やる気を出したいときに読む本で対決。ブックレビューバトルが面白い
「えー、なんでですか？」
話しているのは、米光一成さんと杉江松恋さん。
書評をライブでやってみよう、会場が本屋だから売り上げ対決しちゃおうよ、というイベントだ。お題を決めて、各自３冊選んでくる。
エンターテインメントを中心に書評家活動18年目の杉江さんが、ゲームクリエイターでライターとしても活躍する米光さんに声をかけたことで始まった。
「ブックレビューLIVE:杉江 VS 米光のどっちが売れるか」、第３回のお題は「やる気を出したいときに読むべき本」。
「小さな出版社を立ち上げた人の体験談です。26歳のときに、小説書いちゃったから本つくるー！ って、もう初期衝動のままにすっごい行動していて。タレント年鑑から調べて原田知世に送ったりするんです。レニー・クラヴィッツにまで。日本語読めないのに」。
著者の第一作『シンプルライフ・シンドローム』は、最初に扱ってくれた一店舗で、200冊売れた。
「友達と家族に協力してもらって、駅前でビラを配ってるんですよ。サーカスやってますよ〜ってノリで」
自分のことのように嬉しそう。
「荒木さんは新しい視点も持っている。つまり、本屋が力を失っているのは、どこも似たような品揃えだからだって言うんです。小さくてもこだわりを持った本屋や、小回りの効く小さな出版社が今から力を持つと直感的に見つけている。この本ね、ノンカフェブックスを気に入っている本屋にしかないんです。それがここB&Bに置かれたらいいなーと思って、セレクトしました」
他には「学生のときに読んで、やる気出すぎておかしくなっちゃったんですよー」というリチャード・バック『イリュージョン 悩める救世主の不思議な体験』。制限時間の５分が過ぎて、杉江さんに話しかけられているのに止まらずに喋る。
「ぱらっと開くと自分に適した言葉が見つかる。そういうふうにも読めるんです。まずは15ページから19ページを見てみて！」。
それから、自著である『自分だけにしか思いつかないアイデアを見つける方法ー“企画の魔眼”を手に入れよう』を、「アイデアが10分くらいで気軽にできるトレーニング方法がたくさん書いてあります」と紹介した。
杉江さんが出してきたのは、児童書だった。
「へんてこなお話だと思って読んでると、急に足下をすくわれるんです。大人が押し付ける論理を子供にひっくり返される」
レオポルド・ショヴォー『ふたりはいい勝負』は、小さな子供であるルノー君とお父さんのショヴォーが、対話しながら物語を作っていく。
「ルノー君が生意気なんですよ」
“ぼくが助けてあげないと、パパの書くお話は、急につまらなくなるね”
「提案がまた突拍子もない」
“最初におしまいを話してさ、それから、あべこべに、そのまえにおきたことを順ぐりに話していって、はじまりにたどりつくっていうほうが、ずっとおもしろいと思うんだ”
「だんだんルノー君に諭されているような気持ちになる。どんな純真な子供の前に出てもだいじょうぶな大人になろうと思いますね」
子供のことを話すとき、杉江さんは優しい目になる。
『ふたりはいい勝負』は、仕入れてもらった分が完売する人気ぶりだった。
杉江さんは他に「この本を読めば家が建つ。信用に足る人を選ぶのにはどうしたらいいか、そういう細かいことをね、伊藤さんの考え方をなぞっていけばできる」と伊藤理佐『やっちまったよ一戸建て』をおすすめ。
吉村昭の作家生活回顧録である『私の文学漂流』を「若いころの苦しみをぜんぶ昇華したうえで、自分がいかに足りなかったかを当時の自分の気持ちになって書いてるんですよ。頭が下がる思い」と語った。
本の紹介のあとは、３回目にして初の試みがあった。１時間の雑談だ。杉江さんは読書会イベントを積極的に行っている。その流れで、誤読はありかなしかで盛り上がった。２人とも誤読はオッケーという点では一致していた。
杉江 公の場で誤読が他の人に評価される機会ってふつうないじゃないですか。読書会でそれをやりたいんです。むしろどんどん誤読して、それを語って相手から反応を引き出す。それを楽しんで帰る。
米光 そこは杉江さんと違うところかもしれない。いや、同じなのかな？ ぼくは基本、読みは自由だけど、それについて語るときは自由じゃないと思っています。
杉江 聞き手がいればってことですか？
米光 もちろん。この本つまんないって思うのはまったくの自由。だけど、つまんないと言った瞬間に、その理由を説明する責任が生じる。それが説明できないなら言っちゃダメ。
杉江 発言すると、人を惑わす言説として流通しちゃうからですか？ それとも、発言する人のため？
米光 うーん、双方。読むことは個人の作業だけど、語ることは他者がいる作業なので。他者を巻き込む覚悟はいるんじゃないかなー。覚悟って言うと大袈裟になっちゃうけど。やり取りができればいいね、と。
杉江 「つまんない」は発展性がないけれど、解釈を話すのなら間違っていても発展性がありますよね？
米光 読みは自由なんだから、解釈は間違いようがないんですよ。それこそ読んでるのは全員違う本だと思うくらい自由でいい。佐藤正午さんの『小説の読み書き』に、『雪国』の主人公の指が太いのはしっくりこない、細い指で想像してしまうってある。「読むことによってさらに小説は書き直される。読者の頭の中で、冒頭の一行は新たに書かれ、書かれていない指の長さが書き加えられる」。
杉江 なるほど。自分の頭の中の本には、色んな情報が混入してもいい。
米光 ただ、語るときにそれだと埒があかないので、語るときには自由度が減る。
杉江 次回それにしません？ 人によって読み方が違う本。
杉江さんすてきなアイデア！ ライブならではのセッションが見たい！
売り上げ対決は、杉江さんの初勝利だった。次はそれだけの闘いじゃない。相手にこの本を読んで欲しいと思うものを指定し、２人とも読む。
ブックレビューLIVEは誤読を楽しむ議論の場へと変わる。（与儀明子）
