「上司力」を発揮するには?

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上司の言葉がけひとつで、モチベーションが高まった経験はありませんか?

実際のエピソードや感動的なエピソードを取り上げ、人材育成支援企業FeelWorks代表の前川孝雄さんが「上司力」を発揮するヒントを解説していきます。

今回は、切望したプロジェクト・メンバーに抜擢されたものの、思わぬ事態に遭遇した若手リーダーの奮闘エピソードです。

「ぜひ参加したい!」社内公募の新規プロジェクトに応募

人を笑顔にできる仕事にやりがいを感じて飲食店チェーンで働くMさん。

志望企業に就職し、東京都内の大型店に配属され、5年間勤務するうちに、一通りの店舗運営スキルを身に付けました。

学生アルバイト時代から経験と実績を積んできたことから、若手リーダー候補としても期待されていました。

そんなMさんの目に留まったのが、新店舗立ち上げプロジェクト・メンバーの社内公募の告知。自身の郷里に近い関西エリアでの新規出店です。

Mさんには愛着のある地域で、急成長中のブランド店舗づくりに一から関われることから、ぜひ参加したいと応募したのです。

書類選考と新規事業責任者との面接も無事通過。希望が叶い、立ち上げメンバーに選ばれ、なんと、副店長に抜擢されたのです。

新店舗の立ち上げリーダーには、エース級の人材を投入するのが会社方針。Mさんは、そんな周囲の評価と期待の後押しも受けながら、意気揚々と転勤先に向かったのです。

いよいよ着任日を迎え、店長以下、出展準備に向かう約10人の社員が一堂に顔を合わせました。

店長はエリア内3店舗兼務のため、実質的にはMさんがスタッフ取りまとめ役です。全体挨拶では、店長から掛け声がかかりました。

「皆さん、今日からよろしくお願いします。開店までは3か月というタイトスケジュールですが、力を合わせて頑張りましょう!」

その後、店長との軽い打ち合わせを終え、メンバー一人ひとりと短時間の面談に入ったMさん。

ところが...。

「(これって、いったい、どういうこと?!)」と、とても驚くことに。

「どうせ自分なんか、あまり期待されていないんで...」

どのメンバーと話しても、ネガティブな空気が漂い、発言も後ろ向きなのです。

このプロジェクトに参加した思いや、新しい店舗づくりへの期待や希望を訊いても、「わかりません」「特にありません」といった応答ばかり...。

Mさんが、特に気になるメンバーの本音を引き出そうと、さらに問いかけると...。

「本当に、希望なんてないんです。どうせ自分なんか前の職場でも評価されず、あまり期待されていないんで...。無理のない程度にやりますから」
「このプロジェクトに、自分から手を挙げたわけじゃないんです。異動と言われたので来ただけで、特に思いなんでありません」

Mさんは後で知ったのですが、メンバーは誰一人、希望して加わったのではありませんでした。

同時期に、関東近郊の人気観光スポットにある、お洒落な大型店舗の立ち上げが重なったことで、やる気と能力のあるメンバーは皆、そちらを希望していったといいます。

ただでさえ、どこの店舗も人手不足のさなか、各エリア責任者は優秀な人材を出し渋り、こちらのプロジェクトには、いわば戦力外と評価される人ばかりを出すことに...。

すなわち、成績不振者や、問題行動を指摘されるメンバーが集まった「落ちこぼれ部隊」だったのです。

遅刻や欠席が頻発...職場崩壊寸前!?

「(これは参ったな...。果たしてこのメンバーで、本当に新店舗の立ち上げまでたどり着けるかな...)」(Mさん)

新天地でのプロジェクトは、不安で一杯のスタートになりました。

案の定、翌日からのメンバーたちの状況は、惨憺たるものでした。

まず朝礼の時間になっても、全員が揃いません。一人からは当日連絡が入り、その日は引っ越し片付けの都合で休ませてほしいとのこと。もう一人とは連絡がつながらないまま、無断で30分ほど遅れてやってくる始末...。

「(まあ、スタート翌日だから仕方がないかな...)」(Mさん)

ところが、この調子は初日だけではありませんでした。

数日おきに遅刻者や欠席者が頻発します。接客業にも関わらず、金髪の人や、服装が整わないなど、仕事モードに程遠い人もいます。

準備作業の途中でも、メンバー同士が言い争いになり、あわや掴み合いになるところをMさんが止めに入る場面も...。

「(このままじゃ職場崩壊だ...。ちょっとやそっとで、何とかなるレベルじゃない。本気で対応を考えないと...)」

当初は頭を抱え途方にくれていたMさんでしたが、メンバーとの向き合い方を根本から考え直そうと、覚悟を決めたのです。

<「そんなビジョンはダサい」 気持ちをひとつにしようと奮闘も...メンバーからの「ダメ出し」で窮地に>の記事に続きます。

(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)


【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。
近著に、『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)、『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!』(FeelWorks、2024年4月)など。