声優・松野太紀さん56歳で逝去 死因の「脳出血」の初期症状・予防法を医師が解説

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アニメ「金田一少年の事件簿」金田一一役、「スポンジ・ボブ」スポンジ・ボブ役などで知られる声優の松野太紀さんが右大脳出血のため亡くなったと所属事務所の公式サイトが発表しました。56歳でした。

脳卒中の一つである「脳出血」は、 突然死を招く恐ろしい病気です。今回は脳出血の初期症状や治療法、予防法や何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。

※この記事はMedical DOCにて【「脳出血の前兆となる初期症状」はご存知ですか?治療法や予防法も医師が徹底!】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。

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監修医師:
村上 友太(東京予防クリニック)

医師、医学博士。福島県立医科大学医学部卒業。福島県立医科大学脳神経外科学講座助教として基礎・臨床研究、教育、臨床業務に従事した経験がある。現在、東京予防クリニック院長として内科疾患や脳神経疾患、予防医療を中心に診療している。
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、抗加齢医学専門医。日本認知症学会、日本内科学会などの各会員。

「脳出血」とは?

脳の血管の病気には血管が詰まる病気と血管が破れる病気とがありますが、脳出血は血管が破れることによって脳内に出血が起こってしまう状態です。
脳出血は1950-1960年頃までは、人口10万人あたり200人超と脳卒中の中でも死亡率の高い病気でした。高血圧が原因であることから、血圧管理などを中心に治療することで徐々に発症頻度は下がり、近年では脳梗塞の3分の1程度の発症率、人口10万人あたり10人程度の死亡率となりました。しかし、一度発症してしまうと後遺症にも悩まされるため発症予防が非常に重要です。
はじめに、誤解ないようにお伝えしておかないといけませんが、前兆となる症状を「その症状が出現した時点で治療介入を行うことで病気の発症を防ぐことができる」という意味で捉える場合には、脳出血にとって前兆となる症状はほとんどありません。なぜなら、症状が出現した時点で脳出血を発症していることを意味するからです。
ただし、発症の一歩手前で治療介入を行うことで脳出血を食い止めることにつながることはありますので、そのようなケースを含めて解説したいと思います。

脳出血と脳卒中の違い

脳卒中は、脳の血管の障害によって起こる脳出血や脳梗塞、くも膜下出血を総称したものです。
脳の血管が詰まると脳梗塞になり、脳の血管が破れてしまうと脳出血やくも膜下出血が起こります。
脳の血管が詰まる、破れるという分類ではなく、出現する神経症状で分類すると、脳梗塞と脳出血は類似しているのですが、くも膜下出血とは異なります。
脳梗塞と脳出血はともに脳内組織が壊れてしまう病態であるため、どちらも手足の麻痺やしびれ、めまいや頭痛、ろれつが回らなくなるなどの症状が現れます。症状からだけでは判断がつかず、画像検査で診断します。なお、脳内には痛みを感じる神経がないので激痛(頭痛)はほとんどありません。
一方で、脳の表面には痛みを感じる神経がありますが、くも膜下出血は脳組織の表面にあるくも膜下腔という空間に出血するので、痛みを感じる神経が刺激されて激しい頭痛の症状が現れます。また吐き気や嘔吐も多く見られます。
くも膜下出血の出血の仕方によっては脳出血も合併することがあり、その際には激しい頭痛と手足の麻痺症状のどちらも出現することがあります。

脳出血の前兆となる初期症状

前述のように、脳出血は突然起こるため前兆となるような症状はほとんどありません。前兆という用語を使って良いのか悩ましいのですが、下記のような症状があった場合にすぐに受診すると、発症の一歩手前で治療介入を行うことで脳出血を予防することにつながります。

物が二重に見える、目の充血、目の突出

目の奥にある血管である海綿静脈洞という、脳や目から返ってきた血液が流れこむ場所があります。この部位と周りの動脈との間に異常なつながりができる、海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻という病気になると、目が充血したり、物が二重に見えたり、目が前側に突き出てくる症状が現れます。
なお、硬膜動静脈瘻は、脳血管のいろいろな部位にできる可能性がある病気です。上記の海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻は、海綿静脈洞部にできる硬膜動静脈瘻ですが、耳の奥の部位や後頭部などにも発症することがあります。
硬膜動静脈瘻では、通常の血流の動きと異なる病態が起こるため脳組織へのダメージとして脳浮腫や脳出血も伴うことがあります。脳浮腫が起こる場合には頭痛や嘔吐などが起こります。耳の奥の血管で硬膜動静脈瘻を発症すると、持続する耳鳴りを発症することもあります。この病気が見つかった段階で治療を行うことで脳出血の発症を食い止めることができる可能性があります。

