『SKE48 OFFICIAL HISTORY BOOK まだ、夢の途中』徳間書店
SKE48の4年間の軌跡をあますところなく伝えた1冊。写真撮影を担当するのは雑誌「Number」などで活躍するスポーツフォトグラファー・高須力。AKB48グループのなかでも随一の激しさといわれるSKE48をカメラに収めるのにまさに適任といえる。付録としてメンバー直筆のメッセージステッカーもついている

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まもなく大晦日。NHKの「紅白歌合戦」を楽しみにしている人も多いだろう。今年の初出場組には、AKB48の姉妹グループで、名古屋・栄を拠点に活動するSKE48が選ばれた。

いま、何気なく「AKB48の姉妹グループで、名古屋・栄を拠点に〜」などと長々と頭につけてしまったが、地元のファンとしては、そんな説明をしなくても「SKE48」と一言いうだけでだいたいの人に伝わるようになるのは一体いつになるのだろうか。いや、そろそろその願いも叶いつつあると信じたい。これまでの紅白では、SKE48のメンバーたちは、ほかの姉妹グループ(大阪のNMB48など)とともにAKB48のバックを務めてきたが、今回は晴れて単独出場を果たしたわけで(本当は1年遅い! と言いたいところだけれども)、これをきっかけにさらに世間的な知名度が上がるものと期待は高まる。

SKE48にとって今年はまさに飛躍の年だった。4月には、グループにとって一つの目標であった名古屋の日本ガイシホールでの単独コンサートを開催、2日間で約1万6000人を動員した。さらに6月のAKB48選抜総選挙では、メンバーたちがあいついでランクインした。とりわけ17位〜32位で組まれる「アンダーガールズ」は、16人中8人をSKE48メンバーで占めるという大躍進だった。9月には1st.アルバム『この日のチャイムを忘れない』をリリース、その付属DVDでは、当時の全メンバー63人がおのおの思い入れのある曲のミュージックビデオに出演した。これによって、世界一たくさんのMVが収録されたアルバムとしてギネスにも認定されている。

そして12月9日、サンシャインサカエというビルにSKE48専用劇場が満を持してオープンした。それまで同じビルの「SUNSHAIN STUDIO」という劇場を間借りする形で公演を行なってきたSKE48だが、同劇場を改修することで、AKB48はじめ各地の姉妹グループ同様、真の意味での本拠地を持つことになったのだ。

そんな一年の締めくくりに、初めて紅白に単独出場をするということにはやはり大きな意味があるように思う。時期を同じくして、2008年にSKE48が誕生してから4年間の軌跡を写真と文章でたどった『SKE48 OFFICIAL HISTORY BOOK まだ、夢の途中』が刊行された。本書を読むと、彼女たちはちゃんと段階を踏んでここまで来たのだということがよくわかる。

最初のオーディションに合格してSKE48に加入した1期生は、お披露目までの2週間、ダンス講師の牧野アンナから厳しいレッスンを受ける。どうしてそこまで厳しく教えこんだのか? それはAKB48が客がゼロというところから始めたのに対して、SKEはAKBという土台が最初からあったからだ。何もしなくてもファンは来てくれるのだから、苦労する場所はレッスンしかない。そう牧野は考えたのだという。メンバーたちはこれに見事に耐えてみせた。AKBではオーディションに合格してもお披露目までに脱落するメンバーもいたが、SKE1期生は一人も欠けることなく初舞台を迎えたのだ。

だが本当の厳しさはそのあとに待っていた。まず劇場での公演が開始されるにあたり、当時23人いたメンバーのなかから公演に出る16人を選抜するというふうにフルイがかけられた。こうしてSKE最初のチームである「チームS」が誕生、残りのメンバーは研究生という扱いになる。

