日本の若者に向けて「人生100年時代」にどう生きるかを伝えるリンダ・グラットン氏(画像提供:「五島、ひと夏の大学」)

人生100年時代の新しい生き方を提唱しベストセラーとなった『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』の著者リンダ・グラットン氏が、7月6日に長崎県五島市で行われた「五島、ひと夏の大学」にビデオ登壇。『16歳からのライフ・シフト』で示した内容をもとに、日本の若者に向けて「いまから準備すべきこと」を語った。

100年時代の人生設計はどう変わるのか。学生や若者が手にすべき知識や技術はどういったものなのか。前編・後編に分けてお伝えする。

「60歳で仕事を辞める」選択肢はなくなる

今日は16歳の人たちに向かってわかりやすく話をしたいと思います。まず、わかっていることは、みなさんの寿命はいまよりもっと長くなるということです。人間の寿命は10年ごとに2年ずつのびています。つまり、若い人ほど長生きするのです。


寿命が長くなると、生き方も変わります。ご祖父母やご両親の生き方は、みなさんにとってあまり参考にならなくなるでしょう。たとえば私の父の人生は、「ひたすら学ぶ時期」「ひたすら働く時期」「リタイア後の時期」の3つのステージで構成されていました。彼は20歳で働き始め、60歳でリタイアし、60代後半で他界しました。

けれども、 いま学生のみなさんに、私の父のような生き方は通用しません。あなたが100歳まで、もしくはそれ以上生きるとしたら、60歳で働くことをやめるわけにいかないからです。

それは経済的な理由だけではありません。もちろん稼ぎ続けることも重要ですが、人生を充実させるために、仕事はひとつの重要な要素になるからです。新しいスキルを学んだり、新しい友人を作ったり。仕事は自己成長のために挑戦する場になりえます。その充実感を持って生きるためにも、私たちは70歳から80歳まで働く必要があります。

80歳まで働く? そう聞くと、不安になるでしょうか。そんな人生、無理だと思う人もいるかもしれません。

ここからは、長い人生に備えるアイデアを紹介しましょう。

最初に選んだ道を歩き続けなくていい

まず、イメージしてみてください。

未来はまっすぐな一本道ではなく、たくさんの道があります。あなたの前には、たくさんの可能性があるのです。 今日話したいのはあなたの目の前にある長い未来についてです。

1つ目は不安についてのアドバイスです。

誰しも不安を抱えています。大学で何を専攻するか、就職活動がうまくいくかなど、将来を不安に感じることもあるかもしれません。でも、100年時代の人生では軌道修正のチャンスがたくさんあります。

これは大きな希望です。たとえ最初に選んだ道がうまくいかなかったとしても、ほかにさまざまな選択肢があり別の道に進むことができることを知っておいてください。

2つ目のアドバイスは、自分の可能性を広げることについてです。

私自身の経験を振り返ると、15〜18歳の頃にたくさんのことを学びました。私は大学に進学する前からいろんなアルバイトをしました。レストラン、工場、新聞配達などで働きました。

どの仕事においても、人とのコミュニケーションを学び、それぞれの現場で必要な機械の使い方などを知りました。すべての仕事に学びがありました。みなさんもぜひ、さまざまな仕事を経験し、自分の可能性を広げてください。

私が伝えたいのは、「うまくやらなくてはいけない」と心配しすぎないことです。とにかくやってみること。自分にどんな可能性があるのかたくさん考えてみてください。

若い時は長い人生を見通すのは難しいでしょう。そこで提案したいのは、鳥のように空から人生を見渡すイメージをもつことです。現在から人生の終わりまで、90歳から100歳までを見渡してみましょう。すると時間はたっぷりあることがわかります。たくさんの時間があれば、想像以上にいろいろなことができます。

日本ではとくに「失敗してはいけない」「正しい仕事を選ばなければならない」と思いがちです。だから、私のアドバイスは、まずはとにかく働いてみること、もっと重要なのはそこで学ぶことです。そうすれば多くのチャンスが訪れるでしょう。とくに何について学べばいいかは、後編で説明します。

マルチステージ、ルートもたくさんある人生

冒頭で、私の父の人生について話しました。その世代の多くの人たちにとって、人生は「ひたすら学ぶ時期」「ひたすら働く時期」「リタイア後の時期」の3ステージでした。そして、みなさんの人生はそうならないともお話ししました。それはどういうことか説明しましょう。

みなさんの人生には3つよりも多くのステージがあります。マルチステージです。会社勤めをする人、自営業をする人、大学に入り直して学ぶ人、休みをとって世界を旅する人もいるでしょう。有給の仕事と無給の仕事をいったりきたりするかもしれません。

そしてどのステージにも複数の選択肢があります。1つのステージにはルート1もルート2もあるし、どれを選んでも新しいことを学べます。あなたの目の前にはチャンスがあふれています。


(出所:『16歳からのライフ・シフト』)

両親や祖父母の世代は、1つの会社を勤め上げた人がほとんどではないでしょうか。けれども、今後は1つの会社ではなく、いろんな仕事をする人のほうが多くなります。独立して働くフリーランサーがもっと増えると考えられています。アメリカではいま、若者の50%が自営業者になりたいと言っています。

複数の会社で働くことも、独立することも、みなさんは叶えることができます。だから長く生きるのは素晴らしいのです。私は、おそらく私よりも長生きで、そしてたくさんのステージを経験できるみなさんをうらやましいと感じます。

いまの時代は、女性も仕事を持つようになりました。将来は、家族の形ももっと多様になります。

2人ともキャリアを持つカップルもいるでしょう。パートナーのどちらかがキャリアを持ち、もう1人が家で家族の世話をする場合もあるでしょう。いくつかの国では女性がキャリアを持ち、男性が家で家族の世話をするのが一般的です。あるいは、同性のカップルが仕事をすることもあるでしょう。

つまりみなさんは多様な生き方ができるのです。幸せになる方法がたくさんあります。

チャレンジを支える無形資産

ただし、そのようなマルチステージの人生を楽しむためには、目に見える有形資産だけではなく、無形資産が重要になってきます。ここでいう無形資産とは、たとえば、健康・家族・友人などを指します。

もしあなたのとなりに70歳の人がいて、若いあなたの何が一番うらやましいかと聞くと健康と答えるでしょう。70歳まで働くとしたら、健康でなければ大変なことです。

長く生きるのであれば貯蓄が重要だと思うかもしれません。私も最初はそう思っていました。でも、70代まで仕事をするならお金は稼ぎ続けられます。8時間の睡眠をとること、健康的な食生活をすること、毎日1万歩歩くこと。100年人生を乗り切るバイタリティを手に入れましょう。

健康だけではありません。長い人生では、家族や友人の存在も重要です。私は10歳のとき、シャーリーという友達ができました。彼女とはいまでも親友です。60年来のつきあいになるわけです。友情は人生に大きな喜びをもたらします。想像できますか? いまの友達が70歳になっても友達かもしれないと考えてみてください。

日本ではすでに高齢化が話題になっていますが、実は欧米ではそうでもありません。みなさんのような若い人たちが高齢化について真剣に考えていることは、世界の注目を集めています。人生100年時代において、日本は世界各国の輝けるお手本なのです。いまから、100年時代を意識して準備を進めていきましょう。

(構成:佐藤友美)

(後編に続く)


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(リンダ・グラットン : ロンドン・ビジネス・スクール経営学教授)