オスが「浮気」するのは自然の摂理? 子孫を残すための戦略が男女で異なる、驚きの理由とは【和田秀樹×池田清彦】
パートナーがいるにもかかわらず好みの女性に心奪われ、「老いらくの恋」にハマってしまう――そんな男性は「スケベじじい」などと非難されがちだが、生物学的にみれば、ごく自然な行動なのだという。一方、シニア女性にも、確実に子孫を残すための「戦略」があるそうで……。メディアでおなじみ、和田秀樹さん(医師)と池田清彦さん(生物学者)に話を聞いた。
※本記事は、和田秀樹氏、池田清彦氏による対談『オスの本懐』(新潮新書)より一部を抜粋・再編集し、全2回にわたってお届けします。
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男の「老いらくの恋」は自然なこと
和田秀樹(以下、和田) 人間は「死ぬまでに……」と思うことがいくつかあって、その一つが恋でしょうか。人生の終末期に差しかかって恋愛に夢中になったり、子や孫ほども年の離れた女性のとりこになってしまったりする人もいる。こういう「老いらくの恋」についてはどう思いますか?
池田清彦(以下、池田) 老いらくの恋は、生物学的な観点でいえばオスにとっては全然アリ。というか、むしろごく自然なことだね。
個人差はあるけど、男の場合は高齢になってもけっこう性的な能力があって子孫も残せるから、ピカソは10人の愛人と4人の子どもがいて、最後の子ができたのは68歳、80歳の時には34歳の女性と再婚している。『昆虫記』で有名なファーブルも72歳で子どもができて、91歳まで生きている。
和田 いつまでも子孫を残せることが、「オスの本懐」なんでしょうか。
池田 このご時世、こんなこというと怒られるだろうけど、自分の遺伝子を残すという意味ではそうだね。いくつになっても女の尻を追っかけ回してる、それがオスとしてはあるべき姿かもしれない。
孫をうんと可愛がる……女性の「おばあさん仮説」
和田 女性だって何歳になっても性を楽しむべきだと思いますが、自分の遺伝子を残すということではタイムリミットがある。遅かれ早かれ閉経を迎えますから。
池田 そこで女性が何をするかというと、孫をうんと可愛がる。孫には自分の遺伝子が4分の1は入っているはずで、その子たちを手塩に掛けて育てることで自分の遺伝子を確実に後世に残そうとしているのでは――これが、いわゆる「おばあさん仮説」だね。
和田 なるほど。一方、男の場合は、どんなに歳をとっても年下の女性との間に子どもをつくれば自分の遺伝子を2分の1は残すことができます。
池田 だから、歳をとると男のほうが女性より有利と思われがちなんだ。女性は閉経すれば自分の遺伝子の2分の1を残すことはできない。そこで4分の1の遺伝子を引き継ぐ孫に愛情を注ぐわけ。
でも、男はいくつになっても女性に子どもを産んでもらえば自分の遺伝子の2分の1を残すことができる――じいさんが若い女性を追いかけるという現象も生物学的には正当化できるという話でね。ただし、自分が子どもの父親だと信じ込んでいても、2分の1どころか1パーセントも遺伝子が残っていない可能性もある。真実は神と母親のみぞ知る、ということだ。
和田 そういうこともあるから、人の世は面白いのかもしれません……。
サル界でモテるのは「年上、子持ち」のメス
和田 「おばあさん仮説」というのは、他の動物にも当てはまる話ですか?
池田 微妙な質問ですね。野生動物が人間と大きく違うのが寿命だね。ほとんどの動物は閉経や性的能力がなくなると同時に寿命を迎えるから、孫を可愛がる行動などない。
ただ、ゾウやイルカなどの長生きする動物については意見が分かれている。かつて「イルカは孫を可愛がる」という説があったけど、最近の論文では否定されているようだ。
和田 確かに、孫を可愛がる動物なんて聞いたことがありません。
池田 いずれにしても自分の遺伝子を残すという観点でみると、動物のオスとメスではかなり戦略が違っていて、その点では人間も同様だということ。
もちろんその動物に特有の特徴もあって、たとえば人間の世界だと「中年、バツイチ、子持ち」の女性は若い男性からは敬遠されがちな印象があるでしょ?
和田 「熟女好き」の男性もいますが、一般的にはそうですね。子どもが懐いてくれるかどうかわからないし、若い男性からすれば同世代の女性と付き合ったほうがいいと。
池田 それがサルの世界では逆で、「子持ちで年上」のメスがモテるの。子どもを産んだ経験のあるメスは次もちゃんと産める可能性が高いとみなされる。おまけに子育ての実績もあるので、オスにしてみれば、自分の遺伝子を残せる可能性が高い相手として惹かれるわけです。
和田 なるほど、合理的ですね。
池田 だから今の日本社会にある「若い女性ほどモテる」という風潮は、生物学的には理屈に合わないし、あくまで文化的なものにすぎない。若ければ若いほどいいという価値観の人が多いから、若い女にモテて、若い女と付き合うことが男のステータスになる。単純にいうと、周りに自慢できるというだけのことだね。
でも、僕が50代後半の頃か、泊まりがけのフォーラムに仲間の大学教授が女子大生みたいな若い娘を連れてきて「新しいパートナーです」って周囲に紹介したら、みんな羨ましがるよりも「あいつ、どうかしたのか」という感じで、そう自慢できるものでもなかったよ。
第1回〈老いては煩悩に従え!「不倫バッシング」で日本が衰退するワケ〉ではタテマエばかりが横行する令和ニッポンを憂える医師×生物学者が「オスらしい感性」の重要性について語り尽くしている。
※新潮新書『オスの本懐』より一部抜粋・再編集。
デイリー新潮編集部