松井秀喜の引退表明に関し、雑感を述べたいと思います。

先日、ある媒体の企画で幸運にも野球ブロガーとして第一人者の広尾晃さんとご一緒させていただきました。
広尾さんは、MLBで近年気なることとして「詰め腹を切らされるように引退する選手が多いこと」を挙げておられました。
具体的には、下り坂のベテランFA選手が満足できるオファーを待ち続けた末に、2月のキャンプ寸前(いわばデッドラインです)に現役続行に未練を残しつつ引退を宣言することです。今年で言えば、レッドソックスのティム・ウエイクフィールドやジェイソン・バリテックの引退が該当すると言えるでしょう。

本人は「まだやりたい」、「まだやれる」と思いながらもその実績やプライドを満たす契約の申し出がないために引退を選択得ざるをえないのです。
ファンとしてもつらい想いを禁じえない引退スタイルです。
「詰め腹を切らされる」とは言い得て妙な表現です。

今回の松井秀喜の引退会見をテレビで見ながら、広尾さんの比喩を思い出しました。
松井は引退の直接の理由として「結果が出なくなったこと(言いかえれば力の衰え)」を挙げていましたが、来るべきオファーに備えトレーニングを続けながらもそれが結局来なかった、それが決断の引き金であったろうことは想像に難くありません。

他のメジャーリーガーが決断を下すタイミングがキャンプイン寸前であるのに対し、松井は年の暮れでした。
松井の場合、毎年恒例の「帰国」という大きな行事が控えていたことと日本人ならではの年の終わりを区切りと考えるメンタリティが影響を与えただけで、基本的には同じパターンと言って良いのではないでしょうか。

松井の日米通算の20年と言う現役生活は十分長いものでしたが、スポーツ医学やトレーニング方が飛躍的に進歩した現在において38歳での引退は、スーパースターとしてはやや早いと言えるでしょう。
やはり、NPB時代の人工芝球場でのプレーが影響を与えていたのでしょうか。

個人的には、引退前の1〜2年は日本で最後の雄姿を見せて欲しいと思っていましたが、引退のタイミングはそれこそ個人の職業観や人生観を映す鏡です。
彼の選択を受け入れるしかありませんし、名門中の名門であるヤンキースの中軸打者としてワールドシリーズMVPに輝いたほどの彼に、最後の顔見世興行とは言えNPBでプレーすることにモチベーションを期待するのは無い物ねだりと言うべきかもしれません。

最後に・・・
引退記者会見はニューヨークで開催されたものでしたが、テレビで確認する限りそれは完全に日本メディアのみを対象としたものでした。
アメリカでプレーしていながら、いつも大勢の日本メディアから追いかけられた松井。
それは必ずしもいつも心地よいものではなかったと想像されますが、それに対しても常に真摯に対応してきた彼のメジャー人生を象徴するような引退会見でした。