三菱商事、三菱ふそうトラック・バス、三菱自動車工業の3社連合「イブニオン」が新しいプラットフォーマーになる

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eK クロスEVやアウトランダーPHEVなど、電動化車両に注力する三菱の「次の一手」を取材した(写真:三菱自動車工業)

なぜ、EVはなかなか普及が進まないのか?

その理由として、充電インフラ不足、充電時間の長さ、そして車両コストの高さと下取り価格の低さなどが指摘されて久しい。

こうした点については、国の支援事業や民間事業者の技術開発によって段階的に解消へ向かおうとしているところだ。しかし、EV普及の大きな課題は別にある。

それは、エネルギーマネージメントという大きな括りの中で「EVを使った持続的なビジネス」をどう構築するべきか、その答えがまだ見えていない点だ。

商事+トラック・バス+自動車の3社連合

その突破口となる可能性を秘めた企業が2024年6月に誕生し、9月から事業を開始する。

企業名は、イブニオン株式会社。イブニオン(EVNION)の名は、EV+UNION(団結、つながり)に由来する。

ロゴマークは、EVの「E」、電源プラグの形状、ブロックのように組み合わせる形態、成長を表現する「重なる」形、そしてサスティナビリティを表現する「木/葉」など、さまざまなイメージを融合させたものだ。


イブニオンのロゴマークに込める意味(画像:イブニオン)

イブニオンの事業実態と、今後の方針に向けた詳しい話を聞くために訪れたのは、神奈川県川崎市内の三菱ふそうトラック・バスの本社である。

イブニオンは、三菱商事(35%)、三菱ふそうトラック・バス(35%)、そして三菱自動車工業(30%)の3社が出資する合弁企業で、本社機能を三菱ふそうトラック・バスの本社・川崎製作所敷地内に置く。

出迎えてくれたのは、イブニオン代表取締役社長の窪田賢太氏と、取締役(営業推進・カスタマーソルーション担当)の五島賢司氏だ。

三菱商事には、EV向けリチウムイオン電池やエネルギーマネージメント、三菱ふそうトラック・バスには、EVトラック「eキャンター」、そして三菱自動車工業は「eKクロス EV」や各種PHEV(プラグインハイブリッド車)に関連する技術やノウハウを持つ。

そのうえで、3社が具体的にイブニオンへとつながる共同歩調を意識し始めたのは、3年ほど前からだという。

なお、三菱自動車工業には、別の機会に取材した博報堂との合弁企業でアウトドア関連事業を手掛ける「NOYAMA(ノヤマ)」もあり、イブニオンと新規事業戦略の両輪として動く。


右がイブニオン代表取締役社長の窪田賢太氏、左が取締役の五島賢司氏(筆者撮影)

では、イブニオンはどんなビジネスを展開するのか。事業の柱となるのは、オンラインプラットフォームの「イブニオン・プレイス」だ。

今はまだポータルサイトでも…

ページを見ると、EVや充電に関するポータルサイトという雰囲気。8月下旬の取材時点では、公開に向けた最終版になっていない状態だったが、窪田氏と五島氏からイブニオン・プレイスの使い方の説明を受けた。

ここでは、EVや充電に関する基礎知識のほか、自分が購入するEVモデルに応じて充電器や電力プランの概要が説明され、そのうえで設備工事事業者や電力会社からの見積もりへとつながる。

想定ユーザーは、乗用車所有の個人と商用車所有の事業者。特に商用車の場合、複数所有で充電設備工事の規模が大きくなることも考えられるため、イブニオンが事業者に対して「コンシェルジュ」としてコンサルティンサービスを行う。


イブニオン・プレイスの役割を占める模式図(画像:イブニオン)

こうしたEV関連情報の発信や設備工事事業者を紹介するサービスは、すでに電力供給会社やベンチャーの充電インフラサービス事業者が提供しているが、イブニオンとしては自動車販売店とのつながりを強化する。

