以前当時の話を中山雅史に聞いたとき、彼が一番、気持ちを込めて語ったのが、当時の日本代表の控えメンバーの存在についてだった。「試合に出るチャンスはなかったけれど、常に前向きにチームを支えてくれた、控え選手の存在は本当にありがたかった」

　ジーコジャパンにとって、遠藤はまさに控え組の柱でもあった。そんな遠藤が代表のユニホームを着て、ピッチで輝いたのが、０４年中国で行なわれたアジアカップだった。欧州でプレーする稲本や小野にポジションを奪われた形だった彼が、欧州組不在となった大会で、出場のチャンスを手にし、チームの基礎作りに貢献したのだ。しかし、出場停止処分で、決勝の舞台には立てなかった。

　その後、ジーコジャパンでは相変わらず、ベンチで過ごす時間が長かったが、オシムジャパンにおいては、ほぼすべての試合に出場し、ゲームにアクセントをつけるプレーで、欠かせない存在となった。ポジションは以前のボランチではなく、ひとつ前の攻撃的ＭＦとなったが、緩急あるパスや巧みなポジショニングで、チームメイトを支える縁の下の力持ち的な役割を担っている。

「中国でのアジアカップの決勝での、悔しさはありますね。それを晴らす、リベンジしたいという気持ちもあるけれど、それも今大会で決勝まで勝ち残って、その試合に出場して、初めて考えることだと思う。今はまだその段階じゃないでしょ」０４年当時の話をすると、少し照れくさそうに語る。

　７月５日、ハノイ入り最初の練習後、痛めていた足について質問すると、「まあまあいいかな」と控えめに話したあと、「日の丸をつけたら、そんなことも言ってられないでしょ」と言い切った。力のこもった言葉に心が動かされる。遠藤の覚悟が伝わってきたからだ。

　そんな聞き手の様子を察知すると、「ちょっとかっこよすぎたかなぁ」と遠藤は、また、恥ずかしそうに笑った。「たとえ控えであってもあのグループにいることに意味がある」とジーコジャパン時代に語っていた遠藤。数え切れない悔しさを抱えながらも、常に前向きに日々を過ごしてきた。

　その健気な姿は、チームの中心人物として連日報道陣に囲まれても、変わらない。周囲の喧騒に惑わされることなく、彼は自身の仕事をまっとうすることにすべてを尽くす。００年オーストラリアのスタンドで、彼が味わった悔しさ。その経験が何をもたらしたのか？　「あの悔しさをずっと忘れないでサッカーをやってきた」３連覇という輝かしい歴史ではない、もうひとつの物語。遠藤保仁のストーリーに刻む新しいストーリーが、この夏ハノイで紡がれる。

―― text by Noriko TERANO ――

サムライ通信
・鈴木啓太「縁の下の力持ち」
・欧州組参加の効用
・中村俊輔、あらたなる試練
・欧州組融合の第一歩

もっと見る