言葉が出ない、片側の手足のしびれ

運動している時やトランペットを吹いている時などたくさん呼吸する(過換気状態の)時に一時的に言葉が出なくなったり、片側の手足がしびれたりするような場合はもやもや病の可能性があります。この病気は内頸動脈から伸びる脳血管が先細りして細く複雑に広がっており、それをCT画像やMRI画像でみると煙のようにもやもやしていることから名付けられました。
血管が異常に細くなっているため、脳への血流が乏しくなり重篤な場合は脳梗塞を起こします。また、もやもや病は幹(みき)となるべきメインの血管が細くなる影響で、側副血行路という本来は非常に細いはずの枝分かれした血管が太くなる現象がおきます。この無理に太くなって頑張っている血管(側副血行路)は破裂しやすく、脳出血の原因にもなります。子供は脳梗塞を発症しやすく、成人では脳出血を起こしやすいと言われています。
原因となる遺伝子も見つかっていますが、遺伝しやすいというわけでもなく、原因不明の病気です。言葉が出づらくなったり、片側の手足の感覚に違和感を感じたりする場合には、脳神経内科もしくは脳神経外科を早めに受診しましょう。

脳卒中の前兆となる初期症状

脳卒中の前兆となる症状をご紹介します。下記は代表的な症状に留めているので、いつもと比べておかしいなと感じた場合には脳卒中を疑い、すぐに脳神経内科もしくは脳神経外科を受診してください。

片側の手足の麻痺

脳梗塞の前兆として、一過性脳虚血発作(TIA)という症状があります。このTIAでの典型的な症状として、一時的に片側の手足の麻痺が出現することがあります。数秒で元に戻ることもあれば何時間も症状が続いてしまうケースもあります。
TIAも脳の血管が詰まり一時的に脳に血が届かなくなることで発症するものです。脳梗塞になりかけたと言えるため、この時点ですぐに医療機関を受診し脳梗塞の予防について医師と相談しましょう。

言葉が出ない、喋りづらい

一過性脳虚血発作(TIA)の症状で見られますが、言葉が出てこなかったり喋りづらかったり、呂律が回らないなどという言語障害が出現することがあります。これは、手足の麻痺と一緒に出現することもあります。しばらくすると症状はなくなり元通りの様子に戻りますが、TIAは血管が詰まってしまうという脳梗塞と同じような病態であることから、早く治療介入する必要があります。

片側の感覚障害

こちらもTIAの症状として、半身の感覚が鈍くなったり、異常な感覚を訴えたりすることもあります。感覚障害には触ったことがわからなくなったり、逆に過敏になってしまったりする触覚異常、物の温度がわからなくなる温痛覚異常、真っ直ぐ立っていられなくなる深部感覚異常などさまざまな種類があります。

頭痛

くも膜下出血の前兆として約2割の人が頭痛を経験します。これは警告頭痛と呼ばれ、破裂寸前の脳動脈瘤から少しだけ血が漏れる(マイナーリークする)ことで症状が出現します。この漏れの後、破裂せずに小さな穴が自然に塞がることもありますが、脳動脈瘤が完全に破裂してしまえば、そのまま本格的なくも膜下出血へと移行してしまいます。
警告頭痛はそれほど強い頭痛ではなく、その性状は片頭痛のようにズキンズキンと痛むケースもあり、様子見して良いものかどうか判断するのが非常に難しいです。突然の頭痛であること、悪心・嘔吐、めまい、意識状態の変化、視力障害といった合併症が起こりうることが警告頭痛かどうかのヒントになります。
いつもと違う頭痛であったり、頭痛に加えてこれらの症状が出てきたりした場合はすぐに医療機関を受診しましょう。くも膜下出血発症前の脳動脈瘤を確認するには頭部MRIや造影CT撮影が必要です。

すぐに病院へ行くべき「脳出血の前兆」

ここまでは脳出血の前兆となる症状を紹介してきました。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。

徐々に悪化する頭痛症状の場合は、脳神経外科へ

徐々に悪化する頭痛がみられた場合には、脳浮腫(脳のむくみ)による症状である可能性もあります。硬膜動静脈瘻では血管の異常によって動脈や静脈の血流動態に問題が生じるために脳浮腫を起こしていることもあります。これを放置すると脳浮腫の悪化や脳出血を起こす可能性があります。
対応策として、画像診断を行って異常血管病変を処置する治療を行うことで回復することが期待できますので、すぐに脳神経外科を受診することをお勧めします。

受診の目安となる「脳出血の前兆」のセルフチェック法

・頭痛、嘔吐がある場合

・手足に力が入らない、しびれが出現した場合

・ろれつが回らない症状がある場合

脳出血の治療法

脳出血の治療のポイントは、血圧を適切な値に保つことです。その他にも、脳出血の原因ごとに適切な治療法がありますので、ここからご紹介していきます。

血圧管理

脳出血が発症したばかりの段階、いわゆる急性期には、血圧が非常に高くなっています。そのため、血圧を下げる薬を使い、血圧を適切な値(収縮期血圧140mmHg未満)にまで下げることが推奨されています。血圧を下げることで出血がさらに増えないようにします。

