「痔ろう」は治療しないと『がん』になることも 手術の流れや術後の経過を詳しく解説
男性に多く発症し、場合によっては手術になることもある痔ろう。放置していると、まれにがん化することもあるそうです。医師に手術が必要と言われ、ドキドキしている人もいるかもしれません。手術はどのような流れで行われるのか、しらはた胃腸肛門クリニック横浜の白畑先生に詳しく教えてもらいました。
≫ 【イラスト解説】「肛門ポリープ」はがん化するの?「大腸ポリープ」との違い監修医師:
白畑 敦(しらはた胃腸肛門クリニック横浜)
昭和大学医学部卒業。その後、昭和大学藤が丘病院、山王台病院、関東労災病院、横浜旭中央総合病院で経験を積む。2017年、神奈川県横浜市に「しらはた胃腸肛門クリニック横浜」を開院。消化器に関することならなんでも相談できる、話しやすいクリニックを心がけている。医学博士。日本大腸肛門病学会専門医・指導医・評議員、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本外科学会専門医・消化器がん外科治療認定医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本臨床肛門病学会技術指導医、神奈川県難病指定医、身体障害者福祉法指定医。
痔ろうとはどんな病気? 治療には手術が必要?
編集部
痔ろうとはどのような病気ですか?
白畑先生
痔ろうとは痔のタイプのひとつであり、肛門周囲の皮膚と肛門の内側をつなぐトンネル(ろう管)ができる痔のことをいいます。
編集部
なぜ、痔ろうが起きるのですか?
白畑先生
主に、下痢などによって肛門の組織に細菌が入り込み、感染を起こすことが原因で発症します。女性に比べ、男性に多く見られるとされています。
編集部
どのような症状が出るのですか?
白畑先生
多くのケースで以下の症状が見られるとされています。肛門の周囲が腫れて、ズキズキした痛みがでる
発熱(38~39℃)する
おしりが熱っぽい
痛くてイスに座れない
トイレットペーパーや下着に膿が付く
など
編集部
自然に治るのですか?
白畑先生
痔ろうの治療は、一度できてしまったら基本的には手術になりますが、自然に治癒するケースもあります。そのため発症から2~3か月間経過を見て、その間に、生活習慣の改善や薬物療法なども並行して行います。それでも症状が改善しない場合は手術になります。
編集部
痔ろうを放置するとどうなりますか?
白畑先生
痔ろうの原因は細菌感染です。そのためこれを放置すると細菌感染を繰り返すことになり、症状が複雑化して、なかなか治りづらくなってしまいます。また、複雑痔ろうのような重症の痔ろうを長期にわたって放置すると、まれにがん化することがあります。そのため、痔ろうが疑われる場合にはしっかりと治す必要があります。
痔ろうの治療にはさまざまな術式がある
編集部
痔ろうはどのようにして治療するのですか?
白畑先生
簡単にいうと、手術ではろう管の入り口となる原発口と、出口となる二次口を塞ぎます。病態により、切開開放術、ろう管くりぬき術(括約筋温存術)、シートン法から選択します。
編集部
それぞれどのような手術か、教えてください。
白畑先生
切開開放術はろう管を切除し、縫合せずにそのまま開放創とする手術のことをいいます。痔ろうが浅かったり、肛門の後ろの方に痔ろうがあったりする場合に行われます。
編集部
ろう管くりぬき術とはどのよう手術ですか?
白畑先生
ろう管をくり抜き、細菌の入り口を縫合する手術のことをいいます。痔ろうが深かったり、肛門の前方に痔ろうがあったりする場合に行われます。肛門の前方は括約筋が発達していて切開による括約筋へのダメージが大きいため、くりぬき術が推奨されます。
編集部
シートン法とは?
白畑先生
ろう管に輪ゴムを通し時間を掛けて絞っていき、ゴムの力でゆっくりろう管を開放する手術のことをいいます。侵襲が少ないというメリットがありますが、治癒まで時間がかかったり、再発が多かったりする術式です。シートン法はクローン病の痔ろうや炎症が強く周囲組織が脆弱な場合に切開開放術やくりぬき術では治癒困難な場合に適応されます。
編集部
いろいろな手術があるのですね。
白畑先生
痔ろうの手術で大切なのは、できるだけ肛門の機能を温存するということです。ろう管は肛門括約筋という筋肉をまたいでおり、手術にはこの筋肉をどう処理するかが重要になります。肛門括約筋は肛門を閉じる働きをする筋肉であり、手術によってこれを傷つけると肛門の機能が損なわれてしまうことがあります。そのため手術ではできるだけ肛門括約筋を傷つけず、侵襲性の少ない方法で行うことが必要です。
手術の流れ
編集部
痔ろうの手術は、どのような流れで行われるのですか?
白畑先生
まずは事前の検査として、肛門機能に不安のある場合は肛門機能内圧検査を行います。これは肛門内の圧を測定し、肛門を閉める力がどれくらい強いかなど、肛門の機能を調べる検査のこと。治療方針を決めるのに重要な役割を果たします。そのほか肛門超音波検査などを行って、痔ろうの走行や状態などを調べることもあります。また、血液検査などで全身の健康状態を確認します。
編集部
まずは検査が必要なのですね。
白畑先生
はい、そのほか内視鏡などお腹の検査を行う場合もあります。特に若い人の場合、「痔ろうかと思ったら、実はクローン病だった」ということもあります。そのため、ほかの疾患と鑑別するために、内視鏡検査を行うこともあります。
編集部
手術の当日はどのような流れになりますか?
白畑先生
基本的に、手術は日帰りとなります。手術の前日は軽い食事制限が指示され、手術の当日は朝から絶食になります。手術は静脈麻酔と局所麻酔または仙骨硬膜外麻酔の組み合わせによって行われ、約15~30分で終了します。
編集部
日帰りで手術できるのはいいですね。
白畑先生
ただし、トンネルが深く複雑に広がっている複雑痔ろうの場合には、入院手術が必要になります。入院期間はだいたい1週間です。
編集部
手術が終わったら、どうするのですか?
白畑先生
手術後は回復室で休養し、術後1時間くらいで水分や食事の摂取が可能になります。また、術後2時間くらいで全身に問題がなければ、帰宅することができます。
編集部
手術のあとに気をつけることはありますか?
白畑先生
手術日は安静にして過ごしてもらいますが、翌日以降、日常生活への復帰が可能です。ただし、手術のあとで注意が必要なのは、痛みと出血です。術後は便を柔らかくするため、緩下剤を服用しますが、それでも術後1週間~10日間は出血があります。指示された日に外来を受診し、術後の経過を見せてもらいますが、いつまでも痛みや出血がおさまらないなど、異常が見られる場合には早めに受診するようにしましょう。
編集部
痛みや出血があるのですね。
白畑先生
はい。そうしたリスクを踏まえ、当院もそうであるように、あらかじめ24時間体制でフォローアップを行っている医療機関を選ぶと安心です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
白畑先生
痔ろうは自然治癒することが少ない病気であるため、発症したらなるべく早めに専門の医療機関を受診し、早めに治療開始することをお勧めします。ごく稀ですが、長年痔ろうを放置することで「痔ろうがん」を発症する人もいます。そうした事態にならないよう、できるだけ早めに医師の診察を受けるようにしましょう。
編集部まとめ
男性に多く発症する痔ろう。「仕事が忙しい」などの理由で、そのまま放置している人もいるかもしれません。しかし痔ろうは基本的に命に関わる疾患ではないとはいえ、QOLを大きく低下させてしまいます。早めに医師の診察を受け、治療後は再発予防に取り組むようにしましょう。
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