(写真:IYO / PIXTA)

『週刊東洋経済』8月31日号の第1特集は「お金の終活 超入門」と題し、後悔しない老後資金の使い切り方をわかりやすく解説。運用で形成した資産を定年後どのように使えば、不安とは無縁の豊かな老後生活を送ることができるのか。これを読めば丸わかりだ。


2018年、東京都調布市の京王線つつじヶ丘駅近くに自宅を構えていた夫婦は、愛媛県松山市に移住した。きっかけは夫の退職。退職後、家賃負担を少しでも軽減させようと考えたからだ。

夫婦は、「東京での家賃は月20万円くらい。それが松山市では月5万円と4分の1になった」と語り、「差額で月に1週間くらい東京や大阪への観劇旅行に出かけるのが楽しみ」と笑顔を浮かべた。

筆者は、地方都市への移住者に対するインタビューを5年ほど続けており、この夫婦もその1組。移住者の多くがこの夫婦同様、想像以上に充実した生活を送っている。

生活“費”の水準を落とす

生活費を抑制することで、最晩年に資産収入に大きく依存することはなく、万が一の際には余裕を持つことができる。筆者が実施した「60代6000人の声」アンケート(2024年、6506人が回答)でも、資産寿命を延ばす対策として8割の人たちが「生活費の削減」を挙げている。

ただ、そのうち65.1%が具体的な削減策として「食費を切り詰める」ことを挙げている。しかしそれでは充実した退職後の生活を送るという目的にかなわない。

大切なのは、生活レベルを落とすことなく生活“費”の水準を落とす工夫だ。その1つが地方の中核都市への移住なのだ。


6人に1人が移住を検討

前述のアンケートでは東京、大阪、名古屋の3大都市に居住している2144人に対し、地方都市への移住の検討状況についても聞いている。

結果は、「現在、地方都市移住を検討している」人は11.6%、「過去に地方都市移住を検討したがあきらめた」人は6.2%で、合計17.8%に達した。60代の6人に1人が検討している、もしくは検討していたという実態は、「思った以上に多い」という印象だ。

併せて、10年以内に移住した431人に、移住の評価についても聞いてみた。すると74.9%が「よかった」と回答、その理由として43.7%が「生活費の削減が可能になった」ことを挙げている(上図)。

だが、移住者すべてが満足しているわけではない。「思ったほどよくなかった」と回答した人の48.1%が、「思ったほど生活コストが下がらなかった」と回答しているのだ。

生活費の削減策として地方都市への移住が有効であることは間違いない。しかしどれくらい生活費が削減できるのか、事前にしっかりと調べておくことが重要だ。


(野尻 哲史 : フィンウェル研究所代表)