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高齢者の住まいの選択肢として、人気が高まる「老人ホーム」。最近は、高級ホテルのような設備やサービスを提供する施設も増え、自活できる人の間でも「老人ホームに入居」という選択肢が広がっています。一方で、一度入居を決めたものの、退去せざるを得ない状況に直面するケースも。

高齢者の住まいとして人気高まる「老人ホーム

高齢の住まいのひとつの選択肢となっている老人ホーム。もともとは介護施設の意味合いが大きかったですが、昨今は健康で自活できる人を対象とした施設も増えています。

老人ホーム入居を検討する際に気になるのは、やはり費用面。検討すべきは大きく2つで、まずは初期費用となる入居一時金。これは家賃の前払いのようなもので、ゼロ円〜数千万円。富裕層をターゲットしたところであれば、億を超えることもあります。入居一時金あり/なし、どちらのプランも用意する施設もあり、「入居一時金なしプラン」の場合は、入居の垣根が低い分、毎月の費用は高くなります。

そしてもうひとつ考えるべきは月額費用。施設によって何が含まれるかはまちまちですが、家賃、管理費、食費、水道光熱費、(介護付き施設であれば)介護費が含まれる場合が多く、月15万〜30万円ほどの価格帯が多いようです。入居一時期と同様、富裕層をターゲットにした施設であれば、月50万円程度もざらにあります。

中本孝さん(仮名・72歳)も、老人ホームへの入居を検討しているひとり。妻が亡くなり、5年ほどひとり暮らしだといいますが、最近は家事も面倒で、自宅の維持も大変。子どもに多くの遺産を残すのもトラブルの元なので、ほぼ最期にはほぼ使い切りたいと考えていました。

そんな中本さん。予算は、入居一時金が5,000万円まで、月額費用は40万円程度であれば払えるといいます。

――自宅の売却したお金も考えたら、もう少し出せると思うけど

中本さん、大企業の部長まで勤めた、いわゆるエリート。60歳で定年退職を迎え、現在は月22万円の年金を受け取り元エリート。退職金もそれなりにありました。予算が多くて当然です。

――趣味らしい趣味もないから、正直、お金は結構残っています。あの世には持っていけませんから、人生最後の贅沢ですよ

入居一時金「3,500万円」月額費用「40万円」の高級老人ホームへの入居を決めたが…

中本さんが決めたのは、住宅型の有料老人ホーム。医療の連携も充実しているから、今後何かあっても安心。費用は入居一時金が3,500万円、月額費用は40万円。ホテルのような住環境にホスピタリティ……高級老人ホームといっても過言ではないホームです。

――環境とアクセスがよく、都心に出かけるのもラク。食事も美味しくて気に入りました

人生最後の贅沢と決め込んで入居した老人ホームでの暮らしは、とても満足のいくものだったといいます。これが2年ほど前の話。中本さん、引き続き、充実した老人ホームライフを送っているかといえば、実は退去して自宅に戻ったといいます。なぜ……。

――月額費用が値上がりして……想定以上の値上げだったので、請求額を思わず二度見してしまいました。このまま入居を続ければ、80歳を超えるころには貯蓄がつきてしまいます。老後破綻するとわかっているのに、とてもじゃないけど入居は続けられません

現在、老人ホームをはじめとする介護の現場で、昨今の物価高を受けて利用料の値上げが相次いでいます。公益社団法人 全国老人保健施設協会が行った『介護現場における物価高騰・賃上げ等の状況調査』によると、老健や特養、介護医療院といった介護保険施設では、この5年で電気代が155%アップ、ガス代が151%アップ、燃料費が132%アップ、給食用材料費・委託費は156%アップでした。さらに、賃上げ状況をみていくと、正社員が前年比133%アップ。そのうちベア分は156%アップでした。水道光熱費や食費、人件費がこれほど上昇しているわけですから、月額利用料を据え置き、というわけにはいきません。

中本さんが入居するホームでもトータル7万〜10万円程度の値上げを実施。中本さん、それに伴い、当初のシミュレーションが大幅に狂ったというのです。

物価高の終わりはみえない状況のなか、老人ホームでは今後も月額費用の値上げは続くと思わせます。もしそれに伴い入居の継続が困難であれば、費用に合わせて転居を考えたいもの。老人ホーム入居後も、フレシキブルに転居を検討する時代になったといえるかもしれません。

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公益社団法人 全国老人保健施設協会『介護現場における物価高騰・賃上げ等の状況調査』