実に48年ぶりにオリンピック出場権を獲得した、バスケットボール男子日本代表。チームとしての真の強みとは(写真:Jag_cz/PIXTA)

日本バスケ界の救世主、ジョシュ・ホーキンソンさん。2023年に日本への帰化が認められ合流した2023年のワールドカップでは、獅子奮迅の活躍で、日本のパリオリンピック出場に大きく貢献しました。

そんな彼がパリオリンピックでの意気込みを語ります(『日々挑戦、日々成長 - 不可能を可能にするメンタル強化メソッド』より抜粋してお届けします)。

48年ぶりのオリンピック出場

改めてになりますが、2023年のワールドカップで日本代表チームがアジアの参加国で1位となり、パリオリンピックへの出場権を手にしたという結果はすばらしいものでした。

バスケットボール男子日本代表の自力でのオリンピック出場は、1976年のモントリオール大会以来、実に48年ぶりとのこと。

事前にそういった過去の歴史について詳細に把握していたわけではありませんが、これがどれほど日本にとって偉業であるかを知ると、自分たちが成し遂げることができたことの価値を実感することができました。

ただし、過去に起きたことについていつまでもすがっているわけにはいきません。大切なのは過去ではなく将来なのです。トムコーチも「いつだって成長する余地はあるのだ」と毎回、僕たちに強調します。

ワールドカップには32チームが出場するのに対し、オリンピックにはわずか12チームしか出場ができません。つまり、オリンピックにはワールドカップ以上に真の強国だけが参加するのです。換言すれば、誰と対戦しようと簡単に勝てる相手などいないということです。

そして、ワールドカップでは予選ラウンドを勝ち抜けなくとも順位決定ラウンドがあり、実際、僕たち日本もワールドカップでは2次ラウンドに進めずに順位決定ラウンドへ進んでいます。

オリンピックにはこれがなく、予選ラウンドで敗退した時点で大会は終わってしまうということになります。つまりは、どの試合も最重要の試合として戦わねばなりません。

そうした厳しい大会ではありますが、僕自身は出場することをものすごく楽しみにしています。ワールドカップで成果を挙げた日本が、そこからさらに成長し、より強固な軍団としてより高いレベルのプレーを、オリンピックという最高峰の舞台でどこまで発揮できるか、ワクワクします。

アメリカと対戦したら面白い

オリンピックは、言うまでもなくスポーツ最大の祭典です。誰もがオリンピックを見て育ち、世界のすばらしいアスリートたちのパフォーマンスを見てきたはずです。単に自分の国を代表するだけでなく、世界最高のアスリートたちが一堂に会して世界に向けて競う、特別な舞台です。

僕も小さな頃からオリンピックを見てきましたが、その舞台に立てるチャンスがもらえるなどとは夢にも考えていませんでした。

日本代表としてはどのチームと対戦しても、厳しい戦いとなります。ただ、個人的にはアメリカと対戦したら面白いなとは思っています。僕はアメリカで生まれ、育ち、子どもの頃からNBAを見ていました。

2023年のワールドカップでアメリカは2大会連続で表彰台を逃すなど、残念な結果に終わっていることもあり、パリオリンピックにはスーパースターを集めた「アベンジャーズ」のようなチームを結成して臨んでくるとも見聞きします。そんなチームともしコートで対峙するようなことがあれば、すばらしい経験になると思います。

もっとも、相手が誰になろうと日本代表チームのやることに変わりはありません。僕たちは富樫勇樹選手や河村勇輝選手のような小さな選手が、スピードやスリーポイントシュートをいかしながらポジションレスに戦う、世界でもかなり異色なスタイルのバスケットボールです。

僕たちには多くの優れた選手たちがいて、しかし特定のスター選手に頼るのではなく、毎試合、全員が自分の役割をこなしながら、その中から誰かしらが活躍をする、プレーをしていても非常に楽しいバスケットボールです。