筆者はこれまで、さまざまなブランドのEV販売現場を実際に見てきたが、「EV販売のための研修を受けても、まだまだ知見が足りない」と感じている担当者が少なくなかった。中でも、充電器そのものの技術や電力プランなどについては、専門事業者まかせになりがちだ。

EVは、見た目にはガソリン車やハイブリッド車といった従来のクルマと似ているが、家や電力系統とつながる分散型電源になり得るなど、商品として分類はまったく違う。

こうした中、ユーザーがワンストップサービスとして使えるイブニオンプレイス実用性は高いと思う。

とはいえ、イブニオンが単なるポータルサイトサービスだとすると、三菱のビッグネーム3社の合弁事業としては、正直なところ物足りない印象がある。

そこで「次の一手」を窪田社長に聞くと、可能性のひとつとしてVPP(バーチャル・パワープラント)の「リソース・アグリゲーター」という表現を使って教えてくれた。


取材時の様子。穏やかな表情の2人だが、鋭い視点で将来性を語る(筆者撮影)

「EVと社会をつなぐ」可能性

資源エネルギー庁によると、VPPは「仮想発電所」のこと。

火力、水力、原子力など従来型発電所によるエネルギー供給システムとは異なり、需要家側のエネルギーリソースを電力システムに活用する仕組みを指す。需要家とは、サービスを受けて利用する者、つまり家庭や企業だ。

アグリゲーターについては、「電力の需給バランスを調整する司令塔」と表現している。


VPPとアグリゲーターに関する説明(資源エネルギー庁資料より)

EV、エネファーム、定置用蓄電池など需要側の電源(リソース)を束ねて、需要家側と電力会社の間に立ち、エネルギーリソースを最大限に活用しながら、電力の需給バランスをコントロールする役目を果たす。それが、リソース・アグリゲーターである。

つまり、イブニオンは自動車メーカー、トラック・バスメーカー、同販売会社、電力会社、IT関連事業者、そして地方自治体などを結びあわせて、「EVと社会をつなぐ」可能性がある存在だと言える。

本来、世の中でEVシフトを進めるためには、イブニオンのような「社会の絆」のような存在がもっと早く生まれるべきだった。民間企業に頼るのではなく、産官学連携による協調領域になっても、おかしくはなかったはずだ。

だが実際には、自動車メーカーはハードウェアとしてのEVを製造し、自動車販売会社に卸売り販売し、そしてユーザーへ小売りするという、従来型の産業構造を維持したままである。


2024年5月の「ジャパントラックショー」に初出展したイブニオンの展示(筆者撮影)

販売の現場では、あたかもハードウェアのオプション設定のように、充電器や電力プランをユーザーに紹介するという流れになっているのが、実情だ。

自動車メーカーのホームページで、EVの製品紹介を見ても、充電器や設置工事に関する部分については、紹介先の企業のページへのリンクにとどまる場合が多い。

SDVの事業性を高める存在に

最近では、自動車メーカーはSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)と称して、データを活用するハードウェアと、それを活用したサービス事業の構築という「未来図」を将来事業の中核事案として提示することが増えた。

SDVとは、車載の通信機能を使って、車両の機能のアップデートができるものである。スマホやパソコンのソフトウェアアップデートやアプリインストールのようなものだ。

つまり、SDVのキモは、新車販売後の「新たなる収益」にある。一方、その具体案はなかなか見えてこない。


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そんな中で、EVを切り口にSDVの事業性を高める可能性を持つイブニオンには、すでに共同出資社以外の多方面と「連携を模索している」(窪田社長)という。

一見、EVサービスのポータルサイトに見えるイブニオン(プレイス)だが、その事業実態はかなり奥が深く、いわゆるデファクトスタンダード(事実上の標準化)に成り得る。「最初の一手」の動向を見守りながら、「次の一手」を期待したい可能性のある事業だと思う。

(桃田 健史 : ジャーナリスト)