第16戦イタリアGP決勝を「たったの7周」で終えた角田裕毅(RB)は、苛立ちを隠そうともしなかった。

「何秒加算かわかりませんけど、いずれにしても(危険なドライビングに対する)ペナルティポイントが科されるべきだと思います。僕らはハースとランキング争いをしているので。今はまだ頭がカッカしているので、そういうことを話すべきではないと思いますけど」

 ターン1で強引にインに飛び込んできたハースのニコ・ヒュルケンベルグに激しく衝突され、フロアやサイドポッドは大きなダメージを負ってしまい、それ以上の走行は不可能だった。


角田裕毅のイタリアGPはたった7周で終えることになった photo by BOOZY

 チームCEOのピーター・バイエルは、次のように説明する。

「本当に不必要なクラッシュでフロアが壊れて、リタイアを余儀なくされてしまった。完全に壊れてバラバラになってしまっていたよ。まったくもって、走り続けることは不可能だった。裕毅にとっては最初から最後までひどいレース週末になってしまった」

 この週末、角田のマシンには新型フロアが搭載されていた。

 第10戦スペインGPで投入するも失敗に終わったフロアから学び、対策を施したアップデートだ。データ上の数値もシミュレーターでの感触もよく、角田はこの新型フロアに大きな期待を寄せていた。

 しかし、マシンはFP1から挙動が極めてナーバスで、回頭性は高いものの敏感すぎるうえに、マシンバランスも従来とは大きく変わってしまった。

「正直に言って、今週末に向けてはこのアップグレードがあったので期待値も高かった。それが機能してくれなかったので......。週末を通してずっと、課題点を改善しようと努力し続けたものの、うまくいかなくてスライドしてばかりでした。僕がうまく対処できなかっただけかもしれませんけど、これ以上、速く走ることはできませんでした」

 予選でまさかの16位Q1敗退となり、角田のフラストレーションは爆発してしまった。

「(フロアが)機能していない、ものすごくドライブしづらいんだ。こんなの本当に馬鹿げているよ」

【1ストップ作戦で走りきる予定だった】

 金曜の走行データからダウンフォースが出ていることは事実で、エンジニアたちはそれを使いこなすべく、セットアップを修正して予選・決勝に臨んでいた。しかし、ドライバーの感覚としては「このフロアは使いこなせない」という思いがあったのだろう。その予想どおりの結果になってしまったからこその苛立ちだった。

「機能しているのか機能していないのかわからないですけど、機能していたらこの順位では終わっていないと思うので、ちゃんと理解を深める必要があるかなと思います」

 旧型フロアを使う僚友ダニエル・リカルドから0.044秒差。しかし、コーナーの多いセクター2では角田のほうが0.021秒速かった。これをどう見るかだ。


角田裕毅が入賞に食い込む可能性は低かったものの... photo by BOOZY

 それをさらに詳しく理解するためにも、決勝でしっかりとデータを収集して次につなげよう──そう気持ちを切り替えて臨んだ決勝だった。

 新舗装されたモンツァ・サーキットで、タイヤがどのような傾向を示すのか。まったくの未知数のなかでスタートしたレースは、定石の1ストップ作戦では走りきれず、2ストップ作戦に切り替えるドライバーが続出した。

 そんななか、角田はライバルとは逆のハードタイヤでスタートし、得意のタイヤマネージメントでポジションを上げるべく好走を見せていた。しかし、5周目のターン1でヒュルケンベルグに接触されてしまった。

 入賞の可能性は低かったとはいえ、それよりも痛かったのは、新型フロアのデータを収集できなかったことだ。

「スタートは悪くなかったですね。タイヤはわりと保たせてはいましたし、できるだけ引っ張って1ストップ作戦で走りきろうと考えていました。ポイントが獲れたかどうかはわかりませんけど、今回は特にフロアの効果を確かめたかったレースだったので、そういう意味で(リタイアを余儀なくされたことによる)損失は大きいかなと思います」

 バイエルCEOも同じように、決勝でデータ収集ができなかった痛手を悔やむ。新型フロアの可否を確認することが今後の開発の方向性を左右するだけに、チームとしてもその作業に集中しなければならないと語った。

「今日はレース全体を通して走行することで、この新型フロアでのレースペースを見てさらに分析ができるはずだった。ダウンフォース自体が発生しているのは間違いない。しかし、マシンバランスにどのような影響を与えている(ためラップタイムに繋がっていない)のかを詳しく理解する必要がある。フリー走行と予選のデータはあるから、これからのそのデータを分析して理解を深めることになる。宿題が山積みだよ」

【開発の方向性を再び見失うことになる?】

 フロア自体はダウンフォースを生み出しているものの、マシン挙動がピーキーでは、ドライバーはそのダウンフォースを最大限に生かすことができない。限界ギリギリで走るマシンから突然ダウンフォースが抜ければマシンはコントロールを失うわけで、突然失われる可能性があるダウンフォースはあるものとして、信頼して扱うことはできないからだ。

 今年のモンツァは新舗装によって路面自体がピーキーで、苦戦するドライバーも多かった。それに加えて、通常とは異なる極端なロードラッグ仕様の前後ウイングを装着し、マシン全体のダウンフォース量は少ない。

 こうしたイレギュラーな環境のなかで、新型フロアの本来の性能を引き出せなかった可能性もある。それをこれからのデータ分析で徹底的に理解しなければならないが、だからこそ決勝の53周にわたるデータが失われてしまった損害は大きい。

 これはフロアひとつの問題ではなく、今後のマシン開発全体の方向性を左右する大きな問題だ。セットアップやフロア自体の微調整で想定どおりの効果を発揮させられるならいいが、新型フロアが不発だとすれば、チームは今後に向けた開発の方向性を再び見失うことになる。

 RBは今シーズン残り8戦、そしてその延長線上で戦う2025年に向けて、極めて大きな分水嶺に立っていることになる。