ワールドカップでは比江島慎選手や僕、河村選手、渡邊雄太選手、富永啓生選手と、試合ごとに異なるヒーローが出たことも、大きなことを成し遂げられた理由となりました。

パリオリンピックでは、ワールドカップで出た課題の修正はもちろんしますが、基本的にやるバスケットボールに変わりはありません。大事なのは相手に合わせたプレーをするのではなく、あくまで自分たちのスタイルを貫き通すことです。

富樫選手と河村選手の「Wユーキ」はともに得点にもパスにもものすごく長けていますし、富永選手はコート中央付近のロゴのある付近からでもシュートを決められ、相手のディフェンスを広げてしまう特別な能力があります。渡邊選手はスリーポイントやディフェンスの名手です。

僕らにはこのように、特別な才能と技量を持った選手がたくさんいます。ただ他の国にはNBAの選手を多く抱えるところもあり、そういったチームを打ち破るには日本は一枚岩となって、自分たちのバスケットボールを完遂する必要があります。

オリンピックでは沖縄でのワールドカップでのようなホームコートの声援を背に受けることはありませんし、スピードを生かしながらアップテンポな展開に持ち込んで、多くの点数を入れるようなゲームにしなければ勝ち目は薄くなると思っています。

高さよりも気持ちが大事

そして、気持ちの強さも大事になってきます。短いドキュメンタリー映像を見たのですが、バスケットボールでは高さなどよりも気持ちこそが大事なのだというメッセージが込められていました。

日本は世界的にはもっとも小さな選手のいるチームではありますが、激しく、速くプレーをし、かつ絶対に諦めないメンタリティは僕たち日本を言い表すものです。

2023年のワールドカップでは、日本のプレーぶりはコートに立つ僕たちにとっても見ている人たちにとっても、いかに楽しいものかをお見せすることができたかと思います。

ワールドカップで日本は躍進をしましたが、それでも世界にはまだまだ僕らがどのようなバスケットボールをするか知らない人たちがいるかと思います。

繰り返しますが、オリンピックは規模がずっと大きな大会で、テレビ放映などを通して世界中の人たちが注目するものです。その舞台で僕たちが日本の新たなスタイルのバスケットボールを披露できることを想像するだけでも、鳥肌が立ちます。

トムコーチが日本女子代表の指揮官として東京オリンピックの銀メダル獲得という偉業を達成した際、彼は「スーパーチーム」だと選手たちに讃辞を贈りました。

そして、男子代表がワールドカップを終えた時には、女子のようにメダルを獲ったわけではないので「まあまあだね」と冗談をこめながらもやはり、僕たちが「スーパーチーム」であると評してくれました。

男女の代表で成し遂げたことの中身は違えど、トムコーチがそのフレーズを使って両チームを称えたのには共通した理由があったと思います。それは、女子も男子も特定のスターに頼らない、チームバスケットボールを展開して成功を収めたことにあります。

日本代表の強みは「チーム力」

本当にその通りで、日本の選手は誰1人として自分だけがぬけがけするようなプレーをしません。


渡邊選手にしても、NBAでプレーしていることをまったく鼻にかけることもなく、かつ「俺にボールをよこせ」とエゴを出すこともなく、しかしリーダーシップは強烈に発揮しながら、チームの全員をリスペクトする姿には、本当に感銘を受けました。

日本代表の真の強みは、ひとつのチームとして戦うことで個々の選手たちが集まっただけにとどまらない力を発揮することです。僕たちはボールを他人に回すことに躊躇がないですし、難しいシュートをするくらいなら味方にアシストすることをいとわないチームです。

そういった強みをより高いレベルで発揮すること。それこそがパリオリンピックで僕たちが見せたいもので、それができればベスト8という目標に近づく可能性もより高くなってくると思っています。

(ジョシュ ホーキンソン : バスケットボール男子日本代表 サンロッカーズ渋谷)