シングル曲の収録にあたってもあらためてメンバーが選抜されるのだが、最初のシングル「強き者よ」こそチームSの16人が選ばれたものの、2枚目の「青空片想い」以降、しばらく7人体制でのシングル選抜が続く。この時点ですでに2期生と3期生も入ってきていたが、先輩を差し置いて後輩が選ばれると、何ともいえない空気がグループに漂った。それでもメンバーたちは激しく競い合いながらも、やがて強い連帯感を抱くようになっていく。

本書にはグループの末っ子ともいうべき「チームE」についても、現在までの成長の経緯が書かれている。ちょっとすごいなと思ったのは、なかなかまとまらないチーム事情について、エース格の木本花音が苦言を呈したときのこと。木本は、早くからシングル選抜に抜擢され、メディアでの露出も多いことから公演を欠席することもしばしだった。それゆえこのとき彼女は、ほかのメンバーたちから「何でそんなこと言えるの?」「天狗になってるよ」と激しい反発にあうことになる。……のだが、結果的にこれをきっかけに全員が本音をぶつけ合うようになり、スイッチが切り替わったのだという。よく読めば、それはまだ一年も経っていない最近のことだというから驚かされる。

しかし何より本書で驚いたのは、SKE48で2番目にできた「チームKII」についてのくだりだ。このチームは、AKB48グループのなかで唯一、オリジナルメンバーのうち4人が研究生に降格するという事態を経験している。それだけで十分な試練といえるが、チームKIIにはそれ以前からメンバーたちを焦らせる事情があった。というのも、彼女たちの公演は、AKBやSKEのチームSから譲り受けたセットリストばかりで、いつまで経ってもオリジナル公演をやらせてもらえなかったからだ。

チームのキャプテンである高柳明音は悩みに悩んだ末に、総合プロデューサーである秋元康に手紙を書こうと思い立つ。あらかじめチームメイトに相談したものの、みんなすっかりマイナス思考になっていて、「かえって失礼では」との反応もあったという。そこで高柳は、新公演がほしいとははっきり書かず、シングルのカップリング用に初めて与えられたチームのオリジナル曲に対する御礼と感想を淡々とつづった。

……と、ここまで読んで、ファンならすでにお気づきかと思うが、そう、2011年のAKB総選挙のステージでの「私たちに公演をやらせてください!」という“直訴”以前に、すでに高柳はアクションを起こしていたのだ。これ以降、オリジナル公演用の最初の楽曲が届いてきたときのエピソードなど、チームKIIファンにはたまらない話が続くのだが、それはぜひ本書で確認していただきたい。

果たして、チームKII宿願の初のオリジナル公演「ラムネの飲み方」は2011年10月より開始された。ここまで逆境にあったからこそ、いま、チームKIIはSKEのなかでも個性派集団と呼ばれるまでになっている。ぼくも、推しメンである秦佐和子が所属しているからというのもあるが、SKE、いやAKB48グループのなかでももっとも応援しているのはこのチームKIIだ。

本書ではここまで紹介したストーリーのほか、各メンバーのコメント、そして短くも的確にメンバーの魅力を伝えるキャプションが付されたたくさんの写真が収録されている。メンバーのコメントを読むと、普段は天然キャラで振る舞っているような子(たとえばチームSの須田亜香里など)が意外としっかりした発言をしていたりして面白い。何より、みんな熱い。

そういえば、秦佐和子は、自分たちがここまで来られたのはAKB48のおかげと、いかにも謙虚な彼女らしい発言をしつつ、そのあとで《でも、力を借りてばかりではいけないと思うし、いつか独自の路線を築いて、SKE48の妹分ができるくらいになれたらっていう思いももちろんあります》と、まさかの“分社化宣言”(いや、“下剋上宣言”?)をしていた。奥に秘めたる野望、それは秦だけでなくSKEの全メンバーにいえることかもしれない。

ひょっとすると、今回の紅白への単独出場は、一つの目標達成であるとともに、SKE48がAKB48の最大のライバルとなるための最初のステージともいえるかもしれない。“観戦”に備えるためにも、まずは本書を読んでいただきたい。ぼくはもう大晦日の夜、号泣する準備はできています!(近藤正高)