって。パッションとビートがいなかったら、もっとお説教くさかったかもしれない。でも実際にそれを経験して立ち直ったキャラが二人もいて「大丈夫だよ」って示してくれた。
───しかも、二人は多くを語らず、凛々しい横顔だけで見せるところが素晴らしい。小川孝治監督はどういうかたですか?
梅澤  ずっとTVの「プリキュア」の各話の演出をやってくれていて、映画では「NewStage1」(「みらいのともだち」2012年)と「スマイルプリキュア!」の映画(「絵本の中はみんなチグハグ!」2012年)の助監督をやってるんですよ。30代半ばくらいかな?「もうそろそろ俺じゃねーのか」くらいに思ってたでしょう(笑)。「NewStage2」をどうかって声をかけたときに「何がなんでもやります!」っていうふうに言ってくれたので。
───「オールスターズ」のフォーマットが一新された感じがありました。「NewStage1」でももちろん一新されてるんですけど、今回はより変わってる感じがしたんですよ。たとえばプリキュア同士が出会ったときとの演出も違う。
梅澤  そうですね。最初の出会いのスローモーションは「DX」からの定番みたいになってたので、そこを小川監督はこう見せたぞってことなんだと思います。

キュアマーチの「直球勝負上等!」

───アクションもかっこよかったです。なぎさとほのかの手に、変身グッズの「ハートフルコミューン」が戻るところの無音なんか印象的でした。梅澤さんのお気に入りのシーンはどこですか?
梅澤  うーん、いちばんいい……(しばらく考えて)私の琴線に一番触れたのは、キュアマーチの「直球勝負上等!」ですね。
ーーああ、あそこから、影に押されていた形勢が逆転していく。
梅澤  うんうん、すごい。あそこのマーチが私の中でのMVPです。「カッコイイです! マーチ様!」(笑)。あれは悪いけど、かっこよかったです。
ーー悪いけど(笑)。前にうかがったときは、いちばん愛着があるプリキュアはキュアピーチでしたよね。
梅澤  あれでピーチと双璧になりました。うんうん、マーチかっこよかった!(笑)。あとは初代プリキュアのキュアブラックが、ばーんっ!て足踏みするところの力強さ。そしてホワイトのくるくる回りながらの華麗なジャンプ! 「あーやっぱり初代はかっこいい…! 圧倒的な貫禄だ」って思いました。いや、でもマーチはかっこよかったですね(笑)。
───マーチは複雑なキャラクターなので、テレビシリーズではちょっと割を食っていたところもあるように見えてました。
梅澤  スマイルプリキュア!は5人いるので、損な役回りになったかもしれないですけど。でもポイントポイントでのキャラ立ちは半端ありませんでしたよ。一番複雑なキャラクターで、かっこいいのに恐がりとかね、虫が嫌いとかね。


