コトブキツカサ『教養として知っておきたい映画の世界』刊行記念トークイベント

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 映画パーソナリティ・エンタメ評論家のコトブキツカサ氏と元TBSアナウンサーで俳優の田中みな実氏の対談イベント「ようこそ”映画中毒”の世界へ!」が東京のジュンク堂書店池袋本店で9月に開催された。

【写真】コトブキツカサ・田中みな実が映画談義

 コトブキツカサ氏の新刊『教養として知っておきたい映画の世界』(日本実業出版社)の刊行を記念したトークショー。同作は映画をこよなく愛し、年間500本以上を鑑賞する「映画中毒」である氏が、商業映画の歴史、業界が抱える課題、映画史を変えた名作などを縦横無尽に語り尽くしている。

 トークショーではコトブキ氏とラジオ番組などで親交のある田中みな実氏がスペシャルゲストとして登場し、二人で本書内容をはじめとして、好きな映画の思い出について語り合った。その模様を抜粋・編集してお届けする。司会進行は本書の編集担当・佐藤美玲氏。

 ◼️「読んだ後に誰かと話したくなる本」

ーー田中みな実さんがもし『教養として知っておきたい映画の世界』をお読みになられていれば、ぜひ感想を伺いたいです。

田中:もちろん、しっかり読んできました。一言で言うと、めちゃくちゃ読みやすい。たくさんの項目がありますが、それぞれが見開き1ページ半くらいなんです。「(映画は)普段あまり読むジャンルの本じゃないんだよな」という方も非常に読みやすいと思います。専門的な知識がそこまで書いてあるわけじゃないですし、名作を紹介しているので自分の好きな映画が必ず1作品は入っていると思います。「私の好きな作品はこんな裏話があったんだ!」と知ることができます。読んだ後に誰かと話したくなる本だと思いました。

コトブキ:めちゃくちゃ嬉しいです。今、みな実さんがおっしゃったように、読みやすさは考えていたことでした。なぜかというと、映画1本に対していろいろな思いや情報があるから、やっぱり長くなっちゃうんですよ。3、4ページ、下手すれば10ページと。でも読んでいる人からすると、1本だけでそれだけ長いと飽きちゃうんじゃないかなと。そこは編集者さんが構成してくれて、めちゃくちゃ読みやすい形になりました。

田中:あと今は、NetflixやAmazon Primeなどでいろんな作品を見ることができるじゃないですか。でも「何を見たらいいかわからない」という方、結構いらっしゃいませんか? だからとりあえず最近の話題作を見たりする。私もそうやっています。

 でもこの本を読むと、過去の名作をはじめ「これを見ておけば間違いない!」という作品がたくさん紹介されています。この本を参考に作品選びをすると、普段自分が出会えない映画に出会えるなと思いました。

コトブキ:本当にありがたいですね。例えば、過去の名作でタイトルは聞いたことがあるんだけども、見るきっかけがない。サブスクでも見られるんだけれども「いまさら30年前の映画は見ないよ」なんて方も多いと思うんです。でもこの本では、その映画がどういう成り立ちでできたかなどが書いてあるので、「コトブキがこれだけ言ってるんだから見てみようかな」と思ってもらえたら嬉しいです。

田中:かなり厳選してますね。

コトブキ:そうです。もちろん厳選しました。

◼️学生時代の映画デートの思い出

ーー昔から映画はデートコースの定番だと思います。お二人の映画デートの思い出について伺いたいです。

コトブキ:今までの人生で一人で映画館に見に行くこともありますよね。でも例えば、パートナーの方と映画を見に行くことも当然あるわけでしょ。

田中:パートナーではないですが、私が初めてお付き合いしたのは、大学生のとき。中学・高校が女子校だったので、あまり異性との出会いがなくて。だけど、高校生になると周りは付き合うことも増えてくるわけですよ。みんなバイト先や塾で出会っていました。それで友達から「小学生の頃の同級生のユウくんを紹介するよ」って言われて、その子と一緒に映画を見に行ったの。錦糸町に。

コトブキ:映画デート。

田中:友達が周りで見守っていて。よく漫画とかである二人が会っている様子を、友達が木陰で見てるみたいな。

 待ち合わせして「ユウくんですか。田中みな実です」という感じで。それで映画を見て、ミスタードーナツに行って、解散しました。

コトブキ:その後、どうなったんですか?

田中:何回かメールしただけで、何も。それだけです。

ーーちなみに何の映画だったんでしょう?

田中:それが覚えてないんですよ。

コトブキ:ミスタードーナツは覚えていたけどね!