血腫除去

脳の出血が大きい場合や、血腫がある部位として手術が可能な場合には血腫(血の塊)を取り除く手術が行われます。この治療の重要なポイントは、脳出血による症状の改善を目的としていないことです。血腫が周りの正常脳組織へ圧迫することで二次的な脳損傷を起こすことがあるので、この二次的な脳損傷を予防する目的で行う手術です。
血腫除去手術を行うことで症状が改善することは期待できませんが、ベッドでの寝たきりの時間を減らしてリハビリ治療を早く進めることができるというメリットはあります。血液をサラサラにする治療薬をもともと飲んでいる場合には血が固まりづらく、血腫除去術自体も非常に難しいので、血腫の場所や大きさ、意識状態、血の固まりにくさなどをはじめとした検査結果内容などを総合的に判断して手術を行うメリットが高い場合には考慮する治療です。

脳の異常血管病変の治療

脳出血の原因の多くは高血圧ですが、脳動静脈奇形や硬膜動静脈瘻などの脳の血管異常が原因であることも経験します。これらの異常血管病変に対しては、脳出血の発症予防あるいは再発予防を目的に治療を要します。大きさや部位によって、血管内塞栓術や手術、放射線治療を単独あるいは組み合わせて行います。

脳出血の前兆となる症状を予防する方法

脳出血の主な原因は高血圧です。そのため、まずは血圧を適切な値にする生活習慣が大切です。

塩分を摂りすぎない

塩分を取りすぎると、体内のナトリウム濃度が上がることで高血圧になるリスクが高まります。厚生労働省からは、成人の場合、男性では1日7.5g未満、女性では1日6.5g未満の摂取量が推奨されています。

禁煙・節酒

タバコのリスクとしては、脳卒中以外にも、がんや心臓病、慢性閉塞性肺疾患などがあります。そして、大量の飲酒も脳卒中のリスクを高めることがわかっています。1日1合程度、週に2日程度は休肝日を設けるようにしましょう。

運動を継続して行う

ウォーキングなど、軽い有酸素運動で体の血流をよくすることも脳出血の予防には効果的です。継続して行うことで効果が出るので習慣づけるように心がけましょう。

「脳出血の前兆」についてよくある質問

ここまで脳出血の前兆となる症状・予防法などを紹介しました。ここでは「脳出血の前兆」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

脳出血を発症しやすい年齢層はありますか?

村上 友太(むらかみ ゆうた)医師

脳出血は高血圧などの生活習慣病がある人に起こりやすいので、60~70代の中高年に多くみられます。ただし、頻度は低いのですが、若い世代でも起こる可能性はあるので、注意は必要です。

脳出血の前兆となる症状に体のしびれやめまいはありますか?

村上 友太(むらかみ ゆうた)医師

脳出血の前兆で体のしびれやめまいが出現することはほとんどないと思います。
脳出血の場合は脳卒中の症状が起きたら、その時点ですでに血管が破れて脳に出血しているため、それは前兆ではなく脳出血を発症している状態です。
なお、脳出血ではなくて脳梗塞の場合であれば、一過性脳虚血発作(TIA)という脳梗塞の前兆といえる病気があります。これは、脳血管が詰まりかけたけども再度開通して脳梗塞に至らなかった状態を指します。体のしびれなどの症状が一時的に現れますが元通りになります。

肩こりは脳出血の前兆となる症状に含まれますか?

村上 友太(むらかみ ゆうた)医師

脳の中の重要な血管であり首のあたりを走っている椎骨動脈の一部が裂けてしまう、椎骨動脈解離という病気があります。この病気では、首の後ろのつっぱり感や、肩こりのような症状が現れることがあります。脳出血となることは珍しいのですが、裂けた部分の動脈が破裂した場合にはくも膜下出血となり、解離した血管が閉塞した場合には脳梗塞となります。肩こりが治りづらい場合には、一度MRI検査を受けることも考慮すると良いでしょう。

編集部まとめ

脳出血は突然発症する病気です。
脳梗塞の前兆として知られる一過性脳虚血発作では、すぐさま予防治療を行うことで脳梗塞の発症を予防することができますが、脳出血ではそのような前兆はほとんどなく、症状が出現した時点で脳出血を発症しているというのが現実です。
記事内に紹介した硬膜動静脈瘻やもやもや病といった異常血管の病気は、放置すると脳出血に発展する可能性のある病気です。手足のしびれや頭痛などの症状があり頭部MRI検査を行ったところこれらの病気が見つかり、すぐに治療を行なってことなきを得たというケースはときおり経験します。これらは、脳出血の前兆というよりは脳出血の原因疾患として挙げられる比較的珍しい病気ですが紹介させていただきました。
手足や顔の力が入りづらい、しゃべりづらい、頭が痛いなど気になる症状がみられた場合には、すみやかに脳神経内科や脳神経外科を受診するようにしましょう。