演出からプロデューサーに

ーー梅澤さんは、もともとは演出をされてて、プロデューサーに変わられたんですよね。
梅澤  私はプロデューサーやって10年になるんですけど、それよりかなり前に、一度「プロデューサーにならないか?」って話はあったんです。そのときは「なんで俺演出なのにプロデューサーなんだ」ってお断りしたんです。そのあとちょっと心境の変化があって、「もう一回プロデューサーになれって言われたら、なるのになー」と勝手に思ってたら、次の日に、また企画にという話があったんですよ。ちょっとびっくりしました。
───おいくつのときですか?
梅澤  10年前だから、43歳ですかね。
───そこからの転身ってかなりたいへんじゃなかったですか?
梅澤  どの仕事も全部大変ですからね(笑)。
───演出からプロデューサーにってどんな変化がありましたか?
梅澤  私自身はそんなに変わらないですね。まったく演出に未練はないし。
───演出がわかるプロデューサーだと、現場はやりやすかったりするんでしょうか。
梅澤  どっちもどっちだと思いますよ。
───絵コンテを梅澤さんに見せるのって、若いディレクターなんか緊張するんじゃないですかね。
梅澤  それはイヤでしょうね。でも、私は、アフレコでもダビングでも出来るだけブースの中に入らないようにしてるんです。現場にはチーフディレクターがいますし、各話担当演出もいるので。そこに私が入って、みんながこっちの顔見たりとかするのもイヤだし。プロデューサーは、設計者なので、現場は棟梁であるチーフディレクターに任せます。
───以前、単行本の企画で成田良美さんにインタビューしたとき「梅澤さんとはやりやすい」っておっしゃってました。「任せてくれるから」ってことだったかな。
梅澤  それは初めて聞きました。ほんとかな? 今度確認してみよう(笑)。
───作品を観ていると、成田さんと梅澤さんの相性はすごくいいように思います。ぜひ恋愛要素の強いものも見たかったですね。
梅澤  「お菓子の国のハッピーバースディ」では、キュアドリームとココにキスさせましたけどね、不評を買いましたが。
───不評だったんですか?
梅澤  うん、「あれは違うだろう」というのが多かったと思いますね。ストーリーのベースに「眠り姫」があったから必然性がある、キスで目覚めることに関しては違和感ないだろうってのが、私の中であった。で、よし、やっちゃおうかと冒険したんですけど。
───男女が逆転してるんですよね、面白かったです。プリキュアのほうが王子様役になってるのが。
梅澤 「教師と生徒がキス」なんて倫理観は、幼稚園児には関係ない! という言い訳で(笑)。あと、成田さんの脚本ではないですが、テレビシリーズの「フレッシュプリキュア!」のときは思いっきり恋愛要素を入れました。それを全部「あまずっぺー」って言葉でチャラにするっていう方法論が確立しましたね、あのときは(笑)。

「そんなバカな」って言いながら涙を流す

ーー今、「プリキュア」のライバルってなんですか?
梅澤  AKB48グループですかね。
ーーおおー。
梅澤  プリキュアを本当の意味でリアルに体現した人たちが出てくるとは、夢にも思ってなかったので、本当に脅威ですよ。小学校に入ってしまうと「まだそんな子ども向けのアニメに憧れてんの?」って感覚が出てくる。好きでいつづけるのはちょっと恥ずかしい。だけど、AKBは実在のものなので憧れてるって言っても恥ずかしくないんですよ。だからやっぱりAKBの方が強いんですよね。プリキュアは憧れの対象であるうちは、下から見上げる感じじゃないですか。だから、同じ目線のところに立ったらもう見てくれなくない、卒業していっちゃう。
───2シーズンくらいで卒業する感じですか?
梅澤  毎年三割卒業して三割入ってくるくらいかな。残りの七割は継続しているので。そこは難しいところ。前のプリキュアのファンのまま新しいプリキュアを見る層と、前のプリキュア知らないで新しいものを見る層と両方いるので。AKBは本当に勉強になります。リアルってことですね。舞台裏まで見せてしまうリアル。「アイドルはトイレなんて行くわけがない」って神聖化したものから、裏側で泣いたり汗かいてぶっ倒れたりするところまで見せた上で、「こんだけ頑張ってるんだ!」っていうところを見せるってやっぱりすごいですよね。
───リアルの強さ。
梅澤  アニメでもリアルは最も大切です。「お話なのはわかってるけど、頼むからそこで会って!」って思ったときに「会ったー!」って思ってくれるのがいちばんいいんですよね。「そんなところで都合よく会わないよ」ってツッコまれたらだめ。「もういいよ、そこで会わないとかわいそうだよ、この子たち!」って思ってくれたらそれはリアルになる。「そんなバカな」って言いながら涙を流してるとか、そういうのが理想ですね。
───今回の映画では、エンエンが、崖から落ちそうになってるグレルを引っ張り上げようとしてるところに「無茶だよ!」って思うけど、応援しちゃう。「だって……グレルは僕に話しかけてくれたじゃないか!」あそこは泣けましたねえ。
梅澤  そうそう。でも崖まで引き上げるのは嘘だよ、やっぱり落ちなきゃ、っていうのがリアル。
───ああ、そこのあんばいって本当に難しいでしょうね。
梅澤  プリキュアの危機に、タルトが「気合だ、気合だ!」って叫んでミラクルライトを出す。あれも完全に魔法じゃないですか。でも、出たときに違和感がないっていうのはリアルなんですよね。「あの場面でタルトが必死になったらそれは出るよ」って子どもたちが思ってくれたらこっちのものなんですよ。
(アライユキコ)