カレーの皿がマジでブラジャー（Dカップ）『裸で外には出られない』
なんだそれ？ と思うでしょう。大マジです。マジで皿がブラジャーです。
もっと丁寧に言うと、こんな話。
今夜はカレーの日。早めに帰ってきたミホが見たのは、全裸の彼氏と見知らぬ女。女は慌てて逃げていき、彼氏は全裸のままフリーズ、残されたブラジャー（D70）。
で、彼女はどうするのか？ キレるわけでもなく、責めるわけでもない。彼氏に背を向け、キッチンでカレーを作り始めるのだ。彼氏はまだ全裸。彼が服を着ようとすると、「いーのよー そのままでー」と無表情で言う。
「ゴハン炊けるまで15分くらいあるけど…」「ちょっと早めのごはんにしちゃお〜」
ご飯は半炊きのべちゃべちゃ、カレールーは煮込みが足りない。
「食べれば？」
左にご飯、右にカレールー。
カレーライスを、彼女はD70のブラジャーに盛りつけて（！）彼氏に差し出す…！
でも、単なる出オチ漫画じゃありません。もちろんギャグ漫画でもない。細い繊細な線とシンプルなタッチで描かれた、ブラに盛りつけられたカレー。その１コマから、浮気した彼氏に対する怒りや悲しみ、壊れてしまった関係に対する切なさがびしびし伝わってくるんです。
「このためだけに雑誌や単行本を買ってもいい」と思わせる読み切りってあります。最近だと、緑川ゆきの「蛍火の社へ」や中村明日美子の「マー様に捧ぐ」、松井優征の「離婚調停」なんかが私にとってのそれですが、「あなたカレー」もまさにそう。
そしてすごいのは、『裸で外には出られない』に収録されている３本の短編が、３本とも「このために単行本を買ってもいい！」という作品なんですよ。
２本目の短編「美青年」の主人公は、ブスの女の子。
彼女の母親は美人で、母親の弟はかつての美青年で、母親の恋人もかつての美青年。でも彼女は美しくない。地味な顔立ちだし体つきも貧相。けれど彼女はこう語る。
「ブスにしか触れない快楽があることを知っています ですから幸せです」。
自分が美しくないことを武器にして、「こんなに良い子なのに可哀想」と、かつて美しかった男たちに愛される話です。
男の人って、人間を「男」「女」「ブス」で捉えているのではないかと思う時があります。ブスが女らしく振る舞おうとすると嫌悪感を示しますが、ブスが弁え、「女」の匂いを器用に消し、ブスらしく振る舞うと好感を示すのです。
その優しい欺瞞は、無自覚のうちに受けると屈辱です。でも自覚して受ければ確かに快楽。彼らは「愛してあげている」と思っていても、本当のところは「愛するようにさせられている」。外見の美醜というどうしようもないヒエラルキーが逆転する瞬間。……この短編、
これまで「きみって可愛くないね」と言われてきた人間であればあるほど、心がぎりぎりさせられます。
３本目「縞々々」は、美人でスマートな女子社員・細野が、同僚女性・安原さんの豊満な段腹にどうしようもなく惹かれる話。
安原さんが豊満なのはお腹だけじゃなく胸も谷間も。全体的にコロコロしている。細野は安原さんのお腹の横線にクレジットカードを挿入する妄想をしたり、安原さんの胸やお腹を想像しながらオナニーしたり（！）します。
これが男女の物語だったら、もしくはスタイルの良い女の人への欲情だったら、よくある話なのかもしれません。でも、細い女がデブの女に欲情するという図は、すごくヘンタイっぽい。そのヘンタイっぽさがビリビリくるんです。
ちなみに短編以外は、「コーラス」で連載中のコミックファッションエッセイ「裸で外には出られない」です。このファッションエッセイ、安野モヨコや桜沢エリカやおおたうにのようなキラキラ感とは一線を画してる。
「オタクなんだけど間違った服着てないかな！？」
「ブラつけたくない！」
「部屋着なんて着てる大人いるの！？ みんな裸で力尽きてるんじゃないの！？」
「理想のブラキャミが欲しい！」
……といった、怠惰と煩悩に溢れたあるある漫画です。
それだけではなく、ヤマシタトモコの萌えツボ（「ヨーロッパの地方豪族の娘に萌える！」「このウエディングドレスが萌える！」）について脱線していくことも多々。
中でも、「TAG.03」の「私が本当に好きなのは美しい人が着る普段着・汚い服・そしてダサい服です編」が非常に萌えます。
ヨレヨレのロックTシャツを着て映画館でバイトをする蒼井優！（妄想）
制服に生足で走ってくる女子高生長谷川純！（妄想）
ダサ眼鏡モサいシャツ地味スカートに身を包んだウェイトレス綾瀬はるか！（妄想）
しまむらで買ったんすかそれ的ファッションの大家さんニコール・キッドマン！（妄想）
……テレビ局の皆さん！ 実写化、超期待してます！
（青柳美帆子）
