●いつになく輝いた表情を見せる彰子

テレビ画面を注視していたかどうかがわかる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、22日に放送されたNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合 毎週日曜20:00〜ほか)の第36話「待ち望まれた日」の視聴者分析をまとめた。

『光る君へ』第36話より (C)NHK

○藤原道綱のはしゃぎぶりに戸惑う公卿たち

最も注目されたのは20時36分で、注目度83.5%。一条天皇(塩野瑛久)が、中宮・藤原彰子(見上愛)との間に生まれた御子と初めて対面するシーンだ。

一条天皇は土御門殿へ行幸した。生まれたばかりの我が子に会いに来たのだ。土御門殿では、左大臣・藤原道長(柄本佑)をはじめ、左大臣家総出で一条天皇を出迎えた。中宮・彰子は澄み切った空の色のように青い単衣を身にまとい、その表情はいつになく輝いている。「朕に抱かせよ」一条天皇がそう言うと、彰子は抱いていた御子を、そっと夫に手渡した。

一条天皇が御子を抱く姿を見る彰子とその母である源倫子(黒木華)の胸に万感の思いが迫る。敦成(あつひら)と名づけられた御子に、一条天皇はこの日親王宣下を下した。敦成親王が生まれて50日経った日、土御門殿では五十日の儀が開かれた。倫子が抱いた敦成親王の口元に、道長が餅をすくったさじを運ぶ。宴に招かれた公卿たちが廊下を渡り広間へと向かう。まだ酒も飲んでいないのにひとり騒がしくする者がいる。道長の兄である大納言・藤原道綱(上地雄輔)だ。「これも、これも、これも、これも、これも…はははは! これも、これも、これも、これも…みーんな50個なのだよ。50日で50個!」そのはしゃぎぶりに公卿たちはみな戸惑っている。

公卿たちが広間に着き、みなが各々の席に座すと、「今日は敦成親王さまが、健やかに50日を迎えられた祝いのうたげである。無礼講ゆえ、皆々心ゆくまで楽しんでくれ。いっくらでも酔ってくれ」と、道長が声を上げた。華やかな饗宴の始まりである。

『光る君へ』第36話の毎分注視データ

○覚醒した彰子の姿に祝福の声

注目された理由は、左大臣家の長年の悲願が成就した瞬間に、視聴者の視線が「くぎづけ」になったと考えられる。

御子を抱く彰子は今までとは違い、明るく自信に満ちあふれていた。自分の好きな色である青の単衣を身にまとい、髪型とメイクも変え、すっかり覚醒した彰子の姿に、X(Twitter)では、「帝に敦成を抱いてもらった時の彰子さまが嬉しそう」「彰子さま、本当に表情が明るくなったね」「彰子さまにはこれから幸せになってほしい」といった、これまで彰子を見守ってきた視聴者からの祝福の声が集まっている。

一方、「一条天皇、複雑そうな顔をしているな…」「敦康(渡邉櫂)が生まれたときはあんなに嬉しそうだったのに」と、彰子と一条天皇の温度差を心配する声も上がっている。彰子の出産をきっかけに、これまで保たれてきたパワーバランスが大きく崩れてしまうのを懸念しているのだろう。一条天皇と彰子、そして異母兄弟となる2人の親王にはどのような運命が待ち受けているのだろうか。ますます目が離せない。

『光る君へ』公式Webサイトの特集「をしへて!」によると、「五十日(いか)の儀」とは平安時代の貴族社会で行われた通過儀礼の1つ。生誕50日目にあたる夜に、子どもの誕生と成長を祈る。物語の舞台である平安時代は現代ほど医療が発展していない。だから、生まれた子どもが50日を無事に生きるということは当時は非常に大変だった。そうした背景から、子どもが無事に50日を迎えたことを祝い、今後の健康と成長を祈願する風習が生まれたのだ。

儀式のメインイベントは、子どもの口にお餅を含ませること。お餅をすり潰して汁状にし、唇に軽く付ける。子どもが無事に乳離れをし、食事が取れるようになって健康に育つようにという願いが込められている。「五十日の儀」は朝廷の公式行事ではなかったので各家庭に違いがあったそうだ。儀式の後は親族が集まり、盛大に祝宴が開かれた。さすがは、今を時めく左大臣家の主催。非常に豪華な催しだった。

●敦康親王、彰子との別れを惜しむ

2番目に注目されたのは20時12〜14分で、注目度82.8%。敦康親王が中宮・藤原彰子との別れを惜しむシーンだ。

「しばらくの間、里に下がりますが親王様は怠ることなく、学問にお励みくださいませ」彰子はにこやかに敦康親王に声をかけるが、敦康親王の表情はいつになく暗い。「親王様?」彰子が黙りこむ敦康親王の顔を覗き込むと、「お子が生まれたら、私と遊ばなくなるのでしょ?」と、敦康親王は不安そうに心中を吐露した。「そのようなことはございませぬ」彰子はすかさず否定するが、「私は中宮様の子ではありません。まことの子がお生まれになれば、その子の方がいとおしくなるのは道理です」と、幼い親王は答えた。