田中:緊張しちゃって。多分、作品よりも、男の子と一緒に映画を見てるというシチュエーションにどうしよう、みたいな。親にも内緒にしていたし。飲み物も買ったけど、音を立てちゃいけないと思って、飲めなかった記憶がある。だから全然映画に集中していなかったような気がします。

コトブキ:でもそれは思い出ですね。

田中:そうですね。逆に覚えていないということがリアルじゃないですか。

コトブキ:ユウくん見てるかな、この配信。もしかしたらSNSで「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だよ!」とか言ってるかも。

田中:いやそんな昔じゃないから! え、コトブキさんは白黒映画の時代ですか?

コトブキ:そんなわけないでしょう!

◼️映画館は特別な場所だった

田中:映画館で初めて見た映画は何ですか?

コトブキ:何の作品だったかは覚えてないんだけど、やっぱり子どもの頃から映画館に通ってたんですよ。だから「東映まんがまつり」だったと思います。

田中:そうそう、子どもの頃は確かにありましたね。

コトブキ:そうですね。毎年「東映まんがまつり」っていうのがあって。漫画から映画化された作品を特集して上映するんです。

 僕の地元は静岡の富士宮でしてね。世代が同じ方はわかるかもしれないけど、小学校のときって二本立て上映だったんですよ。二本立てでした?

田中:いや全然、同世代と思わないでください!

コトブキ:じゃ、二本立てってわかりますか?

田中:わからないです。

コトブキ:要は、一本の映画チケット代で二本見ることができたんですよ。朝、映画を見に行くじゃないですか。二本立てだから、映画を一本見て、もう一本見られるんですよ。なおかつ、ずっといられるんです。

田中:すごい、歌舞伎みたい。

コトブキ:しかも入れ替え制じゃないんですよね。見たいと思えばずっと席に座っていられるんです。それで覚えてるのは、小学6年生くらいのときに『おニャン子・ザ・ムービー 危機イッパツ!』と『そろばんずく』が同時上映だったんです。原田眞人監督のおニャン子クラブが出演した作品と、森田芳光監督のとんねるずが出演した作品でした。

 一緒に行った友達はみんな『おニャン子・ザ・ムービー 危機イッパツ!』目当てでした。だからそれが終わったら、もう映画館を出ちゃうんです。でも僕はもったいないから「そろばんずく」まで見たい。それで僕だけ映画館に残るんですよ。「二本見られるのに、なんで一本で帰っちゃうんだろう」と思って。しかも僕、もう一回『おニャン子・ザ・ムービー 危機イッパツ!』を見ましたからね。

 本当にずっと映画館に入り浸っていたんです。あとがきに書いてありますけど、小学生の頃から映画館が居場所だった。両親は共働きだったし。特に中学の頃は部活に途中から行かなくなって。そしたら、夏休みとかに遊んでくれる人がいなくなるんですよ。

田中:確かに学生の頃は部活動の友達と動くことが多いですね。

コトブキ:部活に友達がいたのに、行かなくなっちゃった。だから居場所がないなって思ってるときに、映画館によく行ってたんです。その頃から映画館は特別な場所なんですよね。

◼️映画デートの失敗談

ーーコトブキさんの初デートは「東映まんがまつり」だったということですか?

田中:コトブキさんのデート、そんなに気になります?

ーー気になりますね。映画中毒の方はデートにどういう映画を厳選するのか。

田中:確かに。ご結婚されていますけど、もししてなかったとして私が彼女だったら、「映画の専門家だから、どんな劇場にどんな作品を見せに連れていってくれるんだろう?」と思います。期待値はすごく上がります。

ーーそれが参考になる方もいるんじゃないかと思いまして。

コトブキ:今思い出したんですけど、10代のときに、地元の富士宮から電車で1時間くらいの沼津によく行ってたんです。映画館がすごく多かったんですよね。

 それで当時付き合っていた彼女と沼津までケビン・コスナー主演の映画『ダンス・ウィズ・ウルブズ』を見に行ったんです。前情報はあまりなかったんですけど、アカデミー作品賞を取っていることは知っていました。当時から映画好きだったから、とにかくアカデミー賞を取った映画を見に行きたいって思うじゃないですか。

 上映時間は三時間くらいあったんですよ。しかも割と渋い映画で、向こうでいう時代劇だった。で....…盛り上がらなかったですね。終わってから「ごめんね」って言いました。そしたら「なんか渋い映画だったね」って言われて。

ーー......あまり参考にならなかったですね。

田中:あははは。

コトブキ:いや、だから何を教訓にしてほしいかっていうと「アカデミー賞受賞作品だからカップルで見に行けばいい」ってもんでもないんです。

田中:確かに。

コトブキ:僕はその後にいろいろ学んで、いわゆる処方箋映画、つまりその人にどういう映画をおすすめしたらいいのかを考えるようになりました。以前、レンタルビデオ屋さんにいると、僕のことを知ってくれている人と会ったりしたんです。「コトブキさん、どの作品を見ればいいですかね?」とよく質問されました。そこでは僕は絶対に時間が許す限り、付き合いました。「どんな作品や監督が好きですか?」と聞いて、「だったらこれとかどうですか?」と。僕も勉強になったんですよね。そんな時期もありましたね。

田中:えー、いいですね。

◼️何度も見た「ラブコメの女王」出演作

ーーお二人のおすすめの映画を知りたいです。繰り返し見てしまう映画はありますか?

