(イラスト:丸山一葉)

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近年、SNSを悪用した投資詐欺の被害が急増しています。SNSを通じて対面することなく親交を深め、投資金名目やその利益の出勤手数料名目などで金銭をだまし取るのが、通称SNS型投資詐欺。警察庁の発表によると、令和6年1月〜8月のSNS型投資詐欺の認知件数は4,639件(前年同月比+3,593件)で、被害額は約641.4億円とのこと。あわよくば一攫千金を――そんな期待は誰しも抱いているもの。けれど世の中、そこまで甘くはないようで……。北泉加世子さん(仮名・愛知県・無職・80歳)は、投資詐欺に遭い、老後の資金として貯めていた2000万円を失ってしまい――

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「経済評論家」から資金倍増計画に誘われて

齢(よわい)80。年金生活者の私が投資詐欺に遭い、たった1ヵ月で2000万円を失ったのは、今年3月末のことだ。老後のために貯めていたお金は、0円になってしまった。

まさに青天の霹靂。月6万円の年金以外、収入はなし。こんな状況になるとは思いもよらなかった。一寸先は闇の急降下人生と化す――。

私は好奇心旺盛なほうで、何か気になることがあると必ずインターネットで検索する。今年の2月下旬、日経平均が4万円を超えそうだというニュースが流れてきた。

私は30歳から株を購入している。大きな儲けにはならないまでもいくばくかの財産にはなっていたので、「この先、株式市場はどうなるんだろう」という思いから、スマホで検索をかけた。

関連記事を読んでいると、著名人が7、8人載っている株式情報欄がふと目に留まる。そのなかには、実業家のHさん、経済評論家のMさんがいた。彼らをLINEの「友だち」に追加すれば、投資に関するお得な情報が無料で得られるという。

私はテレビなどで顔をよく知っていたHさんを、気軽な気持ちで追加してみた。

するとすぐに連絡が来て、いま株を買うべき証券コードが2つほど送られてきた。証券口座に残っているお金があるから、試しに買ってみよう。

私はさっそく行動に移した。3日後には購入した株を売るよう連絡が入り、その通りに売ると、少しだけ儲けが出た。

次に私は、信頼できそうなMさんも登録。彼も同じく証券コードを2つほど知らせ、買いの指示を出してくる。そして同じように相手の指示するタイミングで株を売り、少額の儲けを出した。私はMさんの情報に絞って、売買を続けることにした。

3月に入ると、Mさんから「3月の資金倍増計画! 皆さんも参加して、老後の安定した生活を目指しましょう」という誘いが。

私は「お金を倍に増やせる? そんなおいしい話があるのだろうか」と少し悩んだが、株も短期で儲かっていたため、まあ、せっかくだから試してみようか、と参加に踏み切った。この甘い決断が、私の人生を変えてしまうことになるなんて――。

口座から出金するために突きつけられた条件は

まず、運用資金を専用口座に振り込むよう指示が入った。少額ではあまり意味がないだろうと思い、100万円振り込むことに。入金が完了すると、今度は会員用のLINEグループに招待された。

そこには20人ほどの参加者がいて、会話も自由にできるようになっている。私たちは、投資取引用のアプリをダウンロード。国際金市場に口座を開設してもらい、金の取引に参加することになった。

ここで行う投資は、自分で振り込んだ金額の10%(私の場合、100万円のうち10万円)を1回の取引で運用し、30%の利益が出る仕組みだった。つまり1日1回、しかもたった30分の取引で約3万円の利益が出るのだ。わー、すごい!

私は「ブルジョアがやっているのは、こんな取引なのか。だから生涯ブルジョアなんだなあ」と感激。

さらに、振込額が多くなると1日2回取引できるようになるシステムだったので、私は保有していた株を売却し、そのお金を運用資金につぎ込んだ。合計2000万円。振り返ると驚く金額だが、マネーゲームのようで楽しくなってしまったのだ。

3週間後、口座には5000万円以上のお金が貯まっていた。つまり予定通り、資金を2倍以上に増やしたことになる。Mさんは3月下旬に、「これで資金倍増計画は終了とします」と宣言。

そして、振込額が5000万円以下の人はLINEグループから退室し、口座にある資金をすべて引き出すよう指示があった。その最後には、目を疑う一文が。「資金を引き出す前に、手数料10%の支払いを済ませていただきます」

つまり、手数料を手持ちのお金で支払ってからでないと、口座から出金できないというのだ。手数料がかかることは知っていたが、取引口座に入っているお金が使えないとは聞いていない。私は約500万円を要求され、一瞬にしてパニックに……。

私はHさんに頼ることにした。最初に登録したアカウントは怪しいと思ったので、「公式」と書いてあるものをLINEで検索し、これまでの経緯を伝えた。すると、「それは詐欺なので、その損失を私のところで穴埋めしましょう」と返信が届いた。

私は冷静な判断ができず、藁にもすがる思いで生活費として残していた30万を振り込み、彼の手引きで原油取引に参加。

しかし、2回取引したところでMさんと同じ流れだと気づいた。終了したいと申し出ると、やはり出金手数料を要求される。おかしい。これも詐欺かもしれない。

やっとここで、交番へ駆け込んだ。警察官は、「SNS型投資詐欺ですね。手数料を振り込んでもお金は戻りませんよ」と言う。愕然とした。3月の終わりのことだった。

警察官は、LINEグループに参加していた人はサクラ、取引口座の金額もすべて偽物だと説明する。泣きついたHさんの公式LINEも、「公式」ではなかったのだ。にわかには信じられなかった。送られてくる情報は世界情勢や株価の変動なども押さえていて、専門家が考えた文章としか思えないものだったから。

悔しくて、寂しくて、悲しい。私以外に、こんなドジはいないだろう。私はシングルマザーで娘が1人いるが、彼女ももう立派な母親。頼ることはできない。何より恥ずかしいし、誰にも知られたくない。だから、墓場まで持っていこうと決めた。

ネットに疎い高齢者だったら、こんな目には遭わなかった。世の中はなんて残酷なんだ! 自分が甘い、疑わない人間だからか。あまりにもひどい末路だ。

ニュースを見ていると、私より高額の詐欺被害に遭った人がたくさんいるようだが、貯金0円になってしまった人はほとんどいないだろう。

今は毎日、卵、納豆、安い魚や肉で暮らす日々。せめてもの救いは、体が丈夫であること。神様はこれを予知して、私に健康を与えてくださったのだろうか――。きっとそうに違いない。

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詐欺に遭わないための対策

北泉さん(仮名)は、立て続けに投資詐欺に遭い、せっかく貯めた老後の資金を失う結果に。

近年SNSを悪用した投資詐欺は急増しており、1件当たりの被害額が1,000万円を超えるなど、被害が高額になる場合が多いです。

犯人の手口は巧妙です。テレビやネットでよく見る著名人の名前を騙る場合もあれば、SNSでのやり取りを通じて相手を信じ込ませた後に、投資話を持ち掛けてきます。「自分だけは大丈夫」と思っていても、気づかない間に犯人の策にハマっている可能性が。

SNS型投資詐欺に遭うきっかけとして、主にネット広告やダイレクトメッセージ(インスタグラムやフェイスブックなど)での接触から始まります。

「必ずもうかる」「あなただけ」といった甘い言葉に惑わされず、著名人がなりすましでないか、投資先が実在しているか・国の登録事業者かどうかなどを確認するようにしましょう。

●警察庁の特殊詐欺対策ページ
「SNS型投資・ロマンス詐欺」
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/sos47/new-topics/sns-romance/

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