さすがに聡明な一条天皇と、皇后・藤原定子(高畑充希)の間に生まれた子である。この歳にして今、自分が置かれている状況を正確に理解しているようだ。「親王様がほんの幼子であられた頃から、親王様と私はここで一緒に生きてまいりました。今日までずっと。帝のお渡りもない頃から、親王様だけが私のそばにいてくださいました。この先も私のそばにいてくださいませ」長年、一条天皇の寵愛を受けられなかった彰子にとって、唯一の心の拠りどころが敦康親王だったのだ。「子が生まれても、親王様のお心を裏切るようなことは、決してございませぬ」彰子の本心からの言葉に、敦康親王にようやく笑顔が戻った。

彰子は出産のため、生まれ育った土御門殿へ戻ってきた。父・藤原道長と母・源倫子が、祖母である藤原穆子(石野真子)とともに彰子を迎える。ずらりと並ぶ女房たちの列の末席にはまひろ(吉高由里子)の姿があった。まひろは穆子のそばに控える赤染衛門(凰稀かなめ)と視線を交わし合った。





(C)NHK

○「血よりも濃い絆で結ばれている」

このシーンは、敦康親王の繊細な心情と、彰子が親王を愛しむ姿に多くの視聴者の共感が集まったと考えられる。

わずか12歳で入内した彰子と、幼いころに母・定子を亡くした敦康親王にとって、お互いの存在はなくてはならないものだった。およそ8年もの間、ともに藤壺で過ごした2人は、この頃には実の親子に勝るとも劣らない深い絆で結ばれていたようだ。

ネット上では、「敦康親王、頭いいしいい子だなー」「敦康親王と彰子のシーンは源氏物語の光源氏と藤壺そのままだね」「血よりも濃い絆でふたりは結ばれているんだね」「敦康親王のこれからを考えると切なくなる…」と、2人の関係性に心を打たれた視聴者のコメントが集まった。実際の敦康親王の養育には、彰子の母・倫子が非常に積極的に補佐をしたと伝わっている。

ちなみに道長はこの頃、糖尿病に体を蝕まれていたようだ。敦康親王はこの後、内裏の政争に巻き込まれていくが、聡明な彼はすでにこの時、己の運命を予見していたのかも知れない。

敦康親王を演じる渡邉櫂はNEWSエンターテインメントに所属する関東在住の10歳。バラエティ番組やCMを中心に活躍しており、大河ドラマは『光る君へ』が初出演となる。難しい立場に置かれている敦康親王だが、その演技は「敦康親王さまの演技すごーい」「表情に色気があっていいな」「見た目は年相応なのに表情が大人っぽい」とSNSなどで絶賛されている。渡邉櫂のこれからの活躍にも期待だ。

●まひろ、道長チルドレンと初対面

3番目に注目されたシーンは20時16分で、注目度80.2%。まひろと道長チルドレンの初対面のシーンだ。

「『人の心の好惡(こうお)苦だ(はなはだ)常ならず、好めば毛羽を生じ惡(にく)めば瘡(きず)を生ず』人の好き嫌いの心はとても変わりやすいもの。好きとなれば、羽が生え飛ぶほどに持ち上げて大事にしますが、嫌いとなれば、瑕(きず)ばかり探しだします」まひろは出産のため里帰りした彰子に、土御門殿で白居易の「太行路」を指南している。「私も間もなく、帝に瑕を探されるのであろうか」彰子は不安げな表情で、まひろに問う。「瑕とは、大切な宝なのでございますよ」「え?」まひろの思いがけない言葉に、彰子は戸惑いを見せた。「瑕こそ、人をその人たらしめるものにございますれば」まひろは優しくほほ笑みながら、そっと彰子に説く。

すると、道長が妍子(倉沢杏菜)・教通(吉田隼)・威子(栢森舞輝)・尊子をともない、彰子のご機嫌をうかがいにやって来た。「中宮様、ご機嫌麗しくお喜び申し上げます」妍子が姉弟を代表して、中宮である姉・彰子へ挨拶を述べる。傍らにいた教通と威子は、まひろを見て「あの人、誰?」「知らない」と、ささやき合っている。「これ」道長がたしなめると、「こちらは藤式部。私の大切なご指南役ですよ」と、弟たちに笑顔を向けた。まひろが道長の子女たちにうやうやしく礼をすると、3人はぎこちなく頭を下げた。



