ホンダ「ZR-V」隠れた人気SUVの発売1年通信簿
2023年4月21日に発売されたホンダのSUV「ZR-V」(写真:本田技研工業)
本田技研工業(以下、ホンダ)は、2023年4月に、新たなSUV(スポーツ多目的車)となる「ZR-V」を発売した。ホンダの人気SUVである「ヴェゼル」と比べ、車格がひとつ上といえる位置づけになるモデルだ。
CR-Vの穴を埋める形で登場したZR-V
ホンダを代表するSUVとして、かつて「CR-V」があった。初代CR-Vは、初代「オデッセイ」誕生の翌年となる1995年に登場し、オデッセイや「ステップワゴン」「S-MX」などとともに、クリエイティブ・ムーバーの一員として、1990年代初頭に苦境にあったホンダを一気に蘇らせたSUVだった。
しかし、その後、主力市場となるアメリカ向けといえる大柄な車格となり、国内への販売を止めたり、途中で再開したりするなど、人気を定着できず、忘れられがちなSUVとなっていた。
そうしたCR-Vの穴を埋めるSUVとして登場したのがZR-Vである。
国内では、初代〜2代目のCR-Vに近く、手頃なSUVとしてヴェゼルが人気を得ている。だが、輸入SUVなど大柄な車種が国内でも増える市場環境となり、ヴェゼルより格上となるSUVがホンダの駒として必要になったといえるだろう。
ZR-Vの魅力は、異彩を放ち存在感のある外観と、爽快かつ快適な走りである。
2024年上半期(1月〜6月)の販売台数が4万4164台(日本自動車販売協会連合会調べ)となり、2024年上半期SUV新車販売台数1位となったホンダのヴェゼル(写真:本田技研工業)
人気のヴェゼルが、一見グリルレス風の顔つきであるのに比べ、ZR-Vは、縦の格子をはっきり見せるグリルによって、強い存在感をもたらしている。ラジエーターグリルを明確にする傾向は、ヴェゼルより小柄な「WR-V」でも引用され、それによってヴェゼルの独自性も改めて明らかになるという効果が生まれている。顧客層の違いを互いに補うことにもなっているはずだ。
上質さが際立つ乗り心地
ZR-Vのスタイリング(写真:本田技研工業)
ZR-Vに乗って印象的だったのは、ハイブリッド車(HV)での静粛性と上質な乗り心地である。ヴェゼルも心地よいSUVだが、ZR-Vは上級車種という感触で上まわる。着座したときの目線がSUVにありがちな高い印象ではなく、セダンとまで低くないまでも、気持ちを落ちつかせる安心感をもたらす。フィット以来のホンダ車共通といえる、平らな造形のダッシュボードによる視界のよさも効いている。
ZR-Vのインテリア(写真:本田技研工業)
後席も、きちんと座れる座席のつくりと空間のゆとりがあり、長距離移動も快適だろう。
走行中の乗り心地は、欧州車のようなしっかりとした手ごたえがありながら、路面の変化を適切に吸収し、体に衝撃を伝えない。爽快かつ快適な走りという開発目標が的確に結実されている。ヴェゼルよりあとからの市場導入により、熟成度を増す時間の余裕が、上級車種らしい味わいをもたらしているのではないか。
ZR-Vのリアビュー(写真:本田技研工業)
昨年4月に発売されてからのZR-Vの販売動向は、爆発的というわけにはいかなかったようだ。それでも10月には乗用車販売の19位に上昇し、11〜12月は20位ということで、徐々に台数を伸ばしながら堅調な様子だ。当初の販売動向については、当時の半導体など部品供給の問題もあったかもしれない。昨年の1〜3月はまだ登場前であったが、2023年1〜12月の年間統計で31位、2万1168台という販売実績であった。
年が明け、今年の1〜6月には18位となって、この半年の販売台数は2万3333台となり、すでに昨年1年間(実質8カ月)の台数を上まわっている。
ZR-Vの競合であり、根強い人気を誇るトヨタのハリアー(写真:トヨタ自動車)
ZR-Vの競合となるSUVは、トヨタの「ハリアー」や「RAV4」、マツダの「CX-5」あたりになるのではないか。
それらと比較してみると、さすがにハリアーは強く、今年1〜6月の台数は3万5294台で10位にいる。一方、RAV4は1万6232台で24位、マツダCX-5は8746台で34位である。ただし、RAV4とCX-5は、モデルチェンジから6〜7年を経ており、新鮮味という点で、新車購入における動機づけで不利な面があると考えられる。
では、このZR-Vの現況を、どう考えるか。
ヴェゼルに次ぐ、ホンダ2番手のSUVに成長
ZR-Vのラゲージスペース(写真:本田技研工業)
ホンダのSUVでは、ヴェゼルの人気が高い水準で維持されており、今年1〜6月の販売ではホンダ車で最上位の5位につけ、4万4164台を売った。同期間の1位はトヨタの「カローラ」で、これには「カローラクロス」と「カローラフィールダー」も含まれるはずで、その内訳は手もとにないが、SUVのみの販売台数で5位というヴェゼルの順位は、健闘しているといえるのではないか。
そうしたSUV人気が続くなか、ハリアーは別格としても、ベスト20以内に入っているZR-Vは、堅調といってよい気がする。
また、ZR-Vのあとから登場したホンダWR-Vが、7月単月でZR-Vの18位に次いで22位につけ、RAV4に迫る台数となっている。そうした様子からしても、ホンダの各SUVが、車格に応じて着実に消費者をつかんでいるといえそうだ。
人気グレードとボディカラーについて
もっとも売れ筋のe:HEV Z(写真:本田技研工業)
ZR-Vの売れ筋は、ハイブリッド車(HV:ホンダはe:HEVと名付ける)が全体の約9割を占める(ホンダ広報部)。そのうえで、グレードでは販売価格が400万円を超える上級車種のe:HEVのZが約8割を占める人気だ。ホンダのなかでも上級車格のSUVであることから、装備を含めた充実度の高さが求められているのだろう。
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顧客層は、40〜50歳代が半分以上で、家族での利用を目的とする様子がある。車体色では、プラチナホワイト・パールが人気で、クリスタルブラック・パール、スーパープラチナグレー・メタリックと続く。訴求色といえるプレミアムクリスタルガーネット・メタリックが上級SUVとして気品と華やかさを伝えるのではないかと個人的に思うのだが、6万500円の塗装代金が追加になる。白とグレーも追加料金はかかるが、3万8500円だ。加えて、国内市場では、長年にわたり無彩色が無難との傾向が変わっていない。
購入の動機として、やはり独特な外観と、走りのよさ、上質な乗り味が評価されているという。まさにホンダの狙いどおりだ。
上位の車格であることを含め、ホンダのSUVを牽引するZR-Vに対する期待は、ホンダ社内でも高まっているとのことだ(ホンダ広報部)。
(御堀 直嗣 : モータージャーナリスト)