宇宙を構成する「正体不明のもの」とは?(写真:Fotomaximum/PIXTA)

「小惑星探査」や「火星移住」などのニュースから、UFO、宇宙人の話題まで、私たちの好奇心を刺激する「宇宙」。だが、興味はあるものの「学ぶハードルが高い」と思う人も少なくない。

知らなくても困らない知識ではあるが、「ブラックホールの正体は何なのか」「宇宙人は存在するのか」など、現代科学でも未解決の「不思議」や「謎」は多く、知れば知るほど知的好奇心が膨らむ世界でもある。また、知見を得ることで視野が広がり、ものの見方が大きく変わることも大きな魅力だろう。

そんな宇宙の知識を誰でもわかるように「基本」を押さえながら、やさしく解説したのが、井筒智彦氏の著書『東大宇宙博士が教える やわらか宇宙講座』だ。「会話形式でわかりやすい」「親子で学べる」と井筒氏が行うイベントでも読者からの言葉が届いている。

その井筒氏が「宇宙を構成する正体不明のもの」について解説する。

私たちが知っている宇宙はたった「5%」

私たちが考える「ふつう」、じつはこれが「非常識」でマイノリティな立場かもしれない--そう考えたことはありますか?

なぜこんなことを言い出したのか。それを説明するために、まずは宇宙の「中身」の内訳について話したいと思います。

宇宙の「中身」の内訳
ふつうの物質5%
正体不明の物質(ダークマター)26%
正体不明のエネルギー(ダークエネルギー)69%


ここでいう「ふつうの物質」とは、私たちの身の回りにあるもの(たとえば、本、食べ物、生き物)や、宇宙にある天体を指します。

なんと、一見膨大に見えるこれらすべてをひっくるめても、「宇宙全体のたった5%にすぎない」のです。

そして、宇宙全体の69%は正体不明のエネルギー「ダークエネルギー」で、26%は正体不明の物質「ダークマター」。

つまり、「宇宙の95%は正体不明」なのです。


「宇宙の正体」はほぼわからない!(画像:『東大宇宙博士が教える やわらか宇宙講座』より)

私たちが知っていることは、宇宙全体から見ればほんの一部に過ぎなかったのです。

人間はつい、自分の身の回りにあるものを「ふつう」とか「常識」だと思ってしまいますよね。

しかし、宇宙の内訳からわかるように、私たちが一般的に常識だと思っていることは、必ずしも正しいとは限らないのです。

こんなふうに凝り固まった常識をひっくり返してくれるところが、宇宙の魅力のひとつでもあります。

星や銀河の生みの親「ダークマター」

謎の物質「ダークマター」と謎のエネルギー「ダークエネルギー」は、正体不明ではあるものの、その性質や役割についてわかっていることがあります。

宇宙には多種多様な銀河があります。銀河に含まれる恒星の数、銀河の形や活動性には、いろいろな違いがありますが、どの銀河にも共通したことがあります。

それは、銀河全体には、目に見えない正体不明の物質がまとわりついているということ。この物質が「ダークマター(暗黒物質)」と呼ばれるものです。なんだか、悪役の名前みたいな正体不明のモノがまとわりついているだなんて、不気味ですよね……。

ほとんどの銀河は、巨大なダークマターのかたまりに包まれています。

じつは、天の川銀河もほかの銀河も、ダークマターに包まれ、そのダークマターの重力のおかげで、星々がバラバラにならずに形を保っていられるのです。

それだけでなく、ダークマターは星や銀河の誕生にも関わっています。

ダークマターは、まだ星がないころ、宇宙のあちこちに漂っていました。ダークマターは時間をかけて少しずつ集まっていき、宇宙誕生から約1億〜2億年後、ダークマターのかたまりができます。

そのかたまりの重力にガスが引き寄せられ、宇宙で最初の恒星「ファーストスター(初代星)」が誕生したのです。こうした星が次々と集まって、銀河ができました。

ダークマターのかたまりはさらに成長して巨大な密集地となり、そこを土台にして、銀河団、超銀河団、宇宙の大規模構造がつくられていきました。

星や銀河に限らず、宇宙に形あるものをつくったのは、ダークマターだったのです。

ダークマターには「星や銀河の生みの親」という重要な役割があるにもかかわらず、その正体はまだ突き止められていません。ただ、3つの特徴があることがわかっています。

ダークマターの3つの特徴
1「見えない」
2「触れない(すり抜ける)」
3「重力(質量)はある」

ダークマターは光(電磁波)を出さないので、「見えない」。それだけでなく「触れない(すり抜ける)」。しかし「重力(質量)はある」ため、まわりの物体の動きに影響を与える。

まるで透明人間みたいです。そんなつかみどころのないモノの重力にがっしりとつかまれてきたおかげで、今の宇宙があるなんて、不思議ですよね。

ダークマターの候補として「未発見の素粒子」がいくつか挙げられていて、なんとかしてそれをつかまえようと世界中で研究が進められています。

ある日突然、「ダークマターをつかまえた! 正体が判明した!」というニュースが飛び込んでくるかもしれません。

ダークマターの正体を解き明かした人には、ノーベル賞が贈られるのは確実でしょう。

「ダークエネルギー」が宇宙を破壊する!?