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○「倫子さまは知っているのかな…」

ここは、まひろがかつての想い人の4人の子たちと強制エンカウントさせられてしまう事態に、視聴者の関心が集まったと考えられる。

彰子がまひろから漢籍を学んでいるというタイミングで現れたということは、道長には何か思惑があったのだろうか。SNSでは、「彰子ともども、まひろを家族に取り込もうとしているの?」「倫子さまは知っているのかな…」「彰子が妹や弟に藤式部を紹介するシーン、嬉しそう」などと、視聴者の様々な意見が投稿されている。普通に考えるとひとつ屋根の下で暮らしているのだから、道長の家族と遭遇することは当然あり得るわけだが、今回のようにそろって出向いてこられると何か意図があるように感じる。この先、まひろと道長チルドレンは親交が深まるのだろうか。

藤原妍子はのちに三条天皇として即位した居貞親王(木村達成)の女御となる。なんと16歳で18歳年上の相手に嫁いだ。居貞親王にはすでに藤原すけ(※女へんに成)子(朝倉あき)という妻がおり、その第一子・敦明(阿佐辰美)とは同い年だった。妍子は派手好きな性格で、道長の娘の中でも特に美しく、和歌にも優れた才能を示したそうだ。

藤原教通は成長すると順調に出世する。藤原顕光が死去し、大臣の座が空くと藤原実資(ロバート・秋山竜次)が右大臣に任じられ、教通は弱冠26歳で内大臣に任じられる。

藤原威子は当時、彰子のお腹の中にいるのちの後一条天皇(敦成親王)に入内し中宮となる。後一条天皇より9歳年上だったのでこの年齢差を恥ずかしく思っていたそうだ。藤原威子は兄・藤原頼通(渡邊圭祐)の養子の源師房に嫁ぐ。道長の娘で非皇族・公卿と結婚したのは尊子だけだった。

「新楽府」とは中国・唐の時代に白居易が作った50編の漢詩。当時の政治や社会を風刺した内容で、日本には838(承和5)年に伝わった。平安文学に多大な影響を与え、当時の貴族社会に広く浸透していた。

●出産シーンの壮絶な光景に「当時の貴族は大変」

第36回「待ち望まれた日」では、1008(寛弘5)年の様子が描かれた。今回の物語は中宮・藤原彰子が中心となった。夫をおどろかせるために「ないしょ」で漢籍を学ぶ彰子は、ついに一条天皇の皇子・敦成親王を産む。

トップ以外の見どころとしては、彰子の出産シーンが挙げられる。大勢の祈とう僧や寄坐(よりまし)が叫び暴れまわる壮絶な光景は、「あんなに騒々しい出産シーン、初めて見た」「あんなにやかましいなんて、当時の貴族って大変だね」「どんないくさのシーンより恐ろしい」と、ネットでも評判となっている。また、呪詛マニアの伊周の暗躍?や、久々に登場した猫の小鞠ちゃんも話題となった。彰子が土御門殿に連れて帰っていたようだ。

また、物語序盤を大いに盛り上げてくれた花山法皇(本郷奏多)の死が藤原道綱の口から語られた。かなりの重要人物である花山法皇ですら「ナレ死」となる今回の大河ドラマはとても恐ろしい。そして、いまや左大臣家の隆盛の立役者となったまひろだが、道長や彰子の寵愛を良しとしない周囲の妬みを確実に育てており、気づけば四面楚歌となりつつある。闇落ち寸前の清少納言もまひろ包囲網に加わるのだろうか。亡き皇后・定子への偏愛ともいえる強すぎる気持ちは、今後どの方向に向かうのか注目だ。

また、藤原公任(町田啓太)の有名なエピソードに町田さんのファンが沸き立った。「ついに公任さまの迷セリフがきた!」「酔いどれ公任さま、かわいい」「やっぱり公任さまとまひろちゃんは相性悪いね」「ひょっとして道長くんって公任くんにやきもち焼いたのかな」など、2週間ぶりの登場に若紫のエピソードがあいまって大きな注目が集まった。





(C)NHK

きょう29日に放送される第37回「波紋」では、中宮・彰子の要望で一条天皇に献上するために女房たちが、『源氏物語』の豪華本の作成を始める。そんな中、まひろは娘・藤原賢子(梨里花)から「母上なんか大嫌い!」と強い反発を受ける。以前とは違う空気をまとった清少納言との再会など、思いがけない展開が続く。次回は果たしてどのシーンが最も注目されるのか。

REVISIO 独自開発した人体認識センサー搭載の調査機器を一般家庭のテレビに設置し、「テレビの前にいる人は誰で、その人が画面をきちんと見ているか」がわかる視聴データを取得。広告主・広告会社・放送局など国内累計200社以上のクライアントに視聴分析サービスを提供している。本記事で使用した指標「注目度」は、テレビの前にいる人のうち、画面に視線を向けていた人の割合を表したもので、シーンにくぎづけになっている度合いを示す。 この著者の記事一覧はこちら