「規模ありき」で防衛費が膨らんでよいのか。国民に新たな負担を強いる以上、予算要求を厳格に査定すべきだ。

 防衛省は2025年度予算の概算要求で、過去最大の約8兆5千億円を計上した。27年度までの5年間で防衛費総額を43兆円まで増やす計画の3年目に当たり、初めて8兆円を超えた。

 他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)の整備に重点を置いたのが特徴だ。敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ防衛能力」に9700億円を充て、長射程ミサイルの配備も始める。

 米国製の巡航ミサイル「トマホーク」は予定よりも1年前倒しして取得する。長崎県佐世保市を母港とする海上自衛隊のイージス艦「ちょうかい」に発射機能を持たせ、他のイージス艦も順次改修する方針だ。

 有事に自衛隊などが使用する特定利用空港・港湾は、熊本県3カ所、鹿児島県8カ所を追加し、空港施設や岸壁などを整備する。

 中国の海洋進出や領空侵犯が確認される中で、日本の防衛力強化の南西シフトが一層進む。関連施設は有事に攻撃目標となる恐れがあり、地元には不安もあるだろう。

 そもそも、これほど多額の予算要求は妥当なのか。23年度の防衛省予算は使い切れなかった不用額が約1300億円もある。

 25年度一般会計の概算要求総額は過去最高の117兆円超となった。利上げを受け、国債費は24年度予算を2兆円近く上回る。日本の財政に余裕はない。

 既定の金額を前提に使い道を考えるのではなく、必要な予算を積み上げる概算要求であるべきだ。多額の使い残しがあるようでは、予算査定の甘さが疑われる。

 防衛費を賄う増税の時期の決定を先送りしているため、財源も不確かなままだ。

 それでも政府、与党からはさらなる増額を求める声がある。「5年間で43兆円」を打ち出して以降、円安が進み、原材料価格などが高騰した影響が大きい。無原則な増額は慎むべきだ。

 概算要求には自衛官の任用時の一時金を2倍強の50万円に増やし、隊舎を個室にするなど処遇改善の費用も含まれている。23年度の採用が計画の半数程度の約1万人にとどまり、自衛隊の人員不足が深刻になっているためだ。

 人材を確保するには組織の信頼回復が欠かせない。

 防衛省、自衛隊ではパワハラやセクハラ、潜水手当の不正受給、特定秘密のずさんな取り扱いなどの不祥事が相次ぐ。海自の潜水艦乗組員が川崎重工業から金品の提供を受けた疑惑もある。

 再発防止を徹底し、組織が生まれ変わった姿を示さなくてはならない。規律が緩んだままでは、膨張を続ける防衛予算に対する国民の理解も得られまい。