俳優・陣内孝則さんが「肺がん」手術を公表、ステージ別の余命・生存率・治療法を医師が解説
俳優の陣内孝則さん(65)が、出演ドラマの完成披露試写会にて、撮影前に肺がんの手術を受けていたことを明らかにしました。「ステージ2A」だったそうです。そこで、がんの報道などで目にする「ステージ」とはなんなのか、ステージ別の余命・生存率、検査、治療法などについて、医師の木村香菜先生に解説してもらいました。
※この記事はMedical DOCにて【「肺がんのステージ」別の余命・生存率・治療法はご存知ですか?医師が解説!】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。
監修医師:
木村 香菜(医師)
名古屋大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院や、がんセンターなどで放射線科一般・治療分野で勤務。その後、行政機関で、感染症対策等主査としても勤務。その際には、新型コロナウイルス感染症にも対応。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。
「肺がん」とは?
肺がんは、肺に発生する悪性腫瘍です。
正常な肺を壊しながら大きくなり、リンパ節やがんのある肺以外にも転移します。
肺の中のほかの部位(肺内転移)、骨、脳、肝臓、副腎への転移が多くみられます。
大まかには4種類に分類でき、腺(せん)がん、扁平(へんぺい)上皮がん、大細胞がん(これら3つは非小細胞肺がんと称されることもあります)、そして小細胞肺がんです。この中でも腺がんが最も多く半数以上を占めます。
肺がんのステージ別の余命・生存率
肺がんに限らず、がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類します。
病期は、ローマ数字を使って表すことが一般的です。肺がんには0期~Ⅳ期があり、病気が進むと大きな数字となります。
病期は、次の3つの因子(TNM分類)の組み合わせで決まります。
・T因子:最初にできたがん(原発巣:げんぱつそう)の大きさ・広がりの程度
・N因子:リンパ節(胸腔内・鎖骨の上など)への転移の有無
・M因子:がんから離れた臓器やリンパ節への転移の有無
となります。
これによって、肺がんの病期、つまりステージを分類します。
簡単に言うと、以下のようになります。
・I期(ステージ1):リンパ節への転移がない早期のがん
・II期(ステージ2):がんの近くのリンパ節への転移がある
・III期(ステージ3):がんから離れたリンパ節に転移している、肺がんが大きい
・IV期(ステージ4):がんが他の臓器にも転移したり、胸水や心のう水などがみられたりする
肺がん治療は主に手術になります。
がんの治療においては、治療成績や余命を推測する際に5年生存率という指標が用いられることが多いです。
この記事では、国立がん研究センターが集計した肺がんのステージごとの生存率をご紹介します。
なお、相対生存率とは、がん以外の死因による死亡などの影響を差し引いた生存率を指します。
肺がん・ステージ1の余命・生存率
肺がんステージ1における5年相対生存率は85.6%です。
胸部レントゲンで肺がんを疑う場合には、胸部CTなどでさらに詳しい肺の検査を行い、全身への転移を調べるために脳のMRIや全身のPET検査などを行い評価します。
ステージ1では手術治療が主に選択され、呼吸器内科や呼吸器外科で治療を受けることになります。
肺がん・ステージ2の余命・生存率
肺がんステージ2では、5年相対生存率は52.7%です。
ステージ2の肺がんにおいても、肺がんが疑わしい場合は、胸部CT検査でさらに詳しくがんの有無や部位、性状を調べます。
そして、気管支鏡(きかんしきょう)検査などで、がんが疑われる場所から細胞や組織を採取する病理検査を行います。その上で、本当にがんなのか、がんの場合はどのような種類なのかについてチェックします。経皮的針生検や胸腔鏡検査などの方法もあります。
ステージ2の場合にも、手術可能であれば手術を行います。手術が不可能な場合には、放射線単独治療または、化学療法を合わせて行う化学放射線療法を行います。
肺がん・ステージ3の余命・生存率
ステージ3肺がんでは5年相対生存率は27.2%です。
