「腰椎椎間板ヘルニア」を放置するとどうなる? 排尿・排便障害にならないためには
腰椎椎間板ヘルニアの症状といえば、腰痛が真っ先に思い浮かぶと思いますが、そのほかの症状やそのメカニズムについてご存知ですか? 腰椎椎間板ヘルニアになりやすい人はどんな人でしょうか? そこで「腰椎椎間板ヘルニア」の初期症状やなりやすい人の特徴、新しい治療法などについて、整形外科医の石井 賢先生(New Spine クリニック東京総院長)に解説してもらいました。
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石井 賢(New Spine クリニック東京)
慶應義塾大学医学部卒業。アメリカジョージタウン大学とハーバード大学に留学後、慶應義塾大学整形外科専任講師と国際医療福祉大学整形外科初代主任教授、同大三田病院・成田病院副院長・脊椎センター長、慶應義塾大学整形外科特任教授を経て、2023年より現職。日本専門医機構整形外科専門医、日本整形外科学会(JOA) 日本整形外科専門医・脊椎脊髄病医・脊椎内視鏡下手術・技術認定医・リウマチ専門医、日本脊椎脊髄病学会(JSSR)脊椎脊髄外科専門医・脊椎脊髄外科指導医、臨床修練指導医、難病指定医。
石井賢オフィシャルページ
・脊椎・脊髄(せぼね)の病気について(総論)
・FESS(全内視鏡下椎間板切除術)
「腰椎椎間板ヘルニア」とは? 整形外科医が解説
編集部
「腰椎椎間板ヘルニア」について教えてください。
石井先生
腰椎は、5個の椎骨とその間にあるクッション(椎間板)で形成されています。椎間板の中心部には水分が豊富な髄核が存在し、周囲を強固な線維輪が覆っていますが、年齢と共に髄核の水分が少なくなり、線維輪にも裂け目ができてきて、椎間板は徐々に劣化します。腰椎の髄核の部分が線維輪の裂け目から押し出され、脊髄や神経根を圧迫してしまう状態を「腰椎椎間板ヘルニア」と呼びます。
編集部
加齢に伴い起こるのですか?
石井先生
そうとも限りません。先ほど「年齢と共に」と言いましたが、実際には外からの強い衝撃や長期間の負荷、不良姿勢などによって椎間板ヘルニアとなってしまうことも多くあります。
編集部
どんな人に多いのですか?
石井先生
高齢の方にも見られますが、統計的には20~40歳代によくみられ、男女の発生比率は約2:1と、男性に多い疾患です。さらに、近年では遺伝的要因も解明されつつあり、生活習慣では喫煙も椎間板変性をもたらすことが証明されています。
腰椎椎間板ヘルニアの症状とは? どのようにして起こる?
編集部
腰椎椎間板ヘルニアはどんな症状が出るのですか?
石井先生
主な症状としては、腰痛、臀部から足先までの痛みやしびれ(坐骨神経痛)、感覚障害、筋力低下などが起こります。また、腰痛を伴わないケースもあります。
編集部
症状が進行するとどうなりますか?
石井先生
進行すると強い痛みが出たり、足に力が入らなくなったりすることで、歩くことが困難になる場合もあります。また、ヘルニアの大きさや部位によっては、排尿や排便障害になることもあります。
編集部
腰の疾患なのに、どうして足の症状や排尿障害などが表れるのですか?
石井先生
腰椎の椎間板のすぐ後ろに、足の感覚神経や運動神経、排尿などにたずさわる神経が通っているからです。押し出された髄核が、それらの神経を圧迫してしまうことが多いので、これらの症状が出るのです。
編集部
ヘルニアなのに腰の痛みがなく、足だけが痛いという場合もあるのですね。
石井先生
そうですね。もちろん、足が痛いからといって腰椎椎間板ヘルニアとは限りません。「しばらく歩いていると足の痛みで歩けなくなるが、座って休むと治る」といった場合などは腰部脊柱管狭窄症の可能性もあります。
腰椎椎間板ヘルニアの治療法は?
編集部
腰椎椎間板ヘルニアの治療にはどんなものがありますか?
石井先生
飛び出した髄核は異物と認識され、免疫系の細胞によって次第に縮小することがあるため、初めは手術以外の方法である保存療法で経過観察します。具体的には薬物療法や装具療法、ブロック注射、物理療法や運動療法などのリハビリテーションが多く用いられています。さらに生活指導・環境調整などもおこなって症状の軽減を図ります。なお「ベッドマットは高反発(硬め)」を推奨します。
編集部
それでも改善しない場合はどのように治療するのですか?
石井先生
保存療法で改善しない場合や重度の神経障害を伴う場合、または生活に著しく影響が出ているケースには、手術治療が選択肢となります。とくに下肢の運動麻痺や排尿・排便障害が急激に進む場合などは、放置していると症状の回復が見込めなくなるため、早急に手術をおこなうことが必要です。
編集部
どんな手術法がありますか?
石井先生
20年ほど前は、全身麻酔で皮膚を大きく切開するような手術が主流でしたが、現在は負担の少ない局所麻酔下での低侵襲の手術が多く取り入れられています。例えば全内視鏡下椎間板切除術(FESS)や内視鏡下椎間板摘出術(MED)、顕微鏡下椎間板ヘルニア摘出術などがその例で、FESSは約7mmの切開、MEDは約2cmの切開かつ、手術時間が約1時間と短いため、基本的に日帰り(外来)でおこなえます。さらに、現在最も体の負担が少ない新しい手術法として経仙骨的脊柱管形成術(TSCP)があり、こちらの切開は約3~4mmです。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあればお願いします。
石井先生
腰椎椎間板ヘルニアは、一般に腰痛あるいは神経痛を来たします。先述のベッドマットなどの日常生活上の環境調整や内服加療などで、症状が自然に軽減する場合もあります。一方、時に進行性の運動神経麻痺や排尿障害なども起こします。症状が継続的あるいは進行性の場合は、専門医を受診することをお勧めします。以前とは違い、日帰りでできる負担の少ない手術がありますので、どういった治療法がよいのか、専門医と相談しながら決めましょう。
編集部まとめ
腰椎椎間板ヘルニアの初期症状や発症リスクを理解することは、早期発見や早期治療に役立ちます。新しい治療法として、負担の少ないさまざまな日帰り手術もできているとのことなので、腰痛やしびれに悩む方は、まず専門医に相談してみてはいかがでしょうか。
※参考文献
日本整形外科学会腰椎椎間板ヘルニア
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