コトブキ:みな実さんは今までで一番見た映画は何ですか?

田中:『Love Actually』?

コトブキ:今、ちょっとネイティブ発音。リチャード・カーティス監督の『ラブ・アクチュアリー』ですね。

田中:あと、メグ・ライアン三部作と言われている『ユー・ガット・メール』、『めぐり逢えたら』、『ニューヨークの恋人』。

コトブキ:いいですねえ。恋愛ものが好きですね。

田中:あまり世代ではないですけど。よく前田敦子ちゃんと一緒にTSUTAYAに行っていたことがあって、過去の名作がDVD1枚100円のコーナーがあるじゃないですか。それでいつもあっちゃんが、「みな実ちゃん、これ好きそう」と選んでくれて。あっちゃんのおすすめだからと思って見たら、本当に面白くて。当時のメグ・ライアンのキュートな感じがね。

コトブキ:そりゃそうよ。僕は世代でした。そばかすがたまらないですね。

田中:日本の女優さんにはいらっしゃらない感じで。かわいいですよね。自由奔放で表情がくるくる変わるのが、本当にかわいらしくて。

コトブキ:彼女は「ラブコメの女王」なんて言われた時代がありましたね。

◼️100回以上見た名シーンを解説

田中:コトブキさんは何度も見た映画はあります?

コトブキ:いっぱいあるよ、それは。

田中:50回以上見た作品はありますか?

コトブキ:50回以上、ありますね。あと全部じゃないけど、好きで何度も見まくったシーンがあります。韓国映画の『猟奇的な彼女』は何回も見たんだけど、エンディングが好きすぎて、100回以上見てます。

 すごくかいつまんで言うと、主人公の男性「キョヌ」とチョン・ジヒョン演じる「彼女」が出ている。ちゃんと見てほしいんだけど「彼女」なんですよ。つまり、チョン・ジヒョンの役名が出てこないんです。ここに深い意味がありませんか?

田中:気づかなかったです。

コトブキ:名前がないということは「誰が主人公なの?」「本物なの?」「いたの?」と。それはいろいろ考えればいいんだけど。

 途中で二人がクラブに行くときに身分証明書を見せるシーンがあるんです。そういう伏線があって、ラストでも二人が店員に身分証をブワッと見せて、そこで止まって、黒い画面になってエンディング曲『アイ・ビリーヴ』が流れるんです。

田中:ええ、かっこいい。

コトブキ:めちゃくちゃかっこよくて。僕は一時期、スマホの待ち受け画面にしてたから。

田中:黒いところ?

コトブキ:なんでだよ! 黒いところを待ち受けにしてたら、ただのズボラな奴じゃないか。

田中:どこですか?

コトブキ:だから身分証を二人が出すところ。とにかくもう100回以上、見ています。毎回、そこを見るたびに感動します。

田中:そういう素敵なシーン、鳥肌が立ちますよね。

◼️映画が総合芸術である理由

コトブキ:新刊『教養として知っておきたい映画の世界』では、映画音楽の項目もあって、『猟奇的な彼女』の『アイ・ビリーヴ』も入れました。

田中:映画って音楽もいいですよね。

コトブキ:皆さん、好きな映画があると思いますけど、大概音楽も頭に入ってません?

田中:音楽を聴くと「あ、この映画だ!」って思い出すことがありますね。

コトブキ:思い出したりするでしょう。だから映画音楽は“添え物”ではなく作品の一部、セットなんです。

 映画って唯一、総合芸術だと言われますね。でも僕は映画を作ってはいませんから、これを言うと偉そうだと指摘を受けるんですけど、それでもやっぱり、映画はマジで総合芸術なんです。もう、これが答えなんです。

 脚本、出演者の演技、音楽、照明、要はいろいろな職人の芸術が集まったものが映画なんです。もちろんそれぞれの芸術分野を僕はリスペクトしています。でも、映画はさまざまな力が集約して1本ができあがる。だから総合芸術だと言われるんですね。

(文=篠原諄也)