(写真提供:鈴木さん(写真はすべて動画から))

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夫の借金、離婚、職探しなどさまざまな苦労を乗り越えてきた鈴木よう子さんは、つましい年金生活を動画配信して話題に。小さな喜びや夢を大事にしながら日々を送っています (構成:村瀬素子 写真提供:鈴木さん(写真はすべて動画から))

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失業、腰痛、肝臓病……リアルな生活を映して

若い頃は漠然と、老後は悠々自適の生活ができるのだろうと思っていました。まさかこんな大変なことになるとは……。

リアルなお一人様の年金暮らしの様子をユーチューブで配信し始めたのは、2022年5月、64歳のときです。

夫と離婚したのは約20年前。以来、生活に追われつつ子育てをして、ようやく子どもたちが独立した頃、気づけば還暦――賃貸住宅で一人暮らしの年金生活者になっていました。

60歳からは、特別支給される老齢厚生年金(報酬比例部分)の1万7492円を受給。貯金がなかったのでうれしかったです。

コロナ前までは、フルタイムのパートでコツコツ貯蓄していました。ところがコロナ禍の影響でパートをクビに。収入がなくなり、1ヵ月2万円弱の年金とわずかな貯金の取り崩しで暮らすことになったのです。

と同時に、健康問題も発生。もともと腰と股関節に持病を抱えていたうえに、健康診断で肝機能障害が見つかり満身創痍。それでも働かなければと、求職活動を始めた矢先ぎっくり腰に見舞われ、自宅療養を余儀なくされて。こんなはずではと涙がこぼれ落ちる日々……。

そんな最悪な状況のなか、唯一の楽しみがユーチューブを見ることだったのです。とくに同世代の方々が、苦しい生活の実情や暮らしの工夫を語る動画に釘付けに。

時間だけはあったので、私もやってみよう、と思い立ちました。撮影用の照明も機材もなくて初期の動画はひどい出来でしたが、それもリアル(笑)。落ち込んでいては前に進めません。

低年金でやりくりする「60代一人暮らし」の動画は、思わぬ反響をいただきました。朝5時に起きてカーテンを開け、小さな台所でお湯を沸かすところから始まって、冷蔵庫にあるもので料理を作って食べたり、近所を散歩したり、日々の思いを語っているのですが、皆さんからの温かいコメントが励みになっています。

なかでも「1ヵ月の生活費をすべて公開します」の回は再生回数がグンと伸びました。やはりお金のテーマは関心が高いようですね。


季節の花を愛でながら散歩を楽しむ。

趣味は散歩と食べること

いま66歳の私の年金は、65歳から受給開始した老齢基礎年金と厚生年金を合わせて、月に約7万円になりました。でも、社会保険料などが引かれ、残りは家賃と光熱費で消えてしまい、働かないと生活できません。

ですから、今は再就職して婦人服の販売のパートをしています。勤務は不定期で、多いときで月10日ほど。ユーチューブの収益も少々。どうにかやりくりしています。

現在の1ヵ月の生活費は10万円から11万円ほど。大まかな内訳は、固定費として家賃が4万3000円、民間の保険料が6000円、通信費3278円。水道光熱費が1万2000円〜1万5000円。食費は1万8000円。交際費と小遣いが合計1万円。それらは余ったら貯金に回します。

この2年間で食品や電気代など軒並み値上がりしましたが、生活費は維持するよう努めています。

少ない年金で老後20年、30年と暮らしていくには、無駄を省いて節約することが大事だと思うんです。

じつは子どもたちが独立したあと、預金通帳を見てハッと気づいたことがあって。家族の人数が減ってラクになると思っていたのに、意外と出費は変わらない! 「このままじゃいけない」と思い、車と固定電話を手放し、スマートフォンを大手キャリアから格安SIMに変更しました。

給湯器の電源はオフモードに、節電タップを使用して待機電力をカット、エアコンを使わないときは電源も抜く、といった節約を実践。些細なことでも、チリも積もれば山となる、です。