ステージ3は進行したがんですが、適切な治療により治る見込みはあります。
ステージ3の肺がんの場合にも手術可能であれば手術を行います。しかし、肺がん自体が大きかったり、リンパ節にも転移がみられたりして手術が困難な場合が多くみられます。そのため、放射線単独治療または、化学療法を合わせて行う化学放射線療法がメインの治療となります。
肺がん・ステージ4の余命・生存率
ステージ3の肺がんも進行がんですが、ステージ4の肺がんは、肺がんのある肺と反対側の肺にもがんが転移していたり、胸水や心のう水が溜まっていたり、あるいは他の臓器に転移していたりする点が異なります。
ステージ4の場合、転移した病変が原因で症状が現れ、それをきっかけにがんが見つかることもあります。
例えば、脳転移による頭痛や視野障害、痙攣、骨転移による痛みや骨折、または胸水がたまることによる呼吸困難などです。
ステージ4の肺がんでは5年相対生存率は7.3%です。
ステージ4の肺がんで、医師が余命宣告をする際には、こうしたデータを参考にしています。
肺がんのステージ別の検査・治療法
肺がんの治療法について、ここでは非小細胞肺がんの治療について述べていきます。
肺がん・ステージ1の検査・治療法
ステージ1の肺がんでは、手術ができる場合には基本的に外科的手術を行います。
がんの大きさが2㎝以下の場合には、標準的な手術方法の1つとして、肺葉の一部分のみを切除する手術である縮小手術が行われます。この術式は、肺を可能な限り温存することを目的としています。
手術の場合は、呼吸器外科や胸部外科が担当します。
標準的な術後入院期間は、平均10日前後です。
体の状態が悪く、手術ができない場合には、放射線治療が行われることもあります。
この場合には、入院は不要で、外来通院で放射線治療を受けることが多いです。
肺がん・ステージ2の検査・治療法
がんのある肺葉(肺の区画のこと)そのものを切除する、肺葉切除術(はいようせつじょじゅつ)を行います。通常はリンパ節郭清(かくせい)(周囲のリンパ節の切除)も行います。がんが肺をおおっている胸壁(きょうへき)や心臓を包む膜である心膜にも及ぶ場合には、それらも一緒に切除することがあります。また、再発や転移を予防することを目的として、手術後に薬物療法を行うことがあります。
ステージ1肺がんと同様に、呼吸器外科や胸部外科が治療の主軸になります。
標準的な術後入院期間は、平均10日前後です。
肺がん・ステージ3の検査・治療法
ステージ3の肺がんに対しては、放射線治療が行われます。体の状態が良好で、細胞障害性抗がん薬が使える、つまり化学療法が可能な場合には、放射線治療と同時に化学療法を行います。これを化学放射線療法といいます。
化学放射線療法では、高い効果が見込めますが、治療中に副作用が強く出る可能性も高くなります。
従来化学療法を行う場合には入院して点滴治療を受けることが多かったのですが、近年は内服の分子標的薬が開発されたことで、初回のみ入院で様子をみて、問題がなければ外来治療に移行するケースも増えてきています。
放射線治療単独の場合には、外来通院で治療を受けることも可能です。
放射線治療の期間は、1ヶ月半程度が見込まれます。
肺がん・ステージ4の検査・治療法
ステージ4肺がんの場合には、基本的には薬物療法や、緩和治療の適応となります。
しかし、骨転移や脳転移で症状が現れている場合には転移した臓器への治療を優先することもあります。
骨転移に対しては、放射線治療を行います。脊椎転移による麻痺や痺れ、痛みなどの脊髄圧迫症状がある場合には、手術を行うこともあります。
脳転移によって麻痺などの症状がある場合にも、症状を軽くするための放射線治療を検討します。
ステージ4の肺がんが完治することは難しいかもしれません。しかし、近年免疫チェックポイント阻害薬による治療が行われるようになり、症例によってはステージ4でも長生きすることが期待できるようになってきています。
編集部まとめ
今回の記事では、肺がんのステージのそれぞれの生存率について解説しました。治療法が進歩し、進行した肺がんであっても長期生存が望めるケースも増えてきたものの、ステージが進むにつれて生存率は下がっていきます。肺がん検診や定期検診を受け、肺がんの早期発見・早期治療につなげましょう。