宇宙は138億年前の「ビッグバン」とともに始まってから、現在に至るまで、休むことなくグングン膨らみ続けています(ビッグバンについては、また後日お話ししますね)。

この記事を読み始めたときから、このページにたどり着くまでも、膨らんでいるのです。いやぁ、不思議ですよね。

じつは、この宇宙の膨張は、時代とともに次第にゆるやかになっていると予想されていました。なぜなら、宇宙に存在する物質は、重力によって引っ張り合うので、膨張にブレーキをかけるからです。

そこで、膨張の仕方がどのように遅くなっているのかを調べる研究が行われました。すると、驚くべきことが明らかになったのです。

なんと、宇宙の膨張は、減速するどころか加速していました! ブレーキを踏んでいると思いきや、アクセルを踏んでいたのです。

なぜなのか理由はわかっておらず、重力に対抗して「宇宙空間を広げようとするエネルギー」が存在すると解釈するしかありません。謎に包まれていることから「ダークエネルギー」と名前が付けられただけで、正体はまるでわかっていないのです。

ダークエネルギーの正体を解き明かした人もまた、間違いなくノーベル賞を受賞することでしょう。

ダークマターは、その重力によって星や銀河を生むきっかけとなりました。

一方、ダークエネルギーは、「引き寄せる力(重力)」とは反対の「引き離す力(斥力)」を生むので、星や銀河を破壊する恐れがあります。それだけではなく、宇宙自体を終わらせてしまうかもしれません。

宇宙の命運は、ダークエネルギーに握られています。だからこそ、その正体を解き明かす必要があるのです。

宇宙の長い歴史でいうと、少し前は「物質の時代」でした。正体不明の物質「ダークマター」とふつうの物質が宇宙を占領し、カオスな状態から星や銀河が生み出されていきました。

現代は「ダークエネルギーの時代」です。

宇宙が誕生して約100億年後(現在から約40億年前)、物質に代わって「ダークエネルギー」が主役に躍り出たのです。ダークエネルギーは、重力を凌駕しながら宇宙の膨張を加速させています。

ダークエネルギーの時代に終わりは見えず、この先ずっと続くと考えられています。

もしかしたら、ダークエネルギーに支配されたまま、宇宙自体が終わりを迎えるかもしれません……。

宇宙の創造に関わる「ダークマター」と、宇宙の破壊に関わる「ダークエネルギー」。これらの謎を解くことは、宇宙科学においてはもちろん、人類のルーツと未来を知る上でも、とても重要な課題なのです。

宇宙はわからないからこそ、おもしろい!

宇宙はまだまだ謎だらけ。それにしても、これだけ科学が進歩しているなかで、まさか宇宙についてわかっているものがたった5%しかないとは驚きですよね。

ですが、漠然と「ぜんぜんわからない」というわけではなく、「95%はわからない」ということがわかっています。「5%」「26%」「69%」と具体的に数値が出ていること自体が、じつはすごいことなのです。

何がどこまでわからないのかを正しく知ること。「わからなさの解像度」をあげていくことが、わかるための着実な一歩になります。

ただ、現実的には、ここから先、ほんの少し歩みを進めるだけでも多くの苦労が待ち受けています。研究者は日々頭を悩ませ、時には仲間と力を合わせ、時には何世代にもわたりながら、謎の解明を目指しています。

そこに宇宙がある限り、そこに謎が残る限り、人類の探求は続いていきます。

どんなに難しくても、諦めることなく科学の力で「謎に挑む」研究者って、すごいですよね。ただ、研究者が明かしたことを「好奇心を持って学ぶ」こともとても価値のあることです。

学ぶと世界が広がり、世界が広がるとものの見方が変わります。

宇宙は謎だらけだからこそ、好奇心を刺激し、私たちを新しい世界へと連れて行ってくれるのです。

わからないからこそおもしろい宇宙を、もっともっと楽しんでいきましょう。

(井筒 智彦 : 宇宙博士、東京大学 博士号(理学))