節約と健康面も考えて、基本的に1日3食自炊しています。食費予算は月1万8000円なので1日約600円。以前は《お買い得品》に飛びつき、結果、使い切れず捨ててしまうということも。今はお買い得品でも、本当に食べたいのかを考え、必要最低限にしています。

一度、「1ヵ月食費1万円」の生活に挑戦したんですよ。鶏肉の代わりに厚揚げで筑前煮を作ったり、じゃがいもを入れてハンバーグをかさ増ししたり。その月の食費合計額は9727円。やればできるものですね。

とはいえ、いつもストイックに節約しているわけではありません。私の最大の楽しみは食べることなので、食べたいものは我慢しない。

野菜を買い足すためにスーパーに行ったとき、旬のスイカが美味しそう! となれば、ほかで節約して臨機応変に購入。

また、2ヵ月に一度の年金受給日はやはりうれしいもので、普段高くて買えない牛肉をタイムセールで買って一人焼き肉をしたり、ささやかな贅沢を味わいます。

年金生活で何より大事なのは、健康でいること。病気をすると医療費がかかり、働くこともままなりません。私の趣味は、お金がかからず、健康維持にも役立つ散歩。季節の花を眺めながらぶらぶら歩いているだけで癒やされます。

最近は、お弁当を作って、自転車で遠くの公園まで行ったり、時には電車に乗って他県まで足を運び、神社などを散策。マイペースで散歩するのは心と体の健康にいいようです。

おかげで肝機能障害は完治しました。最近つくづく実感するのは、「今日が一番若い」ということ。だから「思い立ったら即行動!」を実践しているんです。


いつものソファでの食事シーン。好物を食べるときは喜びもひとしお

夢があるから節約も楽しい

50代までの私は、生活にゆとりなどありませんでした。20代で結婚、会社勤めをしながらの子育て。近所に住む義父母の食事を作り、義祖母の下の世話もしました。

夫は有能な人でしたが会社を辞めて事業に手を出し、結局倒産。借金取りに追われるようになったため、私は息子たちを連れて実家に逃げて、その後離婚に至ったのです。

元夫からは慰謝料も養育費ももらえず、実家の近くでアパート暮らしを始めた私は、平日はフルタイムで事務の仕事をし、休日は婦人服の販売、とダブルワークで子どもを育てました。

息子たちが独立してようやく肩の荷が下りたのは、ほんの数年前のこと。自分の老後資金を蓄える余裕などなかったのです。

ただ、まったく準備していなかったわけではありません。結婚していた頃、将来のために貯蓄型保険に加入。生活費の中から月1万円を捻出して積み立てていました。

なのに、知らないうちに夫が使い込んでなくなっていたのです。大ショックでしたがどうしようもありません。


質素でも心は豊かに暮らす

もう一つ悔やまれるのが、離婚の際に年金分割の申請をしなかったこと。専業主婦の場合、婚姻期間中の夫の厚生年金の半分を受け取ることができます。

ただし請求期限は離婚の翌日から2年以内。私がその制度を知ったのは60歳のときで、遅すぎました。

もし申請していたら、年金額は月3万円ぐらい増えていたでしょう。残念でなりません。制度は自分で調べて申請しない限り利用できないと痛感し、今はなんでもインターネットで調べるようにしています。

元夫には散々な目にあわされましたが、おかげでちょっとした困難にはメゲなくなりました。料理や介護などあらゆる経験が役立っている。今、私がこうして前向きに生きられるのは、たくさんの人に支えてもらったからです。

離婚後の私の生活を助け、息子たちの面倒をみてくれた亡き両親。シングルマザーの私の心の支えになってくれたママ友は、今も唯一無二の親友です。それにパート先の人たちの理解のおかげで、ダブルワークと子育てを両立できた。もちろん、息子たちは頼りになる存在。みんなに感謝しています。

私にはやりたいことが山ほどあるんです。世の中は変化していくので、固定観念に囚われず、学んで柔軟に対応できる自分でありたい。そして、パートも配信もできる限り続けて、少しずつでも貯金を増やしたいですね。

孫に小遣いをあげたいし(笑)、家族旅行もしたい。そんな夢を抱きつつ、一日一日を大切に過ごしていきたいです。