第7回 「雇用調整助成金」不正受給企業 調査

 全国の労働局が6月30日までに公表した「雇用調整助成金」(以下、雇調金)等の不正受給件数が、2020年4月から累計1,264件に達した。不正受給総額は418億2,114万円にのぼる。
 前回調査(2024年4月30日公表分まで集計)から2カ月で107件増加した。また、2024年上半期(1-6月)の累計は345件で、1カ月あたりの公表件数は57.5件と前年通期(692件)の平均57.6件にほぼ並び、不正受給の公表件数は高水準で推移している。

 不正受給の公表件数を都道府県別でみると、最多は愛知県の159件だった。今回の公表で27件増加した。次いで、東京都152件、大阪府151件の順で、企業数の多い大都市が上位に並ぶ。
 1,264件のうち、東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースに登録がある947社を産業別でみると、最多はサービス業他の425社(構成比44.8%)で半数近くを占めた。細分類した業種別は、最多はコロナ禍の営業制限が強く影響した飲食業の130社。次いで、建設業が121社で続く。
 公表された1,264件のうち、倒産が判明したのは62社(同4.9%)だった。公表日までの倒産は33件(同53.2%)で、半数は公表後に倒産している。不正受給を公表された企業の倒産発生率(4.9%)は、普通法人全体(0.2%)の24.5倍に達し、倒産リスクが際立って高いのが特徴だ。

 雇調金の不正受給は、手続きを簡素化して迅速な支給を目指したコロナ禍の特例措置の悪用が目立ち、2023年3月の特例措置終了から1年以上を経ても発覚が相次いでいる。公表された企業は、助成金の全額返還などの金銭的ペナルティのほか、悪質性が極めて高い場合は代表者の逮捕など刑事事件に発展するケースもある。

※ 本調査は、雇用調整助成金、または緊急雇用安定助成金を不正に受給したとして、各都道府県の労働局が2024年6月30日までに公表した企業を集計、分析した。前回調査は5月15日発表。


愛知県が急増し、都道府県別で最多 中部地区も2位に浮上

 地区別では、関東が468件(構成比37.0%)で最も多い。次いで、中部が245件、近畿227件の順。このほか、九州102件、中国91件、東北51件、四国41件、北陸24件、北海道15件と続く。 

 2024年4月からの増加率は、東北18.6%増(43件から51件)が最高で、中部18.3%増(207件から245件)が僅差で続く。一方、北海道と北陸は5、6月に公表が無く、増加しなかった。
 都道府県別では、愛知県が159件で初めて最多となった。前回(132件)から27件増加し、東京都152件と大阪府151件を抜いた。次いで、神奈川県が103件で、100件超えは4都府県となった。
 このほか、広島県58件、千葉県56件、福岡県43件、栃木県と埼玉県が各41件、三重県38件、京都府27件、新潟県26件、茨城県24件の順。

※ 各都道府県の労働局が公表した住所に基づいて集計しており、本社所在地と異なる場合がある。


産業別 サービス業他が425社で4割超、2番目に多い建設業の3.5倍

 雇調金等の不正受給が公表された1,264件のうち、TSRの企業情報データベースで分析可能な947社(個人企業を一部含む)を対象に、産業別と業種別で分析した。
 産業別では、最多はサービス業他の425社(構成比44.8%)で5割近くを占めた。次いで、建設業121社(同12.7%)、製造業108社(同11.4%)の3産業が100社を超えた。このほか、卸売業67社(同7.0%)、小売業64社(同6.7%)、運輸業61社(同6.4%)が続く。
 細分類した業種別は、最多が「飲食業」の130社(同13.7%)だった。次いで、「建設業」が121社で、上位2業種が100社を超えた。このほか、人材派遣や業務請負など「他のサービス業」88社、旅行業や美容業など「生活関連サービス業,娯楽業」69社、経営コンサルタント業などの「学術研究,専門・技術サービス業」65社、運輸業61社、ソフトウェア開発などの「情報サービス・制作業」44社が続く。


不正受給公表企業の倒産は62件、倒産発生率は4.9%で普通法人全体の24倍

 雇調金等の不正受給で公表された1,264件のうち、62件が倒産していることがわかった。
 倒産発生日を時期別にみると、不正受給公表前の倒産は30件で、同日の3件と合わせた33件(構成比53.2%)が公表日までに経営破たんしている。一方で、公表後の倒産は29件で、信用低下が破たんに拍車をかけた可能性がある。
 公表された企業1,264件を分母とした倒産発生率は4.9%だった。TSRが6月に発表した「2023年度「倒産発生率(普通法人)」調査では、全法人の倒産発生率は0.2%で、24.5倍と大幅に高い。不正受給に手を染めた企業の生き残りは難しいことを認識すべきだろう。



 コロナ禍の営業自粛や人流抑制などで厳しい業績が続いた企業を中心に、従業員の雇用を維持するために事業規模を問わず雇調金を利用した企業は多かった。特に、対面型サービス業や労働集約型産業などはコロナ禍の影響が深刻だっただけに、雇用下支え効果が大きかった。
 ただ、コロナ禍でのスピーディーな支給を実現するため手続きを簡素化したことで、申請の過誤や不正受給も頻発した。厚生労働省によると、各都道府県労働局の遡及調査で発覚した不正受給は、2024年3月末で3,051件、支給決定取消金額は約690億3,000万円に及ぶ。
 このうち、支給決定を取り消された金額が100万円以上、または100万円未満でも悪質な事案と判断された不正受給は、社名や代表者名等が公表される。加えて、詐欺罪として刑事告訴されるケースもあり、法人だけでなく代表者などの刑事告訴も起きている。
 不正受給金額が歴代2位の(株)水戸京成百貨店(2023年2月公表、受給金額10億7,383万円)をめぐる不正受給では、茨城県警が2024年1月、元社長を詐欺容疑で逮捕している。
 不正受給が公表された企業は、コーポレートガバナンス欠如が浮き彫りになり、取引先や金融機関からの信用を失いかねない。また、受給金額に違約金と延滞金を加えて返還する必要があり、資金面への負担も大きい。さらに、公表企業の倒産発生率は4.9%に達し、普通法人全体の0.2%の24.5倍に跳ね上がっており、放漫経営のツケは決して小さくない。
 雇調金等の主な財源は、事業主と従業員の双方が負担する雇用保険料のうち、事業主負担分を積み立てた「雇用安定資金」で賄われるだけに、制度を悪用した不正受給には厳しい姿勢が求められる。