W杯最終予選の初戦で中国に7発大勝。日本が上々の白星スタートを切った。写真:梅月智史(サッカーダイジェスト写真部)

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[W杯最終予選]日本 7−0 中国/9月5日/埼玉スタジアム2002

 最終的に7−0という大差がついた日本の中国戦について、森保一監督は「選手たちがアジア最終予選の初戦の大切さと難しさを認識してくれて、そこで最善の準備をしてくれたことが、この結果につながった」と振り返った。

 勝利はもちろん、大量得点につながった要因としては、森保監督が「新しくやるというより、6月からの継続ということで、やってきたことを継続する。そのなかでコンディション等々、選手の状態を見ながら起用した」と語る3バックを効果的に活用しながら、中国を相手陣内に押し込めるサッカーができたこと。

 そのなかでセットプレーから狙い通りに早い時間帯で先制点を奪い、前半の終わりに追加点を奪うという流れを掴んだことが大きかった。

 3バックと言っても、全体のバランスや選手構成によって攻撃的にも守備的にもなるが、今回は三笘薫と堂安律という左右のウイングバックの組み合わせを見ても、攻撃的な意図が強く出る3バックだった。

 しかしながら守備では左の三笘が上がり目、右の堂安を下がり目にすることで4−4−2気味にプレッシャーをかけながら、ボールを握れば堂安が高い位置まで上がってインサイドの久保建英と絡んだり、時にはポジションを入れ替えるなど、中国の守備に混乱を与えた。
 
 左右の攻撃バランスとしては、基本的に左の三笘は外側で幅を取りながら、左センターバックの町田浩樹や左ボランチの守田英正から斜めのパスを受けて、縦にどんどん仕掛ける。右側は久保と堂安が流動的に組み立てる。そうした構図に左シャドーの南野拓実がどんどん間で動き回って、相手の嫌なところに入って行くという狙いが表われていた。

 久保の左CKから遠藤航がヘッドで決めた12分の先制点は、中国のマンツーマンの守備に対して、遠藤がファーからニアに動き出す時に、町田、南野、板倉滉の3人がうまく中国の動きをスクリーンして、遠藤のマーカーをブロックし、遠藤がフリーで久保のCKに合わせられるようにするというデザインが結果になったもの。

 その状況を作り出した一人である町田も「完全に航君をフリーにさせるために、僕と滉君が動いて。本当に練習通りだった」と語る。その町田によれば、仮に遠藤が触れなくても、その後ろで合わせられるように動き直していたということだ。

 筆者が気になったのは、そのCKに繋がった堂安の惜しいシュートに至る流れだ。

 3バック中央の谷口彰悟を起点に、右の板倉を経由して、右外に開いていた久保に斜めのボールが通るのだが、その時点で、右ウイングバックがスタートポジションの堂安はFWの上田綺世や南野と同じ高さで、ちょうど中国の左サイドバックと左センターバックの間に構えていた。そこから久保が左足でクロスを上げる間に、中央から南野がニアに、堂安がそのブラインドに入るような動きで、最後は堂安がヘッドで合わせる形になった。

 このシーンでも左の三笘は左外に開いて、ファーに抜けてきたボールを流し込むようなイメージを作っていたが、これに似た構図から、前半アディショナルタイムにその三笘によって、待望の2点目がもたらされた。

【画像】日本代表の中国戦出場16選手&監督の採点・寸評を一挙紹介。5人が最高評価の7点。MOMは3点に関与した20番
 CKによる1点目から追加点がもたらされるまでの35分間は、なかなか中国のゴールをこじ開けられないもどかしさがありながらも、日本は慌てることなく4バックの中国を揺さぶり、中に閉じれば外側、外に開けば内側と、意図的な攻撃を繰り出していた。

 相手のカウンターを許さない3バックと、背後に構えるGK鈴木彩艶を頼りに、全体を高くしながらボールを動かし、縦に入れるタイミングを図るのだが、いわゆる各駅停車になることなくライン間の選手に縦パスを入れて、前向きに仕掛けて行くという姿勢が中国のディフェンスにプレッシャーをかけ続けた。

 そのなかで、左サイドは三笘が外に張ってボールを受ければ、二人のディフェンスを引き連れて、なおも失わずに縦に運べるわけだが、それによって生じた内側のスペースで上田が左にスライドして縦パスを引き出したり、南野や守田が走り込んだ。

 その形から日本の2点目が生まれてもおかしくなかったが、そうしたチャンスが結果的に、三笘のゴールの布石となった。板倉から右に開くパスを受けた久保が二人のディフェンスを引き付けて、内側後方にポジションを取った堂安をフリーに。中国の対応が間に合う前に、堂安が素早く左足でボールを入れると、上田、南野、守田が構えるゴール前の中央を越えたところに三笘が走り込んで、ヘディングでGKワン・ダレイの逆を突いたのだ。

 3バックをベースとした左右非対称の攻撃、アクセントとなるインからの差し込む攻撃、そして右ウイングバックの堂安のクロスに、左ウイングバックの三笘が合わせて決める。
 
 セットプレーからの先制点も含めて、おそらく森保監督が描いた理想に近い前半だったと言える。こうした流れもあって、敵将のブランコ・イバンコビッチ監督はシステムを4−4−2から5−3−2に変更して、最終ラインのスペースを埋める対応を取らざるを得なくなった。

 それによって日本は3バックの町田や板倉が高い位置で前を向きやすくなり、そこから後半の早い時間帯に南野の2ゴールが生まれて、さらにアジアカップ以来の復帰戦となった伊東純也のゴールなど、大量7得点に繋がっていった。

 もちろん主力が欧州の最前線でプレーする日本と中国では個の能力にも差が見られたのは事実だが、チームとしての狙いの共有に個の力を上乗せしていく組織の強さは、前回の最終予選には明確に見られなかった。

 今回の3バックをベースとした攻撃は1つの成功体験となって、今後の戦いにもプラスになっていくはずだが、おそらく次のバーレーン戦ではまた別の形で相手を上回るものを見せてくれるのではないか。

 もちろん最終予選は何が起こるか分からず、油断は禁物だが、勝利の期待に加えて、現場で立ち会う筆者の目線でも、次は何を見せてくれるのかというワクワク感を隠せないものになってきている。

取材・文●河治良幸